

独立行政法人情報通信研究機構
理事長
宮原秀夫
新年明けましておめでとうございます。
昨年の秋以降に始まった、未曾有の世界的金融危機の中、2009年の新年を迎えました。実体経済への影響から、企業の投資意欲や消費者の消費マインドの減退が懸念されますが、このような時こそ、情報通信技術の重要性がさらに増してきています。製造、流通、販売さらには、娯楽や教育などの産業活動から、知的活動や人間関係などに至るさまざまな領域で、活動の幅を広げる力を持った情報通信技術の活用が、これからの社会の安定と活力を取り戻すためには必須であると考えています。
このような要求に十分満足できる情報通信技術を開拓することを目標に、NICTでは「新世代ネットワーク戦略本部」を設け、昨年の秋、その活動の一環として、「新世代ネットワークビジョン」を発表しました。このビジョンは、既存のネットワークの技術にとらわれずに、全くの白紙の状態からデザインするネットワークの研究を目指すものです。今後は、このビジョンの実現のために必要とされるさまざまな技術を洗い出し、その研究開発のロードマップを作成していく所存です。国の研究開発の旗振り役として、国際的な協調の中で日本の優位性を発揮できるよう、大局観を見据えながら戦略的に推進していきたいと考えています。
また、NICTでは、昨年、多言語音声翻訳、機械翻訳、音声対話などの音声・言語処理を統合的に研究開発し、成果展開を推進するため、MASTARプロジェクトを発足させました。このプロジェクトでは、昨年、北京オリンピックの機会を利用し、観光客などを対象とした音声翻訳の実証実験を行うなど、NICTの技術力をアピールすることができました。さらに、北京五輪組織委員会が運用した多言語情報サービスへの技術提供を行い、同組織委員会から感謝状をいただいたところです。
近年、地球レベルで環境保護に対する意識がますます高まっていますが、NICTにおいても、情報通信技術を活用して地球環境保護に貢献する取り組みを行っているところです。これまで培ってきた電磁波計測技術を駆使しながら、二酸化炭素が上空にどのように分布しているのかを実測する技術を開発し、小金井市の上空における二酸化炭素計測を行いました。二酸化炭素排出の抑制や緑化による吸収などを定量的に把握することで、行政的な対策を行うことができるようになると考えます。
今年は、NICTの第二期中期計画期間の4年目を迎えます。計画の達成に向けた追い込みの時期に入るとともに、NICTの更なる発展に向けた次期中期計画策定に向けて本格的な取り組みを開始する時期となります。
また、産官学をつなぐ長期的な大きな取り組みの1つとして、人間の脳機能を解析し、それを未来の情報通信に応用するための研究開発「脳情報通信研究」を重点化していきます。3年後を目途に、脳情報通信の研究開発における基盤技術となる世界最高水準の脳計測技術の確立を目指します。
これらの研究を通じ、情報通信技術の力が社会問題、環境問題などのマイナス面を解決するとともに、文化・生活の多様性を産み、豊かな知識社会を提供してくれるなどのプラス面の部分にも大いに機能し貢献できるものとなるように努力していきたいと考えます。
最後になりましたが、本年が皆さまにとって素晴らしい年になりますよう祈念いたしまして、年頭のご挨拶とさせていただきます。