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リサーチ

温室効果ガスを見張るリモートセンサー 二酸化炭素計測用レーザーセンサーの研究開発 電磁波計測研究センター 環境情報センシング・ネットワークグループ 水谷耕平

温室効果に最も影響が大きいCO2

化石燃料の大量消費や森林破壊による大気中の温室効果ガスの増大が地球温暖化を引き起こしていると考えられています。その中でもCO2は最も影響の大きな温室効果ガスです。人為的に排出されるCO2の6割が海洋や陸域で吸収されずに大気中に残り、その影響は100年にも及ぶと考えられています。CO2排出量を早急に半減しなければならないと言われる所以です。そのような削減策は大きな痛みを伴うものとなるので、できるだけ効率的にCO2排出削減を行う必要があります。効率的なCO2排出量削減策の策定には個別排出源・吸収源についての正確な推定・評価が必要となり、CO2濃度の空間分布を測定する技術が求められています。

NICTでは昼夜を問わず離れた場所からCO2濃度の空間分布を観測できるCO2計測用レーザーセンサーを研究開発しています。

図1

図2

波長2ミクロンのレーザーセンサーによる観測

NICTでは以前から風観測用のレーザーセンサーの開発を行ってきています。風観測用には目に安全な(目に当たっても危険性の無い)波長2ミクロンのレーザーを使っています。それがCO2の観測にぴったりの波長だったのです。この波長域にはCO2をはじめ、興味深い大気分子の吸収線があります。非常に短い時間だけ光るパルス状のレーザー光の波長をコントロールして、CO2の吸収の強い波長(オン波長)とその近くで吸収の無い波長(オフ波長)のパルスレーザー光を交互に大気中に送信します(図1)。大気中のエアロゾル(微粒子、塵など)で反射して帰ってきた受信光は、レーザー光を送信してからの経過時間に応じて、どこまで行って戻ってきた光かがわかります。さらに、オン波長では行き帰りの光路上のCO2による吸収により、遠方から返ってきた光ほど弱まります。オン波長での受信光の強さとオフ波長での受信光の強さを比較することにより、CO2の濃度分布を測ることができるわけです。この装置に使われているのは「Tm,Ho : YLFレーザー(YLFはLiYF4でリチウム・イットリウム・フロライドと読む)」と呼ばれるLD励起伝導冷却型固体レーザー(図1注参照)です。

2ミクロンの伝導冷却型固体レーザー発振器でNICTのレーザーほどパワフルな物はありません。

CO2濃度分布観測の現状と将来

図3は装置全体の様子です。装置は望遠鏡やレーザーを光学ベンチ上に組み上げたもので、小金井本部において観測を行っています。図4は水平方向1・5km先までのCO2の濃度分布を示しています。夕方から夜にかけて地表付近で高くなったCO2濃度が、昼間に大気の混合と植物の光合成の影響で低くなっています。このようにNICTの開発したレーザーセンサーにより、CO2の濃度分布を2km程度先まで観測できるようになりました。今後はもっと遠くまで、精度よくCO2の濃度分布を測れるように研究開発を進めたいと思っています。また、このままの装置では、別の場所へ持っていって観測したいときに、移動させるのが大変です。そこで、車や飛行機に搭載できるコンパクトな装置を開発する予定です。都市域のCO2濃度分布や、飛行機に搭載して日本列島やその周辺のCO2濃度分布の変化などが観測できると面白いと考えています。

図3

より使いやすい装置の開発をめざす

来年には地球全体のCO2分布の観測を行うための衛星が日本と米国から打ち上げられる予定です。これらの衛星に載る装置は自ら光源を持たないタイプの観測装置です。NICTで開発した二酸化炭素計測用レーザーセンサーによる衛星データの検証により衛星観測データの質の向上に寄与したいと考えています。また、開発した技術は将来の衛星搭載センサーの基盤技術になるものです。同時に、より小さく、操作の簡便な装置にして、NICTの開発した2ミクロンレーザーセンサー技術が多くの人に使われるようになることも目指しています。

図4


Profile

水谷耕平水谷耕平(みずたに こうへい)
電磁波計測研究センター 環境情報センシング・ネットワークグループ 研究マネージャー
大学院修了後、科学技術特別研究員等を経て、1993年通信総合研究所(現NICT)に入所。光計測、レーザーリモートセンシングなどに関する研究に従事。首都大学東京客員教授。理学博士。



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