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研究

 ユニバーサルメディア研究センター〜見る、聞く、触れる、香りを嗅ぐ、あなたのそばに超臨場感環境を〜

ユニバーサルメディア研究センターとは
 情報通信研究機構(NICT)ユニバーサルメディア研究センターでは、3次元立体映像・音響などの「超臨場感コミュニケーション技術」の研究を進めています。私たちは、通信や放送を通して、違う場所にいながら、あたかもその場にいるかのような自然でリアルな感覚を作り出すことによって、より多くの人が心豊かで便利な生活環境を享受できるような情報化を目指しています。
 本研究センターは、本年4月に発足した新しい研究センターです。その体制は、電子ホログラフィ技術を中心とした立体映像・音響技術の研究を行う「超臨場感基盤グループ」と、認知メカニズムの解析などによって人間にとって最適な臨場感を実現するための研究を行う「超臨場感システムグループ」の二つのグループで構成されています。
 NICTは、従前から継続している映像・音声分野の研究開発に加え、新たに心理物理学・人間科学などの分野の研究者を結集したユニバーサルメディアの研究組織が加わり、より幅広い研究を行う体制となりました。
どんなシステムを目指そうとしているのか
図1:201X年サッカーワールドカップ決勝戦を立体テレビで観戦
図1:201X年サッカーワールドカップ決勝戦を立体テレビで観戦
 本研究センターが目指す超臨場感システムの未来像の例を二つのイラストを使って紹介します。
 図1は、サッカーの生中継を家庭の立体テレビで楽しんでいる様子です。大きなテーブルの上の空間に、サッカースタジアムの映像が浮かび上がっています。スタジアムの観客の声援も場所に応じて違う方向から聞こえてきます。ゴールシーンを別の角度から再生して見るために、空間に浮き出たパネルで操作することもできます。
 図2は、遠隔ショッピングの様子です。 パリの青空市場で、手元に再現された陶器のティーカップの色合いや手触りを楽しみながら、売り手と値引き交渉をしているシーンです。
図2:パリの青空市場へ遠隔ショッピング
図2:パリの青空市場へ遠隔ショッピング
場の雰囲気、売り手の気配、物の重量感や香りなど、あたかもその場にいるような感覚を味わうことができます。
図1の例は、総務省が平成17年12月に発表した「ユニバーサルコミュニケーション技術に関する調査研究会」の報告書*1から抜粋したものです。報告書では、様々なユニバーサルコミュニケーション実現時の利用シーンが描かれていますが、いずれも、超臨場感システムが活用されています。
 超臨場感システムによって、テレビの楽しみ方が変わることはもちろんのこと、医療、教育、文化・芸術交流などにおいても、より創造的で豊かな環境に導けるものと期待しています。

*1  http://www.soumu.go.jp/s-news/2005/pdf/051215_3_2.pdf

超臨場感基盤グループの研究
 超臨場感基盤グループでは、立体映像・音響のハードウェアについての研究を進めています。ここで目指している立体映像の実現技術は、特殊なメガネを必要としない、究極の立体映像といわれている電子ホログラフィです。展示博覧会などで実用化されている偏光メガネなどを使う立体映像は、システムがシンプルですが、両眼視差のみを利用しているため、必ずしも長時間視聴には適していないという欠点があります。一方、ホログラフィは、空間に3次元映像を再現する理想的な技術で、以前から写真乾板を使った静止画のものは実現されています。私たちはこれを動画化し、かつ遠隔地の情景をリアルタイムに、しかもカラーでの再現を試みています。
 また、この立体映像に合わせて、立体的に音場再生しようと音響の研究も進めています。
超臨場感システムグループの研究
 超臨場感システムグループでは、心理物理実験や脳活動計測を通して、臨場感や没入感、あるいはバーチャルな場で感じる違和感などを解析しています。また、視覚、聴覚に加え、触覚や嗅覚など、五感についての認知メカニズムも解明しようとしています。これによって得られる知見を基に、人間に最も適した「超臨場感」の生成を可能とするシステムを構築します。
 「超臨場感」とは、あたかもそこにいるような「場、雰囲気」を生成し、すぐそばに人がいるような「人の気配」を表出し、そしてあたかも手元に物があるように見せるとともにその「物の操作感覚」を提示することによって得られる感覚であると考えています。「場」「人」「物」それぞれの生成システムについて、映像、音響、手触り、香りを取得・伝送・提示する統合システムを構築しようとしています。
長期的視野に立った開発
図3:ユニバーサルメディア研究センターの目標
図3:ユニバーサルメディア研究センターの目標
 以上に述べた3次元立体映像技術をはじめとする超臨場感システムを実現するには、超高密度でかつ超多画素の撮像・表示デバイスの開発や、未解明の脳機能の計測・解析など多くの困難な課題があります。しかし私たちは、民間ではなく公的研究機関だからこそできる、あるいはすべき研究を、図3に示すように長期的視野で着実に進めていきたいと考えています。
 一方、国内外の民間の研究開発機関や大学でも、様々な方式の立体映像技術の開発が進んでおり、特殊メガネを使用する場合に生じる疲労を感じさせないように制作面で工夫した3Dシネマの実用化に向けた動き等も活発化しています。こうした臨場感システムに関する研究開発を産学官が連携して進めていくことも重要であり、その推進に当たって本研究センターが少しでも役立つよう努力したいと考えています。


研究者:榎並 和雅(えなみ かずまさ) 研究者:ユニバーサルメディア研究センター
センター長 
榎並 和雅(えなみ かずまさ)
東京工業大学卒業後、1971年NHK入局。2006年まで放送技術研究所にて映像信号処理などの研究や研究管理業務に従事。2006年9月、NICT入所、現在に至る。博士(工学)。


暮らしと技術

Q:超臨場感コミュニケーションの実現によって、様々なことが期待されますが、
身近な日々の生活では、どのようなことが考えられますか?


A:超臨場感コミュニケーションシステムができると、例えば、家庭にいながらにして、お店屋さんに入り、品物を手に取り、また店員とやり取りをしながらショッピングすることができるようになります。そうすれば、お年寄りや足の不自由な方々にもショッピングを大いに楽しんでいただけるようになるでしょう。
 5年後ぐらいには、手元や近距離にあるものが自然に見える立体映像、没入感を感じさせる大画面、多方向から音が聞こえる3次元音場、手触り感や香りなどの生成技術を組み合わせた基礎実験システムのデモが可能となる予定です。


今月のキーワード[ホログラフィ(holography)]

ホログラフィとは、レーザの発明によって実現した光の回折と干渉を利用して、3次元像を平面に記録・再生する技術のこと。1つの光源(レーザ)を2光束に分け、1つを測定対象となる物体に照射し、一方を参照光とします。物体からの反射光と同じレーザからハーフミラーを用いて分けた光(参照光)を干渉させ、干渉縞として記録します。ホログラフィは、光の強度分布と位相、及び光の進行方向が記録できるため、表面が粗い物体や複雑な形状の物体についても、変形・振動、運動誤差、形状誤差等の非接触・高精度・全面同時の計測が可能な技術です。


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