100年の歴史を未来へ。ユニバーサルデザインフォントで「読みやすさ」を追求するイワタの挑戦(1/4)

1.パナソニックと共同で開発された「UDフォント」誕生の背景

貴社は1920年創業と非常に長い歴史をお持ちですが、フォント専門企業として歩み始めた背景と強みを教えてください。

水野:当社は1920年創業のフォント専門企業です。創業者は岩田百蔵で、戦前から活字母型の製造を手がけ、新聞本文用の「扁平活字」、小学校教科書体の開発などを通じて、業界標準となる書体を確立してきました。

 その後、時代の流れとともに金属活字から写真植字(写植*)、そしてデジタルフォントの開発へと移行しています。代表的な書体には、新聞本文で使用されてきた「イワタ新聞明朝体」や小学校の国語の教科書で使用されてきた「イワタ教科書体」、「イワタUDフォント」などがあります。
 現在ではそのパイオニアとして、多くの企業に利用いただいています。当社の強みは、顧客とじっくり対話を重ねてきた点にあります。中でも、新聞社とは対面でのやり取りが多く、直接会うことで、細かな要望や不満も丁寧に汲み取ってきました。そうした声を商品に反映し続けてきたからこそ、100年という歴史を刻むことができたのではないかと感じています。

阿部:社会とのつながりを100年にわたって築いてきましたが、フォント作りはノウハウがなければ成り立ちません。たとえば文字を一つ描けたとしても、同じイメージで何千文字も作り続けることは、素人には非常に難しいのです。
またフォントの開発には、大体2年~5年、長いもので10年以上かかるものもあります。当社には業界歴70年以上、90歳を超えてなお現役で活躍する書体デザイナーが在籍しており、日々新しいフォント開発に携わっています。このような人材が社内にいることも、100年続いてきた大きな強みだと思います。

水野:当社では、柔軟に対応する姿勢も大切にしています。「この媒体には、この書体が合うのではないか」と、社員が自発的に書体を開発することもあれば、「こういうフォントを作ってほしい」という顧客からの要望に応えることも少なくありません。歴史の長い会社ではありますが、同じ状況が10年、20年と続くことは決してありません。時代の変化や顧客のニーズに柔軟に対応し続けてきたことが、現在までの歩みにつながっていると思います。


*金属の活字の代わりに、文字盤(ネガフィルム)の文字に光を当て、レンズを通して印画紙に焼き付ける技術

貴社が、UDのフォントに取り組み始めたきっかけは何でしたか。

水野:UDの概念自体は1990年代に生まれましたが、当社が業界初のUDフォントの開発に取り組んだのは、2004~2006年にかけてのことです。

 その始まりは、パナソニック株式会社(当時の松下電器産業株式会社。以下、パナソニック)からの依頼がきっかけでした。
 開発の背景には、成熟した国内市場を打破し、新たな顧客層を開拓しなければいけないという課題意識があったためです。健常者を主な対象としていた商品やサービスを、高齢者や身体障害者にまで広げていきたい。その一環の取り組みで始まったと伺っています。当初は、パナソニック向けの特注フォントとして開発しましたが、その後、市販化したことで広く普及していきました。

阿部:この件も、ある日突然依頼があったわけではありません。

 長年お付き合いする中で、「こうした不満があるが、どう改善すればよいか」とご相談いただいたことが出発点でした。パナソニックグループとして取り組む方針が定まり、フォントだけでなく色味やデザインなど、あらゆる要素について研究が進められたそうです。その中でフォント分野については、関係性を大切に積み重ねてきた当社に依頼がありました。これを機に、年齢や障害の有無に関係なく、できるだけ多くの方に「見やすく、誤読しにくい」と感じられるデザインを目指して開発してきました。

 現在もパナソニックとは継続して取引をしていますが、その他にも多くの企業が利用しています。
 こうした「顧客を大切にし、対話を重ねながら向き合い続ける姿勢」こそが、当社の強みであり、多くの企業に評価していただいている点だと感じています。

製品に使用されているUDフォントの例