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世界初、広域ネットワークの自動構築に成功 - 管理が簡単で障害に強い。今後の新世代ネットワークに向けて大きく前進 - 光ネットワーク研究所 ネットワークアーキテクチャ研究室 主任研究員 藤川 賢治

背景

現行のインターネットで迂回経路を確保するため、企業やデータセンタ等の組織は、固有のアドレス空間(位置情報の集合)を確保し、複数の上流インターネットサービスプロバイダ(ISP)と接続します。その後、組織内のアドレス空間を含む経路情報を外部の上流ISPへ通知すると通信が可能となります。現在、そのように通知された経路情報の数は40万にも及び、障害時に機能しなくなる経路情報の発見に時間がかかり、迅速な迂回経路への切替えを妨げる要因となってしまっています(図1)。

迅速に迂回経路を確保するには、組織が固有のアドレス空間を利用するのでは無く、複数の上流からそれぞれ切出された複数のアドレス空間の割当を受ける手法が効果的です(詳細は後述)。しかし手動で設定が必要なアドレス情報が増え、運用管理における作業の複雑化や人為的ミス等が起きかねません。そのため、この手法は現在普及していません。

図1●広域ネットワーク障害時の経路切替
図1●広域ネットワーク障害時の経路切替(図をクリックすると大きな図を表示します。)

HANAの設計と実装

光ネットワーク研究所ネットワークアーキテクチャ研究室では、通信データの集中による過負荷や機器故障等によるネットワークの通信障害等に備え、複数の通信経路を設けるマルチホームネットワーク構成と管理の簡素化自動化、異種通信のサポートにより、信頼性を向上する高可用ネットワークの研究開発を進めています。

その一環として、これまでアドレスと呼ばれていたインターネットにおける位置情報を、ロケータとして再定義し、階層的・自動的にロケータを割当てる機構 HANA(Hierarchical and Automatic Number Allocation for locators)を設計し実装しました(図2)。これまでアドレスの自動割当はパソコンなどの端末にしか行われませんでしたが、HANAではそれらの端末に加えてルータやサーバにも自動的にロケータを割当てます。HANA は IPv4 及び IPv6 のアドレス体系に対応しており、更に将来新たなアドレス体系が定義された場合にも対応できます(ただし図2では、IPv4アドレスのみ表記しています)。

図2●HANAの概要
図2●HANAの概要(図をクリックすると大きな図を表示します。)

HANAでは、ロケータの上位部分(Prefix)は階層的に配布され、組織が複数の上流に接続していれば、複数のPrefixが割当てられます。ロケータの中位部分(Midfix)は、Prefixの割当状況と無関係に組織内で独自に割当てられます。パソコンやルータ、サーバ等は、ロケータの下位部分(Suffix)を決定し、割当てられたPrefixとMidfixと結合することでロケータを生成します。Prefixが複数割当てられれば、ロケータが複数生成されることになります。

組織が固有のロケータ(アドレス)空間を確保せず、接続するISPからロケータ空間の一部を切出しPrefixとして割当てられると、組織内の固有の経路情報が外部のルータに通知されなくなり、インターネットの経路情報が削減されます(図3)。更に組織が複数のISPと接続すると、指定する宛先ロケータによって異なる経路が利用できます。障害時には、利用する宛先ロケータを切替えるだけで、別の経路が選択できるので、迂回経路への迅速な切替えができます。組織内では複数のロケータを割当てる必要がありますが、HANAによる自動設定が可能なため、運用管理の手間が増えることがありません。

図3●複数ロケータ利用時の経路切替
図3●複数ロケータ利用時の経路切替(図をクリックすると大きな図を表示します。)

HANAによる広域ネットワークの構築

今回、新世代通信網テストベッドJGN-X上でHANAによって広域ネットワークを自動構築しました(図4)。自動構築された広域ネットワークは、実験室の模擬データセンタ、IPv4、IPv6ユーザ端末が利用できるネットワーク等から構成されます。パソコンのほか、これまで手動で設定していたルータやサーバにも、自動的に複数のロケータが割当てられます。各機器が複数のロケータを持つことで、障害発生時に有効な迂回経路を確保できます。

図4●HANAによって自動構築された広域ネットワーク
図4●HANAによって自動構築された広域ネットワーク(図をクリックすると大きな図を表示します。)

本成果を広域ネットワークの管理に利用することによって、自動化が図れ、運用管理における作業の効率が上がります。また迂回経路の確保が容易になり、障害に強い高可用ネットワークを構築することができるようになります。

なお、本成果のデモ展示を2012年6月13~15日に幕張メッセで開催されたInterop Tokyo 2012において行いました。

今後の展望

今後、HANAによって構築されたネットワーク拠点を増やし、より広域なネットワーク及び大規模なデータセンタにおいても適用できることを実証していきます。また当研究室で研究・開発しているID・ロケータ分離機構HIMALIS(Heterogeneity Inclusion and Mobility Adaptation through Locator ID Separation)との統合を進め、複数ロケータを積極的に活用した経路選択手法を確立する予定です。

藤川 賢治 藤川 賢治(ふじかわ けんじ)
光ネットワーク研究所 ネットワークアーキテクチャ研究室 主任研究員

大学院修了後、1997年京都大学大学院助手、2006年ルート株式会社主任研究員を経て、2008年、NICTに入所。新世代ネットワークアーキテクチャに関する研究に従事。
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