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本格運用間近!人工衛星搭載二周波降水レーダ

はじめに

宇宙から地球を見ると「青い地球」とよばれるように、地球表面は約7割が海で水に覆われています。しかし、水資源として、私たちの生活を支えてくれているのは、海洋の水ではなく、雨、雪として大気からもたらされ陸上に降り注ぐわずか0.3%の淡水です。また、自然災害の約60%が過剰な降雨や降雪(これらをあわせて降水とよびます)による豪雨や洪水に原因があるといわれています。降水活動は、生活を支える「貴重な水資源」であると同時に生活を脅かす「危険な災害要因」としての二面性を持っています。私たちの生活に大きな影響を与える降水活動について、人工衛星を使って全球規模で観測しようというのが全球降水観測計画(GPM: Global Precipitation Measurement)です。

降水レーダとマイクロ波放射計

GPMでは、降水状況の立体的な3次元観測が可能な降水レーダと、地球表面や大気から放射される微弱なマイクロ波帯電波を測定することで水蒸気や雲、降水、海面水温などの観測を行うマイクロ波放射計を同時搭載したGPM主衛星と、マイクロ波放射計を搭載した副衛星群による観測データを組み合わせることで、地球全体の降水状況を高精度かつ高頻度(3時間ごと)に観測し、降水マップを作成します(図1)。降水レーダは降水分布を詳細に、高さ方向も分解して観測することで、降水マップの高精度化を実現する役割を担っています。一方、マイクロ波放射計は、2次元の面的な観測しかできませんが広範囲な観測が可能で、高頻度に降水マップを作成する役割を担っています。

図1 全球降水観測計画(GPM)の概念図(JAXA提供)
図1 全球降水観測計画(GPM)の概念図(JAXA提供)
主衛星と副衛星群

GPM主衛星は日米共同で開発された衛星で、2014年2月28日に、H-IIAロケット23号機で打ち上げられました。GPM主衛星には、NICTと宇宙航空研究開発機構(JAXA)が共同開発した二周波降水レーダ(DPR: Dual-frequency Precipitation Radar)と、米国航空宇宙局(NASA)が開発したマイクロ波放射計(GMI: GPM Microwave Imager)が搭載されています。レーダとマイクロ波放射計の2つのセンサで同時に降水状況を観測することで、副衛星群に搭載されているマイクロ波放射計の降水観測データを校正し、観測精度を向上させることが主衛星の大きな役割です(図2)。GPM主衛星の軌道は、傾斜角が65度で熱帯域から中高緯度域までを観測します。さらに太陽と非同期のため、降水の日変化も観測できます。地球を約90分で1周し、1日に15〜16回、周回して降水状況を観測します。

図2 GPM主衛星による降水観測の概念
図2 GPM主衛星による降水観測の概念

二周波降水レーダ

二周波降水レーダ(GPM/DPR)は、GPM主衛星に搭載された降水観測レーダで、1997年に打ち上げられた熱帯降雨観測衛星(TRMM)に搭載された世界初の衛星搭載降雨観測レーダ(TRMM/PR)の後継レーダです。TRMM/PRは、現在も軌道上で運用されており、熱帯域の降雨分布を陸上・海上の区別なく、均質な精度の観測を実現し、地上レーダでは観測できない海洋上の発達初期の台風内部の立体的な降雨分布を観測するなど、全地球的な気候メカニズムの解明に資する多くの新たな知見をもたらしてきました。二周波降水レーダの大きな役割の1つは、TRMM/PRでの成功を熱帯域から中高緯度にまで拡大することです。その実現のために、GPM/DPRでは、Ku帯レーダとKa帯レーダという異なる周波数を利用する2つのレーダから構成されています。2つの周波数を利用することで、降水による電波の散乱・減衰の周波数による違いを利用し、降水強度推定の高精度化、及び降水の相の判定(雨のような液体降水か、雪などの固体降水の識別)を行い、多様な中高緯度の降水についての詳細観測を行います。表1にGPM/DPRとTRMM/PRの性能を示します。KuPRはTRMM/PRの改良型で、送信出力の増加によって感度向上を実現しました。KaPRは、波長が短いKa帯を新たに使うことによって感度を向上させたモードと、KuPRと同時に同じ観測体積を測定し、二周波法による降水減衰補正による降水強度推定の高精度化を行うモードの、2つの観測モードがあります。

