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宇宙光通信地上センター 衛星と光通信を行う地上局 〜NICT本部〜 新世代ワイヤレス研究センター 宇宙通信ネットワークグループ
 主任研究員 高山佳久

開口直径1.5mの大型望遠鏡

図1 宇宙光通信地上センターの望遠鏡ドーム

東京都小金井市のNICT本部には、北側の敷地に、「宇宙光通信地上センター」と呼ばれる望遠鏡を備えた建物があります。図1は同センターの望遠鏡ドームの外観です。ドーム内部には開口直径1.5mの大型望遠鏡(以下「1.5m望遠鏡」という)が見えています。この望遠鏡は、観測や測距などさまざまに利用できるのですが、我々は特に、この設備を用いてレーザ光による通信技術の研究開発を行っています。人工衛星が不可欠な存在となった現在、衛星による高精細画像の取得や宇宙での人間の活動なども始まり、生成され送受されるデータ量が増加しています。今後もデータ量は増加するものと考えられることから、将来の宇宙利用を支える大容量データ伝送技術として宇宙光通信の適用を目指しています。

1.5m望遠鏡は、建設当時、国内で2番目に大きいものでした。現在はより大口径の望遠鏡が幾つか建設されていますが、この1.5m望遠鏡には、衛星との光通信を行うアンテナの役割を担うため、高速に移動する衛星を追尾できるという特長があります。

図2は、ドームの内側で撮影した望遠鏡です。1.5m望遠鏡の肩には、直径20cmの望遠鏡が左右にそれぞれついています。これらは例えば、地上からのレーザ光の射出に20cm望遠鏡を用い、衛星からの光は1.5m望遠鏡で受けるといった使い方をします。また、本センターは2階建ての構造となっており、望遠鏡の鏡筒本体は2階にあります。望遠鏡の支柱の内部は空洞で、鏡が配置されています。その反射により、図中に記した矢印に沿って光を1階へ導くことができるよう設計されています。鏡は可動式となっており、その操作によって、望遠鏡で集めた光の取り出し口を変えることができます。例えば、図中の丸で記した台にカメラや測定装置を設置することもできます。また、1階には大型の光学実験台が4台置かれており、支柱内の鏡の反射方向を操作することで、使用する実験台を切り替えることができます。これにより、それぞれの台に構築した異なる光学系を選択して利用できるので、実験の準備と実施を効率的に行うことができます。

図2 1.5m望遠鏡

宇宙光通信実験の例

NICTは1994年に(当時は通信総合研究所)、1.5m望遠鏡を用いて、地上から約4万km離れた衛星ETS‐Y(「きく6号」)と地上とをレーザ光で結ぶ通信実験に世界で初めて成功しました。その後、2006年には、衛星OICETS(「きらり」)との間での光通信に成功しました。「きく6号」との光通信は、衛星が地上から見てほぼ静止した状態での実施となりましたが、高度約600kmの低軌道を周回する「きらり」の場合は、地上に対して衛星が高速に移動します。この衛星の動きに合わせて望遠鏡を高精度に駆動しながらの光通信もまた、世界初の成功例となりました。「きらり」との実験において、地上局で撮像した衛星からのレーザ光を図3に示します。中央の丸い光は「きらり」からのレーザ光、中央下から延びる直線は、地上から衛星を照射するレーザ光です。

衛星との光通信の実施には、望遠鏡を高精度に駆動する必要があります。この精度は衛星測距(SatelliteLaser Ranging:SLR)の実施により維持されています。宇宙光通信地上センターでは、図2に示す1階の光学実験台の1つに専用光学系を構築し、定期的にSLRを実施しています。また、2006年の「きらり」との実験に先立ち、2003年には、小型衛星μ-LabSATをレーザ光で照射する実験を行いました。衛星に搭載したカメラに地上からのレーザ光が検出されたことから、望遠鏡の指す方向が十分な精度で制御されていることが確認されました。

図3 地上局で捕らえた衛星からのレーザ光

今後の展望

衛星と地上との間で光通信を行う場合、雲による光リンクの遮断など天候の影響を強く受けるという問題があります。衛星との光リンク形成の確率を高めるには、天候の影響の回避が重要です。このための手法が幾つか挙げられますが、我々は、異なる地点に地上局を配置するサイトダイバーシティに着目しています。1.5m望遠鏡を主局、移動設置できる可搬望遠鏡を従局として備え、これらを地上ネットワークを介して協調させることで、主局の上空が曇りであっても、従局と衛星とで光通信を行えるよう準備を進めています。また最近では、この1.5m望遠鏡が、欧州で計画が進んでいる量子暗号鍵配信実験の光地上局としても注目され、その機能を備えるための整備も始めています。

本稿では、衛星と光通信を行う地上局としての宇宙光通信地上センター及び光通信のアンテナとなる1.5m望遠鏡を紹介しました。この設備を用いてNICTは、衛星と地上との間をレーザ光で結ぶ実験に世界初の成功例を示し、注目を集めています。現在も、本センターの光学系に試作装置等を組み込むことで、将来の宇宙利用を支える技術の動作試験を行っています。今後は、天候の影響を回避する手法を採用し、光リンクの形成確率の向上を図る予定です。また、量子暗号鍵配信実験の地上局としての準備も同時に進める予定です。


Profile

井原 綾 高山佳久(たかやま よしひさ)
新世代ワイヤレス研究センター 宇宙通信ネットワークグループ 主任研究員
1999年通信総合研究所(現NICT)に入所。位相共役光学、フォトニック結晶、電磁波解析、宇宙光通信などに関する研究に従事。博士(工学)。



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