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ユニバーサルメディア研究センター特集

文化発祥の地にふさわしい新たなコミュニケーション技術に挑む けいはんな研究所長 ユニバーサルメディア研究センター長 榎並和雅

ユニバーサルコミュニケーションの実現を目指して

―けいはんな研究所の目指しているところをお話しください。

榎並 けいはんな研究所には2つの研究センターがあります。1つは知識創成コミュニケーション研究センター、もう1つはユニバーサルメディア研究センターです。コミュニケーションには距離とか時間とか言語など、さまざまな壁があります。両研究センターとも、その壁を取り除いて、これまでよりも心豊かに、もっとリッチな形でいろいろな人たちとコミュニケーションできるようにすることを目標にしています。これらを総称してユニバーサルコミュニケーションといっています。それからもう1つ、新世代ネットワーク研究センターで研究している新たな通信インフラ上に、どういうものを乗せるかというアプリケーションを構築する研究もけいはんな研究所に集中しています。けいはんな研究所は京都、大阪、奈良の府県境にあります。日本文化の発祥の地、日本人の心の発祥の地であり、人間や文化と向き合うユニバーサルコミュニケーションの研究にふさわしい場所といえます。

けいはんな研究所 外観

―ユニバーサルコミュニケーションを実現するには、人間的な要素をもっと研究しなくてはいけないということですね。

榎並 そうですね。今までの技術よりも、もっと心理的なものとか、言語学的、文化的なところを目指した研究をしなければいけません。心豊かなインターフェースを作るためには心理学者も要るわけです。それから脳科学者も必要です。ですから、いろいろな分野の人たちがここに集まっています。けいはんな研究所は2008年4月に発足した研究所で、知識創成コミュニケーション研究センターしかなかったところに、ユニバーサルメディア研究センターの私がおりました小金井のセンター長室や推進室など中核機能を持ってきました。今後、これらの研究センターが融合し、連携することによって、もっといい研究ができると思っています。研究者が一体感を持って明るく研究できるようにすることが私のミッションです。

―今後、どのようなコンセプトで研究を進めていきたいとお考えですか。

榎並 基本コンセプトは心豊かに、人と人、人と物の関係を大切にするということです。もう1つは、現在の世の中はエネルギーの節約のように、社会的な課題に対してマイナスをゼロにしようと一所懸命やっていますが、それだけでは発展しないし夢がありません。ゼロにするだけではなくて、更にプラスにしたいというのが私のコンセプトです。例えば今、世界にはいろいろな紛争があります。紛争のない世界を求めるだけでなく、全世界の人たちが文化交流して相互に理解し合える社会が実現すれば、世界はもっと豊かで明るくなります。そのために、ここでは今、言語の自動翻訳の研究をしています。現在、NICTでは平成18年からスタートした中期計画が半分まできています。次の中期計画が始まるときには、更にけいはんな研究所らしいビジョンを立てて、やっていきたいと思っています。

人間の五感と先端技術を融合した立体映像技術で世界をリード

―次にユニバーサルメディア研究センターのお話をお聞かせください。

榎並 人間の五感情報をできるだけ忠実に取得して超臨場感環境を実現するという研究をしています。例えば立体テレビを開発するには、2つの方向があります。1つは、立体像を忠実に再現する方向、もう1つは、見るのは人なので、その人に立体的に見えるような最適のシステムを作るという方向です。前者は小金井の研究グループが開発しています。けいはんな研究所では、後者を開発しています。

―人間の感覚を組み合わせたアプローチというのは、海外でもあまり例がないのではないでしょうか。

榎並 先日、ECのシンポジウムがあって、日本の状況を説明してきましたが、講演の後、質問や一緒に開発したいという要望が殺到しました。ヨーロッパよりも一歩進んで、ホログラフィや人間にふさわしい立体映像の研究を進めていることが反響を呼んだようです。日本が一番進んでいるかもしれません。2008年5月、総合科学技術会議がこれからの革新的な技術として15のテーマを決めましたが、そこに立体映像とか高度映像技術が入っています。日本は国策としてこうした技術を進めていこうとしています。

―立体映像のためのホログラフィ技術はどこまで進んでいますか。

榎並 昨年11月に、小さな画像ですが、カラーの動画で立体映像をリアルタイムに表現するシステムを発表しました。これを将来60インチぐらいのディスプレイで表示するには新しい表示デバイスが必要かもしれません。

―超臨場感通信のニーズはかなりあるとお考えですか。

榎並 あると思います。過疎地でも名医の手術を受けられるようにする遠隔医療とか、学校での危険な化学実験をバーチャルで行う教育用、あるいは遠隔会議などいろいろな用途が考えられます。

―けいはんな研究所の場合、基礎研究であっても、将来の社会への応用が必ず視野に入っているように思えますが。

榎並 基礎研究ではあるのですが、それが国民の皆様の役に立つことが必要なのです。それを理解していただくために、我々が取り組んでいる研究テーマが実現したら、どんな社会になるかを国民の皆様に紹介していきたいと思っています。また、それを通じて新しいビジョンが作られ、それが次の中期計画につながっていくと考えています。

けいはんな研究所発足式に集合した所員たち


榎並和雅 榎並 和雅(えなみ かずまさ)
けいはんな研究所長
ユニバーサルメディア研究センター長
東京工業大学卒業後、1971年NHK入局。2006年まで放送技術研究所にて映像信号処理などの研究や研究管理業務に従事、2004年同所長。2006年9月NICT入所、現在に至る。博士(工学)。



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