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NICTで活躍する女性研究者 vol.5

NICTでは約80名の女性研究者や女性職員が活躍しています。 NICTニュースでは、シリーズで女性研究者にスポットを当て、お話を伺います。

後藤 薫(ごとう かおる)さん - 無線通信部門 横須賀無線通信研究センター 通信システムEMCグループ 研究員

2001年St.Petersburg大学研究員。2002年博士号取得(工学、電気通信大学)。電気通信大学菅平電波観測所助手を経て、 2003年CRL(現NICT)に入所。大学では地球物理と信号処理の研究に携わる。NICT入所後は、通信に関るEMCの研究に従事。 ロシア留学中、腐った水を飲んでも強盗被害にあっても生き延びた生命力が自慢。


祖父が教えてくれた、電気通信・電波の面白さを受け継いで

現在の研究と、情報通信や電波に興味を持ったきっかけを紹介してください。

後藤 私は横須賀無線通信研究センターで、通信システムEMCグループに属して研究を行っています。既存の通信システムや今後 導入が検討されている新しい通信システムに対し、電子レンジなどの電子機器から漏洩する電磁波がどのように影響を 与えるかを調べ、その干渉問題を回避することにより、誰でも安心して安全に通信サービスや電子機器を利用できるように するための研究です。具体的には、電子機器の漏洩電波測定法や適切な許容値の検討、電磁環境測定装置の開発とそれを 用いた測定を実施しています。研究結果は、学会発表の他にも、電子機器から放射される不要電波規制のための国際機関で あるCISPR(国際無線障害特別委員会)へ提案することにより国際規格化を図ります。

私が情報通信に興味をもったのは、通信関係の技術者であった祖父の影響があると思います。ピアノや刺繍、少女向けの 物語本も好きでしたが、祖父からもらった古いラジオの修理、バイクや戦闘機、きれいな電気回路と数式がたくさん載った 本も好きでした。中学を卒業してすぐに工業高専に進むなど、早い段階から方向性が決まっていたと思います。

研究都市としての特性を活かして

横須賀無線通信研究センターがあるYRP(横須賀リサーチパーク)は、無線通信を中心とした研究都市ですが、研究環境はどうですか。

後藤 横須賀無線通信研究センターでは企業や大学と連携して様々な無線通信システムの研究開発が行なわれているので、 その最新動向を居ながらにして知ることができるのは大きなメリットだと思います。また、新しい無線システムの信号計測法を 主に私たちのグループの研究者が担当する協力体制をとり、EMCの技術が上手く通信システムの開発に反映できた事例も あります。私は任期付研究員としておよそ3年前に入所したのですが、入所後すぐに、この連携を目の当たりにすることができ、 とても勉強になりました。

また、私たちのグループは、小金井に本部を置くEMCセンターに所属しており、EMCに関する国際標準化や計測技術の検討は EMCセンター本部と連携して行っています。そのため、小金井のメンバーと情報を密にやりとりして研究方針やアイデアを 共有し、実験などの際には実際に人が行き来して、研究を進めています。

より良い生活のために、研究と装置開発の中心に

研究を通して、今後の夢ややってみたい希望のようなものはありますか。

後藤 現在のEMCは、不要電磁波に対する対策が中心になっているので、積極的に電磁環境をコントロールできるシステムを 実現できないかと考えています。ユビキタス時代の到来ということで、インフラは整いつつあると思います。そこで、 無線通信機器に加えて、家電製品などの電子機器にも電磁環境測定用センサと通信用のタグをつけてネットワークに 組み入れ、周囲の電磁環境データを相互通信するのです。通信システムが利用する通信方式、周波数帯、レベル、放射指向性 などに加えて、電子機器の稼働状況や電子機器内でのEMC対策の実施状況を、トータルでアダプティブ制御することにより、 最適な電磁環境を作り出せれば面白いですね。産学官にまたがる多くの研究分野の方との共同研究によってのみ実現できる話 ですが、EMCは比較的どの分野とも密接な関わりを持つので、大きなプロジェクトの中心技術になりうると思います。

EMCの研究は、産業的にもいろいろな分野に応用ができそうですね。

後藤 もともとEMC研究の必要性は、産業界より生じたと認識していますので、逆説的な質問のような気がしますが、ストーリーに のっとってお答えいたします(笑)。私はAPD測定という妨害波測定法の研究をしています。多数の実験データを出して 理論的検証を行った結果、その有効性が国際的に認められ、妨害波測定法の国際規格となる予定です。今後はいかに応用の 幅を広げていくかという研究フェーズに移行してきています。いくら優れた測定法でも、広く一般に利用されないと埋もれて しまいますので、ここから先は特に産業界との連携が重要です。APD測定法を利用すると、測定対象の電磁波によって干渉 を受ける通信システムの通信品質劣化を推定することができます。つまり、APD測定を利用した製品テスト法が確立できれば、 電子機器や部品の製造会社は自社製品の信頼性を保証できるわけです。これはひとつの例にすぎませんが、このような 具体的な目的のための専用測定装置の開発を、産業界と積極的に協力して行いたいです。

また、APD測定法は以前より旧CRLにて行われていた研究であり、私のアイデアで始めた研究ではありません。APD測定法の 応用システムを普及させると同時に、将来の国際規格となるべき新しい測定法の研究を進めたいと思っています。新しい 測定法には何が要求されるのか、その応用は産業の発展にどのような形で役にたつのかを強くイメージしながら進めて いきたいです。