表1 GPM主衛星搭載二周波降水レーダ(GPM/DPR)と
TRMM搭載降雨レーダ(TRMM/PR)の主要な性能
  GPM/DPR TRMM/PR
KaPR KuPR
方式 アクティブフェーズドアレイ(128素子)
周波数 35.55GHz 13.6GHz 13.8GHz
尖頭送信出力 146.5W 1012.0W 616W
観測幅 125km 245km 215km
水平分解能 5km 4.3km
距離分解能 500m 250m 250m
観測高度範囲 地表面から19kmまで 地表面から15kmまで
最小観測降水強度 0.2mm/h 0.5mm/h 0.7mm/h
寸法(m) 1.4×1.2×0.8 2.5×2.4×0.6 2.2×2.2×0.6
質量 324.0kg 429.9kg 464.87kg
消費電力 314.8W 423.1W 217.1W

GPM/DPRの観測画像

図3は初期機能の確認試験で得られた観測画像の例です。2014年3月10日22時39分頃、GPM主衛星は日本の約2,000kmの東方海上で発達した温帯低気圧を観測しました。この低気圧は、3月8日に沖縄近海で発生した後、日本の南方沖合を北東方向に進み、3月10日夜頃には、中心気圧976hPaと台風並みに発達しました。日本列島は西高東低の強い冬型の気圧配置で、3月にもかかわらず真冬並みの寒さとなり、北海道では大雪になりました。

図3は雨の強さを表し、左図は地表付近の水平断面を示しています。左図の低気圧中心付近の、北西から南東方向に伸びる帯状の強い雨域、それを横切るA地点−B地点の鉛直断面が右図です。右上図がKuPRの観測結果で、A地点から250-700kmの距離にある強いエコー(赤色)の高さが、北側にあるA地点に向けて低くなる傾向がよくわかります。右下図のKaPRの観測結果は、エコーの高さが低くなる傾向は同じですが、地表付近の低い高度で、エコーが弱く(黄色から緑色)なるのが違います。これはKu帯に比べKa帯の電波が雨による減衰が大きい効果で雨の高さが北側に向けて低くなる様子がわかります。また、この様子から、A地点から200km以内では雪が降っていたこともわかります。

図3 GPM主衛星搭載二周波降水レーダ(GPM/DPR)観測画像(JAXA/NASA提供の原図に着色・編集)
図3 GPM主衛星搭載二周波降水レーダ(GPM/DPR)観測画像(JAXA/NASA提供の原図に着色・編集)(図をクリックすると大きな図を表示します。)

おわりに

2014年3〜4月に予定されている初期機能の確認期間終了後、2014年5月から二周波降水レーダは定常的な観測を開始します。NICTでは、二周波降水レーダの外部校正実験を実施することで、レーダの性能確認や経年変化をモニターすると共に、二周波降水レーダの観測データとそれを導出するためのアルゴリズムについての地上検証を行います。観測データの直接的な検証は、NICTの沖縄電磁波技術センターに設置されているC帯の降雨レーダ(愛称 COBRA)や、2014年3月に完成したX帯のフェーズドアレイ気象レーダ・ドップラーライダー融合システム(愛称 PANDA: Phased Array radar Network Data system)の同期観測により、また、アルゴリズムの検証については、上空の雪や氷が融解して雨となる融解層内の降水粒子の詳細な観測を目的とした気球観測により行う予定です(図4)。

図4 二周波降水レーダ(GPM/DPR)の地上検証
図4 二周波降水レーダ(GPM/DPR)の地上検証

花土 弘 花土 弘(はなど ひろし)
電磁波計測研究所 センシングシステム研究室 研究マネージャー

大学院修士課程修了後、1989年、郵政省通信総合研究所(現NICT)に入所。2004-2007年、DPR開発でJAXAへ出向。マイクロ波リモートセンシングの研究に従事。
中川 勝広 中川 勝広(なかがわ かつひろ)
電磁波計測研究所 センシングシステム研究室 主任研究員

大学院博士課程修了後、1998年、郵政省通信総合研究所(現NICT)に入所。2006-2008年、DPR開発で米国航空宇宙局に長期出張。マイクロ波リモートセンシングの研究に従事。博士(工学)。
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