第2・第3世代携帯電話や無線LANの急速な普及を背景にして、 第3世代以降のモバイルネットワークに関する関心が世界的に高 まっています。NICTが発足する以前は、旧CRLで新世代モバイ ル研究開発プロジェクト、旧TAOで第4世代移動体通信システム 実現のための研究開発(委託研究)をそれぞれ実施していました が、NICT発足とともに、両者を連携させるためのユニットを組織 しました。本ユニットでは、単独の企業や事業者の範囲を超え、新 しい概念にもとづく新世代モバイルネットワークを提案し、試作お よび技術実証をすることにより、総務省が提唱しているu-Japan の方針を強力にサポートするとともに、世界に対する競争力蓄積 をめざしています。
本ユニットは、ユニット長のもと、無線通信部門(旧CRL)の3グ ループ、研究開発推進部門(旧TAO)の2グループおよびそれら を統括する統括リーダー、ならびにプロジェクト推進室で構成され ています。プロジェクト推進にあたっては産学官の連携を強化す るため共同研究、委託研究等による連携先で構成されるコンソー シアム(約20機関)、また外部有識者による助言を得るためのサ ポートメンバー会議(委員約20名)を組織し、毎年1回の会合を 開催してきました。さらに両部門にまたがる連携を強化するため、 第4世代移動通信システム研究開発連絡会を定期的に開催して います。
第3世代携帯電話以降のモバイルネットワークは、新世代と呼 ばれたり第4世代と呼ばれたりしています。英語ではBeyond 3Gとも呼ばれています。これについては通信事業者を中心に、よ り高速・大容量な携帯電話システムの実現をめざしてさまざまな 検討が進められていますが、NICTが提唱する新世代モバイルネッ トワークは、携帯電話に限定せず、無線LANや異なる世代・種類の ネットワーク、異種の携帯電話・情報端末などを途切れなく(シー ムレスに)ハンドオーバでき、かつ高度なセキュリティ機能を備え、 トラフィックの集中回避も可能な無線ネットワークの実現をめざし ています。この概念は、従来の「量」を中心としたネットワークから 「質」を中心としたネットワークへのパラダイムシフトを図りつつ 至るところに偏在するさまざまなデバイスがIPを中心とするネット ワークを介して相互に接続されることを意味しています。
こうしたネットワークの実現のための要素技術として、NICT横 須賀無線通信研究センターでは、トラフィック回線(音声、画像、デー タ等)とシグナリング回線(制御信号)を分離し、このシグナリング 回線によってコンテキストと呼ばれる通信環境、通信要求、ユーザ の状態・位置などの情報をやりとりし、異種ネットワークや異種端 末間でシームレスハンドオーバを可能とするMIRAI(Multimedia Integrated Network by Radio Access Innovation )と呼ぶ 概念を提案し、試作評価を行ってきました。またこれに付随するキー テクノロジーとして以下の研究開発を実施してきました。
さらにこれらの研究開発と並行してIEEEやITU-Rなどの国際的なレベルでの標準化会合にも成果を反映して寄与しています。
研究開発推進部門の委託研究では、2つのグループに分け研究 開発を行っています。1つめのグループでは、多数のビームを一 度に形成するインテリジェントビーム形成技術と、それと組み合わ せる時空間適応無線リソース割り当て技術、また超広帯域マルチキャ リア伝送技術とそのためのデバイス技術である超伝導受信フィル タ技術など、超広帯域移動通信伝送技術の研究開発 を行っています。またもう1つのグループは、人体を利 用する広帯域アンテナ技術、高速・低消費電力A/D変換 技術、サンプリングレート変換フィルタ技術など、ソフトウェア無線用デバイスおよび構成技術 の研究開発を行っています。
現在、無線通信部門と研究開発推進部門の各研究成果を統合し、 新世代/第4世代モバイルネットワークの概念をデモンストレーショ ンするための実験準備を進めています。実験は、横須賀リサーチパー ク(YRP )に構築されたテストベッドで行う予定です。テストベッド には屋外に設置された無線LANアクセスポイントや試験用携帯電 話基地局、それらを結んで道路に沿って設置された光ファイバー 回線などが設けられています。
これらの研究開発においては、将来の世界標準を担うために、ア ジアや欧米の大学・研究機関などとの連携を重要視して進めてい ます。
今後は従来のモバイルの概念を超え無線のもつ可能性を最大 限に活用し、場所、人、モノ、環境等を選ばない、真に頼れるユビキ タスネットワークを実現するための研究を進めていく予定です。