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WDM-directを用いた新世代光アクセスアーキテクチャ -高速かつ多様なネットワークサービス提供を目指して- 新世代ネットワーク研究センター ネットワークアーキテクチャグループ 研究員 宮澤 高也

研究背景

近年、高速インターネットアクセスの需要が高まり、光ファイバを各家庭まで届けるFTTH(Fiber-To-The-Home) の加入者数が増加し、2009年末には1,700万を越え、今後も増加すると予測されます。

加入者宅側の光回線終端装置(Optical Network Unit:ONU)から事業者側の光回線終端装置(Optical LineTerminal:OLT)までのネットワークを光アクセス網と呼びますが、現在、光アクセス網においては、GE-PON(Gigabit Ethernet- Passive Optical Network)という方式が主流です。この方式では、まず、加入者宅からの光ファイバ回線を、数十本を1組として中継ノード(光カプラ*1)に集約し、中継ノードとOLTの間を1本の光ファイバで接続します。複数ユーザがその1本の光ファイバの帯域を共有し、かつ、OLTが各加入者に対して、時間軸上で動的に帯域を割り当てるので、Web閲覧やメール転送といったベストエフォート*2トラヒックを効率的に転送することができます。

一方、2020年以降の新世代ネットワークにおいては、増え続けるトラヒック量に対処すると同時に、従来のベストエフォートサービス提供に加えて、今後登場すると予想される数Gbps~Tbps級の高速性かつリアルタイム性を要求するアプリケーション(例えば、グリッドコンピューティング、クラウド、オンラインゲーム、遠隔医療、超高精細映像伝送等)に対してサービス品質を確実に保証していく必要があります。我々は、GEPONやその伝送速度面での延長のみでは、上記要求を必ずしも満足できないと考えており、光アクセスアーキテクチャを白紙から設計してきました。

新世代光アクセスのキー概念:WDM-direct

光アクセス網のトポロジとして、GE-PONに代表される現在主流のパッシブダブルスター型およびシングルスター型の2種類があります(図1)が、本稿ではシングルスター型のアーキテクチャについて紹介します。シングルスター型は、OLTからONUに専用光アクセス回線を提供することにより、各ユーザに個別に異なるサービス提供が可能、かつ個別にアップグレードが可能であることに加え、パッシブダブルスター型に比べて信号損が少なく長距離利用に向く利点もあり、新世代の光アクセストポロジとして有効と考えています。

図1●(a)パッシブダブルスター型光アクセス網 (b)シングルスター型光アクセス網

新世代の光アクセスアーキテクチャでは、WDM-directという概念を用います。WDM-directとは、各ONUに、複数の波長を直結する概念です。各ONUから複数波長(波長群)を用いて同時にデータ送受信することにより、高速ネットアクセスが可能になるだけでなく、ある波長群ではベストエフォートデータを伝送する従来の帯域共有サービスを提供し、別の波長群で帯域保証サービスを提供することも可能であり、将来、新規アプリケーション及び新規ビジネスの創出に貢献できることが期待されます。

概念設計と検証実験

帯域共有サービスのパケットデータは、従来どおり、OLTにて一旦光電変換され、帯域共有プロトコルを用いて、光基幹網上を転送されます。帯域保証サービスのデータについては、あらかじめ、送信元ユーザから、光基幹網を経由し宛先ユーザまで、単一の光パス*3もしくは要求に応じた数の複数光パスを設定し、その光パス上で転送されます(図2)。工夫点の1つとして、光パスを設定するための帯域予約制御メッセージを、帯域共有サービス用の波長群を用いてパケットデータとして伝送することにより、帯域の有効利用を図ります。これまで、25km長のシングルスター型新世代光アクセスシステムの検証実験を行ってきました(図3)。OLT内で、各ONUから受信された帯域予約制御メッセージに基づいて、MEMS*4光スイッチが制御され、各波長信号について、パケット伝送と光パス伝送を切り替え、サービスの切り替えが可能であることを確認しました。

図2●シングルスター型新世代光アクセス概念設計
図3●検証実験構成の概略図

光基幹網も含めた光パケット・光パス統合を目指して

光アクセス網でパケット伝送による帯域共有サービスとパス伝送による帯域保証サービスを両方提供するアーキテクチャ設計および原理確認実験を先行して行いましたが、現在は、光基幹網において、パケット交換とパス交換を共通光ネットワーク基盤および統一制御インターフェースのもとで実現する研究開発に取り組んでいます。アーキテクチャ設計から、ノードプロトタイプ実装、制御システム開発等を行い、実験ネットワークを用いた諸特性評価も行っています。今後、我々の研究成果をより実用的なものにすべく、装置規模の拡充や、制御プロトコルの高機能化、ハードウェアの更なる共通化等を図っていきます。

用語解説

  • *1 光カプラ
    1つの光信号を複数の光信号に分離したり、複数の光信号を1つの光信号に結合する装置。
  • *2 ベストエフォート
    通信品質は保証されないが、なるべく要求品質に近づくように努力がなされること。
  • *3 光パス
    送受信間で帯域が占有された光通信路。
  • *4 MEMS
    マイクロメーターオーダーの微細な機械構造と電気機能を組み合わせたシステム。
宮澤 高也
宮澤 高也(みやざわ たかや)
新世代ネットワーク研究センター ネットワークアーキテクチャグループ 研究員
2006年慶應義塾大学大学院後期博士課程修了後、1年間、米国カリフォルニア大学デービス校にて訪問研究員として研究。2007年よりNICT勤務。光ネットワークアーキテクチャに関する研究に従事。博士(工学)。
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