NICT NEWS
情報バリアフリー実現に向けて CASE1 「字幕番組、解説番組等制作促進助成金」活用 KBC 編成局 テレビ編成部 部長 臼井 賢一郎氏 字幕センター 制作部長 古賀 晃氏

NICTでは情報バリアフリーの実現に向け、各種助成制度に基づく事業支援に取り組んでいます。助成制度をより多くの方にご理解・ご活用いただくため、制度を活用して通信・放送サービスを提供している企業・団体の活動を紹介します。

「地域に根ざしたメディアとして、地域の皆様に有益な情報をお伝えするのが私たちの責任」と字幕放送番組に意欲を燃やす九州朝日放送株式会社(以下: KBC)編成局 テレビ編成部 部長・臼井 賢一郎氏と、KBCの番組の字幕を制作している株式会社九州字幕放送共同制作センター(以下: 字幕センター)制作部長・古賀 晃氏にお話を伺いました。

―それぞれの会社の事業概要を教えてください

臼井: 当社は今年で創立60周年のラジオ・テレビ放送事業者であり、株式会社テレビ朝日の系列局です。放送受信エリアは福岡と佐賀の全県、大分・熊本・長崎・山口県の一部で、世帯数に換算しますと約286万世帯の皆様に番組をお届けしています。

古賀: 当社は九州初の字幕放送用字幕データ制作プロダクションとして、2004年12月より営業を開始しました。九州電力株式会社の特例子会社であり、6名の障害のある方が字幕制作を行っています。九州をはじめとした各地域の放送局より放送前の映像をお預かりし、年間300時間弱の番組に字幕を付けております。

―KBCではいつ頃から字幕放送番組を制作されているのでしょう?

臼井: 字幕放送に取り組むようになったのは2004年に制作した「アジアへGO!」という番組からです。社内でもテレビ朝日サイドでも字幕放送制作に対する機運が高まっていた時期であり、まずは視聴者の多い全国放送で始めてみようということになりました。当時はまだ、九州に字幕制作を行える会社がなく、東京の字幕制作会社に依頼しましたが、その後、字幕センターが設立されてお願いするようになりました。

―どのような番組に字幕を付けているのですか?

臼井: 現在、収録番組について字幕放送を行っています。ブロックネットで毎週放送するレギュラー番組2本と、年に2本制作する全国ネットの番組に字幕を付けており、これらの番組の字幕制作について助成を受けています。

―字幕放送番組はどのように制作されるのですか?

臼井: 番組の種類によって少々制作方法が異なるのですが、基本的には当社で制作した番組のDVDを字幕センターへ搬入し字幕を制作してもらい、そのデータを受け取って、当社の機械で映像と字幕を重畳させオンエアします。番組の長さにもよりますが、大体1〜2日で字幕を制作していただいています。

重畳の手順は、テープで上がって来た番組素材と字幕データの入ったフロッピーディスクを機械にセットし(図1)、番組サーバに入力する過程で重畳します。放送用の映像にはタイムコードが付加されており、字幕データにもこの情報が記録されています。字幕センターのスタッフは、DVDに焼き込まれたタイムコードを確認しながら字幕を制作してくれています。また、表示の位置や文字の色についても既に字幕センター側で調整していただいておりますので、当社では主にCMに入る場面で字幕が消えているか、文字間違いがないか、などをチェックしています。

図1 映像素材テープと字幕データのディスクを機械にセットしている様子
図1 映像素材テープと字幕データのディスクを機械にセットしている様子

―字幕はどのように制作されるのですか?

古賀: 放送局から搬入されたDVDを、字幕制作ソフトが扱えるデータに変換し、サーバにアップします。担当のスタッフはそれぞれ受け持ちの作品にアクセスし、聴き起こしで文字を打ち込みます。スタッフによって作業の仕方は若干異なりますが、音声を聴いて文字を打ち込み、タイミング・配置・色を調整するという作業を繰り返し行います。

15分程度の番組であれば1名で制作しますが、それより長い番組では複数名で分担します(図2)。1時間の番組では3〜4名体制での制作が多いです。その際、事前に制作ルールなどを打ち合わせておくことで、個々のスタッフの制作物の統一が図られ、最後に映像を取りまとめる者がスムーズに作業を行えます。

字幕が完成したら、字幕を制作したスタッフ以外で試写を行います。複数の者の目でチェックをすることで、ミスをできるだけ防いでいます。

図2 字幕入力作業の様子
図2 字幕入力作業の様子

―字幕制作ではどのような工夫をされているのでしょうか?

