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施設紹介

fMRI 脳研究の最先端で活躍中 神戸研究所 未来ICT研究センター 推進室 研究マネージャー 宮内哲

脳研究に重要な役割を果たす装置

未来ICT研究センター第3研究棟のMRI室には、3.0テスラ高磁場MRI装置が設置されています(図1)。

MRI(磁気共鳴画像法)は、水素原子の核磁気共鳴という現象を利用して、頭部や体の断層画像を得るもので、医療現場で広く使われています。fMRI(機能的磁気共鳴画像法)はハードウェアはMRI装置と同一ですが、脳内の血流の変化を計測することにより、脳の活動状態を調べることができます。例えば私たちが何かを見たり、ものに触れたりすると、それに対応した脳の特定の部位の神経細胞が興奮し、最終的に血流が変化します。したがって、fMRIを使えば、そのような活動が脳のどの場所で起こっているかを知ることができます。

NICTでは人間の脳が持つ高度な情報処理機能を情報通信技術に応用することを目的に、脳の研究を進めています。fMRIは脳の活動を非侵襲的に計測し、脳情報を可視化するために非常に重要な役割を果たしています。

図1 3.0テスラ高磁場MRI装置

fMRIで脳を調べる

3.0テスラ高磁場MRI装置はこれまでの1.5テスラMRI装置に比べてS/N比が良く、脳のどの部分が活動しているのかを、高い空間解像度で測定することが可能です。強力な磁場は、液体ヘリウムで冷却された超伝導磁石によって発生します。被検者からの磁気共鳴信号を受信する部分には8チャンネルのフェイズドアレイコイルが装備されています。

クレジットカードなどを近づけると、磁気情報が消去されてしまうほど磁場が強力なため、超伝導磁石が設置されている室内には金属や磁気カード類は持込みが不可になっています。

NICTでのfMRIを用いた脳研究は、1993年に小金井で始まり、1998年に神戸に移転してきました。移転に当たっては、「建物の設計段階からfMRIや脳磁波などの非侵襲計測に最適化した研究棟を作る」ために、微少な振動や電磁気ノイズの影響を最小限に抑えるための工夫が随所に施されています。

現在、fMRIを用いて研究を行っているのは、バイオICTグループの脳情報プロジェクト及びNICTCREST脳機能イメージングチームです。

夢を見ている脳を計測する

宮内哲研究マネージャーを中心にNICT‐CREST脳機能イメージングチームが現在取り組んでいるのは、「睡眠中の脳の活動をfMRIで測定する」というものです。睡眠中にはレム睡眠とノンレム睡眠が交互にあらわれます。このうちレム睡眠は「急速眼球運動」(Rapid Eye Movement)が見られる睡眠のことで、約90分の間隔で現れます。レム睡眠中に私たちは夢を見ます。夢を見ている時に眼球が動くのは、夢に現れる像を目で追っているからではないかという仮説が1950年代に立てられていましたが、その正否についてはまだ決着がついていません。

2002年ごろから始められた研究は、先ごろ論文としてまとめられました(Experimental Brain Research, DOI10.1007/s00221-008-1579-2)。この研究では、レム睡眠中の急速眼球運動に伴って一次視覚野に明瞭な活動が認められました。これは眼を閉じて眠っているにもかかわらず、我々が夢という形で鮮明な視覚像を体験する事を反映していると考えられます。さらに情動や記憶と密接に関連し、覚醒時の眼球運動でも通常は活動しない扁桃体や海馬傍回などの活動を確認できました(図2)。すなわちレム睡眠中の急速眼球運動は、単に眼がでたらめに動いているのではなく、眼が動くとともにこれらの領域が活性化してリアルな夢を生成していると考えられます。

図2 レム睡眠中の急速眼球運動に伴う脳活動

強力な磁場の中で脳波を測る

レム睡眠中の脳活動をfMRIで測定するのは、簡単ではありません。「fMRIは脳の活動部位を知ることはできますが、そのとき被験者が眠っているのか覚醒しているのかは分かりません。被験者がレム睡眠状態にあるかどうかを知るには、同時に脳波を測定する必要があります」と宮内研究マネージャー。強い磁場が発生するMRI装置内部での脳波測定は長い間非常に困難とされてきました。しかし、技術の進歩と創意工夫により、fMRIと脳波を同時に測定することが可能となり、レム睡眠中の脳活動を記録できるようになったのです。

宮内氏とMRI装置夢は究極のバーチャルリアリティ

被験者にはMRI装置の中でレム睡眠が出現するまで長時間眠ってもらわなくてはならず、被験者集めには苦労しているようですが、それでもレム睡眠中の脳波とfMRIの同時測定データは、おそらくNICTが世界で一番たくさん持っているとのことです。

宮内研究マネージャーは「夢とは私たちの脳が自発的に作り出す究極のバーチャルリアリティと言えます」と語ります。夢を見ているときには、外部からまったく情報を与えなくても、現実と区別がつかないくらいの仮想現実を脳が作り出しています。現在の技術ではとても不可能です。夢を見るメカニズムの研究から、将来の情報通信を支える新しい技術が生まれてくるかもしれません。


Profile

宮内 哲宮内 哲(みやうち さとる)
神戸研究所 未来ICT研究センター 推進室 研究マネージャー
大学院修了後、米国ブラウン大学、自然科学研究機構生理学研究所を経て、1993年通信総合研究所(現NICT)に入所。主にfMRI・脳磁波・脳波などの非侵襲的脳機能計測に関する研究開発に従事。博士(医学)。



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