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ヴィジット 人類の安心と安全を守る“宇宙天気予報センター”
リポート1 「NICT委託研究成果に関する記者発表会」報告
リポート2 「JGN2シンポジウム2007 in 広島」開催報告
リポート3 技術移転に向けて 〜見えない電波を見る技術〜
探訪記

知っていますか?NICTの施設 人類の安心と安全を守る“宇宙天気予報センター”〜電磁波計測研究センター 宇宙環境計測グループ(東京都・本部)探訪記〜 width=

写真1:NICT本部の直径10mのパラボラアンテナ 写真1:通常は米・英・日の予報センターが、150万km上空にあるACE衛星から送られてくる情報を8時間交代で受信している。訪問当日、NICT本部の直径10mのパラボラアンテナはメインテナンス期間中だったが、ほぼ同じ経度にあるオーストラリアの予報センターから情報提供を受けてカバーされていた。
 1957年、世界初の人工衛星「スプートニク1号」打ち上げ。以来、技術開発・試験衛星、科学衛星、通信放送衛星、気象地球観測衛星など、およそ5,400機の人工衛星を打ち上げ、人類は宇宙を開拓してきました。そして今、スペースシャトルが行き来し、宇宙ステーションが建設される時代になっています。現在、宇宙空間で活躍する人工衛星等は、時価総額に換算して10兆円を下らないそうです。人工衛星1機が破損しても、600億円相当の損害になるというから驚きです。
 NICT本部(東京・小金井)には、そうした宇宙開発に不可欠な研究に従事する「宇宙環境計測グループ」の宇宙天気予報センターがあります。訪れたのは1月下旬、まるで、空の向こうに宇宙が感じられるほどの青空が広がる日でした。
宇宙天気予報とは
 最初に思い浮かんだのは、宇宙にも雨や雪の日があるのかという単純な疑問でした。当日、研究について説明いただいた宇宙環境計測グループ小原リーダーによると、宇宙天気予報とは、「太陽フレア、太陽プロトン現象や磁気嵐等の状況を把握し、その発生の事前予測を中心に宇宙擾乱を研究している」のだそうです。
 例えば、磁気嵐によって人工衛星の電子機器の損傷、電磁誘導による地上送電線の異常電流発生のほか、GPSを利用して航行する航空機や船舶も重大な影響を受けます。また、宇宙空間で作業する宇宙飛行士に健康被害の影響があるそうで、2000年7月の大規模な磁気嵐は、数十機にも及ぶ人工衛星に影響を与えたそうです。宇宙天気予報は、こうした「宇宙環境の擾乱に関する予報提供により人類の財産を守ること」が使命。宇宙天気予報のホームページを見るとわかりますが、24時間365日休むことなく宇宙の天気の観測と予報が続けられています。
世界が協力する観測ネットワーク
写真2 宇宙天気予報担当者が各種データをもとに当日の予報を出す。予報会議の様子。
写真2:宇宙天気予報担当者が各種データをもとに当日の予報を出す。予報会議の様子。

写真3 予報会議ののち担当予報者が当日の予報をホームページ上にも掲載する。
写真3:予報会議ののち担当予報者が当日の予報をホームページ上にも掲載する。
 宇宙天気予報センターでは、毎日午後2時30分から予報会議が開かれます(写真2)。予報担当者を中心にデータの検討が行われ、午後3時には国内外を合わせて1,000ヵ所に予報が出されます(写真3)。2007年2月現在、11年周期をもつ太陽活動は沈静化していますが、来年から活動期に入り、その極大期に向かいます。では、活発化した太陽活動が何を引き起こし、宇宙天気予報がどのような役割を果たすのか……。「2006年12月の太陽フレア発生の際、NICTをはじめ世界の宇宙天気予報センターが危険予報を発令し、船外活動中の宇宙飛行士は、5分後に機内のシェルター内に退避できました。7分後に放射線の増加が起きたのです。磁気嵐による放射線量は1ミリシーベルトには至りませんが、0.5ミリシーベルトであっても宇宙での被爆というのは人間にとって大変な脅威なのです」と話す小原リーダーは、2006年12月に観測された大規模な太陽フレアを例に解説しました。
 太陽活動の観測には、NICTとアメリカ海洋大気庁の宇宙環境センター等との国際協力事業で構築したACE衛星(Advanced Composition Explorer)の観測システムが利用されています。ACE衛星は太陽と地球の引力がつりあうラグランジュ点の近くで観測を行い、太陽風の津波を地球到達の約1時間前に観測することが可能です。このデータをもとにして日本有数のスーパーコンピュータが様々な宇宙環境シミュレーションを行い、的確な予報提供に役立てられています。
宇宙環境計測グループ小原隆博リーダー 宇宙環境計測グループ
小原隆博リーダー
 こうした宇宙天気予報センターは、宇宙天気予報の国際機関ISES(International Space Environment Service)に加盟する各国に設置されており、現時点で地球上に10ヵ所を数えます。米国コロラド州のボールダーに本部を置き、日本、オーストラリア、カナダ、ベルギー、スウェーデン、ロシア、ポーランド、チェコ、インドが協力して、いずれかの地域で太陽が地球の裏側に位置しているときも絶えることなく観測と予報が可能なネットワークが構築されています。
太陽フレアの影響
写真4 スーパーコンピュータによるリアルタイム宇宙環境シミュレーション(公開中)。左上より時計回りに、磁気圏の磁場、プラズマの圧力分布、ACE衛星による太陽風パラメータ、プラズマ温度の分布。
写真4:スーパーコンピュータによるリアルタイム宇宙環境シミュレーション(公開中)。左上より時計回りに、磁気圏の磁場、プラズマの圧力分布、ACE衛星による太陽風パラメータ、プラズマ温度の分布。
 2003年10月に発生した太陽フレアの観測では、X線強度でX5.4(Xは最上級クラスを意味する)に達し、過去30年で最大級のものでした。北海道でもオーロラが観測されたこの太陽フレアは、強烈な太陽風衝撃波が地球にぶつかることとなり、地球磁気圏を大きく圧縮して静止衛星軌道(36,000km)が磁気圏の外へ飛び出してしまいました。
 「このときは放射線の強度が増大し、日本上空の衛星も異常動作を引き起こしました。こうした事態が発生した場合、文部科学省の宇宙開発委員会に説明を行います。回復策はないかとか、いつ回復させたらよいのかといったことも諮問されます。 2003年の際は、一応、最悪の事態は逃れることができるセイブホールドという安全な状態に退避したのですが、 まだこの状況が1週間続くと予測されたため、その先に衛星の回復をオペレーションしていただくようにお願いしました」と小原リーダー。
宇宙観測の夢は広がる
写真5:NICT本部内に設置された新型スーパーコンピュータ。
写真5:NICT本部内に設置された新型スーパーコンピュータ。
 「いつかは太陽の裏側を観測してみたい」という願いが、世界の宇宙環境研究者の原点にあります。予報センターのモニターに映し出されたリアルタイム宇宙環境シミュレーション(写真4)は、NICT本部内のスーパーコンピュータによって処理された映像ですが、これは、地球の前面で観測した太陽風データが基本になっています。今後は、急速な進展を遂げるICTを活用したリアルタイムセンシングが研究の核となるといわれ、よりいっそう正確な予報を目指して、新しい観測衛星を太陽の裏側に向けて打ち上げたいそうです。
 宇宙空間の安心・安全は、すなわち地球上の人類の安全と安心につながります。それだけに、これからのNICT、宇宙天気予報センターの研究開発と活躍に期待が寄せられます。


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