貴社が社会貢献の一環として、視覚障がい者支援を始めたきっかけを教えてください。
きっかけは2014年に起きた2つの事件です。
1つは、全盲の男性が連れていた盲導犬が、フォークのようなもので刺された事件。もう1つは、全盲の女子生徒が白杖を使って歩いている最中に蹴られ、負傷した事件でした。これらの事件から、視覚障がい者は、警察官に「そのとき何があったのか」と聞かれても、自分で状況を説明することが難しい立場にあるのだと気づかされました。そこから、何か視覚障がい者支援ができないだろうかと、強く意識するようになったのです。その後、中でも歩行を手助けするサービスの開発に取り組み始めました。2016年には、「東京メトロ」が主催する「Tokyo Metro ACCELERATOR 2016」(以下、アクセラレータープログラム)に参加し、視覚障がい者支援サービス「shikAI」の原型となるプレゼンテーションを行いました。約100社が応募する中で上位3社に選ばれ、賞金を獲得しました。これをきっかけに、「shikAI」の開発を本格的に進めていくことになりました。
「shikAI」はどのようなサポートができるサービスですか。また、開発の流れについて教えてください。
「shikAI」は、視覚障がい者向けのナビゲーションアプリです。駅構内の点字ブロックに設置されたQRコード*1を、iPhoneのリアカメラで読み取ることで、現在地から目的地までの移動ルートを音声やバイブレーションで案内します。
「東京メトロ」は新木場に総合研修訓練センターを所有しており、この施設は実際の駅とほぼ同じ設備を備え、本物の機材や電車も入線できる環境です。新人の駅係員は、配属される前にここで研修を受けます。アクセラレータープログラムでは、この施設を使って実証実験ができる点が大きなメリットでした。開発当初は、Bluetooth Low Energy Beacon*2(以下、Beacon)を使い、点字ブロックに沿って案内する仕組みを想定していました。しかし、Beaconには精度の問題がありました。自己位置推定*3に5~10メートルほどのズレが生じ、案内精度が大きく低下してしまったのです。また、「どちらの方向を向いて立っているか」を正確に検知できず、右か左かといった方向指示が曖昧になるという課題もありました。
そこで、誰もが手に持っているiPhoneの機能を活かせないかと考え始めました。実証実験の際、カメラは自然と床面を向いて操作されていることに気づき、そこにQRコードを貼り、それを読み取りながら辿っていけるのではないかと思いついたのです。イメージとしては、ヘンゼルとグレーテルの「パンくずの道しるべ」の感覚です。実際にQRコードで試してみると、自己位置推定*2や進行方向の指示精度が非常に高く、「東京メトロ」からも好評をいただいたため、正式に採用することにしました。
ここに至るまでには、本当に多くの試行錯誤があり、1年以上悩み続けました。アクセラレータープログラムに採用されたからこそ、当初提案したサービスを実装できないとは簡単に言えませんでした。試行錯誤の末に、現在の「shikAI」にたどり着いたのです。
*1:QRコードは株式会社デンソーウェーブの登録商標です。
*2:数メートルから数十メートル圏内に定期的に信号(電波)を発信する小型の無線デバイス。この信号をスマートフォンなどの受信機がキャッチして、位置情報を取得する仕組み
*3:ロボットや自動運転車、スマートフォンなどの移動体(デバイス)が、外部のインフラやマーカーに頼らず、搭載されたセンサーの情報のみに基づいて、自身の現在位置や姿勢を推定する技術