古賀: いかに番組の内容を伝えるか、に重点を置いて制作しています。放送規格では字幕には12種類の文字色を使えますが、アナログ放送時代から主に4色しか使われておらず、現在でも最多4色で制作しています。番組の中でメインの方には最も見やすい黄色、2番目の方にはシアン、3番目の方にはグリーン、その他の方には白を使います。バラエティ番組など大勢の方が出演される番組では、どの話し手が話した言葉か分かりづらくなる場合があるため、セリフの頭に出演者のお名前を付けることもあります。また、テロップや出演者の顔・口元などに字幕が被らないよう配置を工夫します(図3)。1場面の文字数は最大31文字とし、読みやすい文節で改行したり、スペースを取って読みやすくしたりしています。字幕の表示時間は洋画が1秒間に4文字で作られておりますので、それを基準にしています。

また、放送局によって片仮名の表記や使用する記号、色などの仕様が異なります。そのため、各放送局からいただいた要望やルールを、スタッフ一同が確認できるようにリスト化し管理しています。

業務時間につきましても、基本は朝9時から夕方6時までですが、早番や遅番を導入し、必要なときは休日出勤を行うことで、放送局の希望の納期にお応えできるような体制をとっています。

図3 字幕位置や文字のスペースを丁寧に調整
図3 字幕位置や文字のスペースを丁寧に調整

―字幕放送番組を制作していく上で、どのようなことが課題でしょうか?

臼井: 地元を取材したニュース番組などにも字幕を付けたいのですが、その場合放送時に字幕を制作・付与するリアルタイム字幕放送になります。リアルタイムに字幕を制作できる人材は引っ張りだこで、全く足りていない状況です。現状、実施できているのは東阪の放送局だけではないでしょうか。そのため、系列内あるいは在福岡各局で共同で実施できないか、様々な可能性を検討しています。2〜3年の間にまずは短いニュース番組で実施できるようにしたいと考えています。

古賀: リアルタイム字幕につきましては私どもも1番の課題であると考えています。リアルタイム字幕は3〜4人1組のチームがいくつか必要となりますので、現状の制作体制では人数が足りません。また、高速入力は特殊技能ですので訓練が必要となります。東京の先行会社とも情報交換しておりますが、事業開始までには1〜2年の準備期間が必要だと考えています。

―今後の抱負をお聞かせください

臼井: 地域の皆様に有益な情報をお伝えすることが当社の存在意義ですので、たくさんの視聴者に楽しんでいただける番組づくりを行っていきたいです。字幕放送のより一層の充実を図るためにも、引き続き字幕センターとの連携の下、字幕放送の普及に向け活動していきたいです。

古賀: まずは全ての収録番組に字幕を付けたいと考えています。そして臼井さんにもおっしゃっていただいたように、放送局と連携しながら、リアルタイム字幕制作についても取り組んでいきたいと思います。

―ありがとうございました。

字幕番組、解説番組等制作促進助成金とは

字幕番組、解説番組等制作促進助成金とは

視聴覚障害者がテレビジョン放送を視聴するために不可欠な字幕番組、解説番組および手話番組を制作する事業者に対して、字幕等を付与するための追加的な経費の2分の1(在京キー5局の字幕番組にあっては8分の1、在阪準キー4局の字幕番組にあっては6分の1。ただし、生字幕番組については2分の1)を上限として助成するもので、例年2月に公募を行います。

交付対象となるためには、①当該年度に放送される番組であること ②視聴覚障害者がテレビジョン放送を視聴するために不可欠な放送番組である字幕番組、解説番組および手話番組を制作する放送事業者であること ③字幕、解説音声および手話を付与するための追加的な経費をスポンサーなどが負担していないこと(放送事業者により例外有)、など所定の用件を満たすことが必要です。なお、視聴年齢制限付き番組は助成の対象になりません。

助成金の交付を希望される事業者は、所定の様式に沿って申請書を提出してください。当機構で申請内容を審査し、必要に応じて実態調査を行い、助成金の交付を決定します。

事業終了時に実績報告書を提出いただき、当機構で検収後、助成金をお支払いします。

助成内容・事務手続きなどについての詳細はこちら
TEL: 042-327-6022 FAX: 042-327-5706 E-mail:
https://www2.nict.go.jp/ict_promotion/barrier-free/102/index.html

独立行政法人
情報通信研究機構
広報部 mail
Copyright(c)National Institute of Information and Communications Technology. All Rights Reserved.
NICT ホームページ 前のページ 次のページ 前のページ 次のページ