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リサーチ

光通信は高密度伝送技術へ向かう 新世代ネットワーク研究センター 超高速フォトニックネットワークグループ 宮崎哲弥

20年間で1万倍増大した情報流通量

各家庭での光ファイバーアクセスサービスの加入者は1000万世帯を超え、国内インターネット情報流通総量(トラフィック総量)も1テラビット毎秒(1012=1000ギガビット毎秒)に迫る勢いで延び続けています。光ファイバー通信は光の点滅により「1」、「0」の2値デジタル情報信号を伝送する光強度変調方式を用いて今から20年ほど前に実用化されました。1989年に日米間の初めての光海底ファイバーケーブルによる国際通信サービスが開始されましたが、ファイバーあたりの情報伝送量は現在各家庭への光ファイバーアクセスサービスとほぼ同じ、わずか280メガビット毎秒(約108ビット毎秒)でした。情報流通量は過去20年間で1万倍近く増大したことになります。

限界に達した従来技術

急激なトラフィック需要増に対して、1本の光ファイバー中に異なる波長の光情報信号を束ねて(多重して)伝送する波長多重伝送方式、また、波長多重光信号を一括して光信号のままで中継増幅する光ファイバー増幅技術などが相次いで研究開発・実用化されてきました。

これまで1波長チャネルあたりの光点滅速度(ビットレート)の高速化と波長多重数を増大させることにより、トラフィック需要増に対応してきたわけですが、この従来技術のみでは追いつかなくなってきました。これは、ビットレート高速化のみに頼ると次の問題が生じることによります。

  1. 光ファイバー伝送中に光信号波形が歪みやすくなる。
  2. 1波長チャネルあたりの波長帯域が広がり、隣接チャネルと重なってしまい混信が生じるのを避けるため、チャネル間隔を広くとる必要が生じる。
  3. その結果、光ファイバー増幅器の限られた増幅帯域に所望の全ての波長チャネルを収容しきれなくなる、などです。

極めて重要な多値光伝送技術の研究開発

そこで情報を高効率で伝送する技術の開発が急務となりました。光の点滅のみの利用では1光パルス(1タイムスロット)あたり1ビットしか情報が送れないため、光の波の性質である位相(角度)にも情報を乗せて、1光パルスあたり2ビット以上のデジタル伝送が可能な多値光伝送技術の研究開発が極めて重要となっています。図1に示すように、90度ごとの4(22)通り(4値)の位相平面上の状態を利用して00、01、11、10のように情報を割り振ると、1タイムスロットあたり2ビットの情報を伝送することができ、より短時間で多くの情報を効率的に伝送することができます。

さらに、振幅と位相を組み合わせると16(24)値では4ビット、64(26)値では6ビットの情報を同一タイムスロット(同一帯域)で伝送することが可能となります(図2)。したがってトラフィック需要が急増してもチャネルあたりの帯域を保ったまま2倍、4倍、6倍……の情報信号を伝送することが可能となります。つまり、情報伝送容量あたり占有する帯域を1/2、1/4、1/6と圧縮することができます(帯域圧縮)。

位相雑音・波形歪み除去技術への取り組み

このような多値通信方式は携帯電話などの無線通信システムでは既に実用化されていますが、光ファイバー通信において特に16値以上の多値通信を実現するには幾つかの技術的課題を解決する必要があります。

ここでは当グループで取り組んでいる位相雑音・波形歪み除去技術について紹介します。

光波の振幅及び位相の両方を用いる多値光通信では多値度を上げるほど、情報を正しく伝送するためには光波の振幅及び位相のゆらぎ(雑音)を極めて低く抑えることが要求されます(図2)。そこで、騒音の激しい場所でも音楽を楽しむことのできるヘッドホンをヒントに、光波の雑音や波形歪みを除去する独自方式を開発しました。

図3に64値(6ビット/光パルス)多値光通信時の雑音・歪み除去技術の適用前・後の位相平面の様子の測定結果を示します。

超新星の爆発のような位相平面状態(コンスタレーション:星座)が、雑音・歪み除去技術を適用することによって、きれいな64個の星が輝いているような状態になり、正しく情報伝達可能になることを確認できました。多値光通信技術を波長多重光通信システムに適用することで、チャネルあたりの波長帯域を圧縮してより高密度な波長多重伝送が可能となります。そのため、波長帯域の効率的な運用が可能となり、トラフィック需要が急増しても伝送光中継増幅器を用いた中継伝送システムの消費電力の増大を抑制することが可能となります。

高効率な多値光通信の実用化には雑音・歪み除去技術に加えて、低雑音レーザー光源や高速低歪み変調器の開発など、まだ解決すべき課題が残されていますが、これらを連携させて着実に実用化につなげてまいります。

図1・2

図3

Profile

宮崎哲弥宮崎哲弥(みやざき てつや)
新世代ネットワーク研究センター 超高速フォトニックネットワークグループ グループリーダー
1987年東京工業大学大学院修士課程修了後、KDD(現KDDI)研究所入社。コヒーレント光通信、WDM光ネットワークの研究開発に従事。2002年通信総合研究所(現NICT)入所。2005年から現職。工学博士。



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