NICT NEWS
トップページ
-特集- 「文化発祥の地にふさわしい新たなコミュニケーション技術に挑む」榎並和雅
-特集- 「超臨場感システムの開発」井ノ上直己
-特集- 「人間は臨場感をいかにして感じているか」安藤広志
-特集- 「超臨場感をもたらす立体音響の研究」勝本道哲
-トピックス- 「韓国電子通信研究院と包括的研究協力に関する覚書に調印」
-トピックス- 「大阪大学と脳情報通信分野における基本協定締結」
-トピックス- 「通信・放送事業分野における事業支援について」
ユニバーサルメディア研究センター特集

超臨場感システムの開発 エンジニアリングと人の五感の両面からのアプローチ ユニバーサルメディア研究センター 超臨場感システムグループ グループリーダー 井ノ上直己

人の感性に働きかける超臨場感技術を目指す

―超臨場感システムグループでの研究について概略をお話しください。

井ノ上 私たちの超臨場感システムグループは、ユニバーサルメディア研究センターの中にあります。同じユニバーサルメディア研究センターの超臨場感基盤グループでは、いわゆる究極の映像あるいは音響の提示技術を研究していますが、私たちのところでは物理的に忠実というよりは「人がどのように臨場感を感じているのか」を考慮して臨場感を提示するシステムを研究しています。この中には映像や音だけではなく、触覚とか香りなども含まれています。五感情報を伝達するための研究と、人がどのように臨場感を感じているかを調べる研究、その両方をうまく組み合わせて研究開発をしているということになります。

―五感情報を伝達するための研究とは、具体的にはどのような研究になりますか。

井ノ上 五感を伝える研究でいうと、映像では立体映像の提示技術を研究しています。テーマパークなどに行くと特殊なメガネをかけると立体に見えるという装置があります。立体映像にはいろいろな方式があるのですが、私たちはそうした特殊なメガネをかけずに立体映像を見ることができる、空間像再生方式と呼ぶ方式を使った提示技術の開発をしています。音に関しては、5.1chサラウンドシステムなどの場合は、配置されたスピーカーの中でしか音は動かせませんが、これに対して我々はHRTF(頭部伝達関数)という音源から人の鼓膜までの音の伝達特性を関数で表現したものを利用して、人と音を出すものとの距離や方向を再現する立体音響技術を研究しています。また、この方式による立体音響提示技術を実用化レベルまでもっていきたいと考えています。触覚に関しては、PHANTOM(ファントム)という触覚を提示する装置がありますが、もう少し高度な触覚の提示をしたいということで、物をつかむという感覚で触覚を提示するような技術を研究しています。香りに関しては、提示技術が既に幾つか提案されているので、提示技術そのものではなく、香りが広がったときに人がどう臨場感を感じるかを研究しています。

―人が感じている臨場感をどうやって調べるのですか。

井ノ上 人間が臨場感をどう感じるかという評価を、心理的にあるいは脳活動を見るという方法で行っています。例えば、映像を見せると脳のどの部位が活性化するかをfMRI(機能的磁気共鳴画像法)で計測します。これはまだ実現できていないのですが、香りを感じたときの脳活動をfMRIの中で測るための道具なども研究しています。こうした道具を作ることも含めて、人間がどう感じているかを研究しています。

世界の最先端を行くNICTの超臨場感研究

―海外で同様の研究をしているところはあるのでしょうか。

井ノ上アメリカでは超臨場感という観点から研究をしているところはあまりありません。ヨーロッパには超臨場感に近いことを、エンジニアリング的な面と人間の感性面を合わせて研究している人たちはいます。立体映像のプロジェクトがあったり、五感研究のプロジェクトがあったりしますが、NICTのように総合的に研究しているというのは世界的にもあまりないと思います。

―世界的にも少ない上に、最先端を行っているということでもありますね。

井ノ上 そのとおりです。立体映像も我々が今試作しているものは、世界では類のないほど高い画質を出しています。

できるだけ早い時期の実現化を目指して

―研究の見通しはいかがでしょうか。

井ノ上 私たちは非常に基礎的な研究と実用化研究の両方を目指しています。基礎研究は行われるけれども、それが実際に産業界では使われないということがよくあります。いわゆる「死の谷」とよく言われますが、両者の間に大きな溝があります。基礎研究も大事ですが、私たちとしてはそこを埋めるというのも、ミッションの1つと考えています。立体映像や立体音響、触覚の技術も、ある程度実現してくると、やはり「死の谷」を埋める方向になってくると思います。裸眼立体映像については、今のプロジェクトが2010年度に終了するので、それまでにプロトタイプを作り、2012年ぐらいまでにフィールド試験を終えて実用化できればと考えています。

超臨場感システム

―その場合、企業の協力が大事になってくると思うのですが、NICTとしてどのような働きかけをしているのでしょう。

井ノ上 私たちだけでは「死の谷」を越えるのは難しいので、電機メーカーと一緒になって研究をしています。例えば立体映像ディスプレイについていえば、システム構成の提案、システム評価、品質高いコンテンツを表示するための情報処理技術などは私たちのところでやって、メーカーにハードウェアを作っていただくというように、分担をしています。

―立体映像の次は立体音響、そして触覚と、だんだん実用化が進んでいくことになりますね。

井ノ上 そう考えています。触覚はまだちょっと先になるかと思いますが、立体映像と立体音響に関しては、なるべく早期に実用化できるように研究を推進していきたいと考えています。

―ありがとうございました。

将来の応用例


井ノ上直己 井ノ上 直己(いのうえ なおみ)
ユニバーサルメディア研究センター 超臨場感システムグループ
グループリーダー
京都大学大学院修士課程終了後、1984年KDD(現、KDDI)入社。2006年より、情報通信研究機構に出向。KDDI研究所では、音声認識やグラフィック処理などのヒューマンインタフェース技術の研究開発に従事。博士(工学)。



独立行政法人
情報通信研究機構
総合企画部 広報室
広報室メールアドレス
Copylight National Institure of Informationand Communications Technology.All Rights Reserved.
NICT ホームページ 前のページ 次のページ 前のページ 次のページ