1994年名工大大学院工学研究科博士後期課程修了、博士(工学)。同年通信総合研究所(現NICT )に入所。モバイル衛星通信などの 研究を経て、2004年より現所属。2002年より電気通信大学客員助教授。
UWB(Ultra-wideband )は、超広帯域の周波数幅にわたって、低電力密度の無線電波を用いて無線通信を行う技術です。使用される 周波数帯域幅は、3.1GHz以上の周波数帯域では500MHz以上に達します。UWB技術を用いた無線装置は輻射電力が規定の許容値以下で あれば、無線局免許を必要としません。また、低送信電力のためCMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)技術による 小型化、低消費電力化、および低コスト化ができるなどの利点があります。NICTでは、YRCに拠点を置くUWB結集型特別グループが 関連グループと連携し、国内複数の大学と25社以上の企業に呼びかけてUWBコンソーシアムを形成し、UWBの標準化推進および 技術研究開発を行っています。
UWB技術は無線パーソナルエリアネットワーク(WPAN; Wireless Personal Area Network)での利用が有力視されています。 利用法としては、近距離における高速通信を提供するものと、低速通信と高精度の測距・測位を同一の物理層(PHY)をもって 提供するものがあります。上記2つの利用法に対しては、IEEE802標準化委員会傘下の作業グループWG15においてタスクグループ "TG3a"と"TG4a"が設けられ、標準化作業に取り組んできました。同じ利用目的で設計された装置の仕様共通化を図り、異なる メーカで作った装置の相互接続を保障することが標準化作業の目的です。
TG3aでは2003年3月の会合で、標準化のための24件の提案があり、専門家による議論と投票を繰り返した結果、2003年9月の会合で 2つの提案に集約されました。1つはNICTとフリースケールなどによるDS-UWB(Direct-Sequence UWB )の提案で、もう1つは インテルなどによるMB-OFDM(Multi-Band Orthogonal Frequency Division Multiplexing)の提案です。2つの提案は通信方式が 違うものの、共に伝送データレートとして110 - 480Mbpsが提供できます。図1にTG3aで想定されている高速WPANにおける アプリケーション例を示します。PCとその周辺機器間の高速データ転送と、TVおよびAV機器間のコンテンツストリーミング伝送が 主な利用形態となります。しかし、上記両提案の企業メンバーは標準化の議論に並行して、それぞれの提案に基づくチップセット 開発に乗り出していたため、両提案は歩み寄ることができず、2006年1月の会合でTG3aを解散する動議が採択される結果となりました。なお、両提案のそれぞれの技術は すでに実用化の段階に入っており、次の標準化へのアプローチが期待されています。
TG4aでは2005年1月の会合で26件の提案がありましたが、2005年3月の会合で全ての提案が一本化された後、2005年12月に標準規格 一歩手前のドラフト版が作られました。このドラフトには、NICTからの数多くの提案が含まれています。TG4aで想定されている メインアプリケーションの1つは、無線センサーネットワークです。また、通信と測距・測位(離れた地点間の距離測定や位置測定)が 同時に行えることで、セキュリティ、物流、医療などの分野における物品および人員の位置把握、管理、追跡といった利用に有効 です。図2にUWBを用いたホームセンサーネットワークのイメージ図を示します。ここでは室内、玄関、窓などに配置されている センサー付UWBノードが収集した情報を必要な位置情報と共に形成されているピコネット(端末同士を近づけたときに、端末の間で 一時的に形成されるネットワーク)を経由して室内制御端末に送ります。これらの情報は不審侵入者探知、自動温度・自動照明制御、 火災警報等に用いられます。上述したドラフトは2006年1月に作業グループWG15 の郵便投票で75% を超える支持を得ました。 現在、同ドラフトのアップデートを行っており、標準規格の最終成立を目指しています。
UWB結集型特別グループは上記UWB標準化作業において非常に重要な役割を果たすと同時に、UWBに関する研究開発を進めています。 任意のUWB信号の設計および送受信ができるUWB信号テストベッド構築を始め、ピコネット形成可能なユビキタスUWB端末やTG4aでの 提案に基づくチャープUWB送受信機など、数多くの研究開発成果を挙げています。研究開発例の1つとして、図3に通信と測距機能を 同時に備えたプロトタイプDS-UWB装置とシステムモニタ表示画面を示します。モニタ画面にあるノードA、B、C、DはDS-UWB装置を 表します。この中で、A、B、Cが異なるピコネットのコントローラとして振舞い、その位置を既知とします。また、Dが新たに 移動してきたノードです。Dは例えばUWB電波を利用して、A、B、Cとの距離を測り、一番近いと判断されるノードのピコネットに 参加することができます。また、A、B、Cとの距離から自分の所在位置を推定できます。
UWB技術は、これまで述べた利用例以外にも、様々な応用への期待が寄せられ、NICTとしても新たなアプリケーションの開拓と それに適したUWB技術の研究開発を続けています。一方、UWBの法的位置付けについて簡単に触れておきます。アメリカで 2002年にUWB無線装置の条件付無免許使用を許可したのに続いて、日本とヨーロッパもUWB無線装置の無免許での使用条件を定め、 近々それぞれ最終決定される予定です。こうした背景の中で、国際的にもUWB無線装置の普及拡大が加速されるに違いありません。