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置くだけで通信ができる新しい情報インターフェース 新世代ワイヤレス研究センター 医療支援ICTグループ 主任研究員 張 兵

面状通信媒体を用いた新しい通信技術

ユビキタス社会が進行し、様々な端末・情報家電機器が有線・無線を使いネットワークに接続する環境が実現されるなか、従来にない有線・無線の有する課題を克服する新たな通信方式の実現が期待されています。我々は、従来の有線通信や無線通信の両方の利点を合わせ持ち、かつ欠点を補完する新たな通信技術として、面状通信媒体を用いた新しい通信技術の研究開発を行っています。

この技術は、面で構成する伝送媒体を用いることで、高速・広帯域な通信と電源供給の両方を同時に行うことを可能とするものです。特に、床、壁、服などといった人間・機械・環境の接する界面がネットワークとして機能するため、「サーフェイスLAN」という今までにない通信形態と通信領域の提供が可能となります。本通信技術は有線通信の高速性が実現可能でありながら、端末ごとの配線が不要で電波が空間に広がらないことから、高セキュリティ性と利便性を兼ね備えており、広範な分野での活用が期待できます。

例えば、従来のAVラックにつながれている煩雑な配線から解放され、ケーブルフリーな生活空間が創出できます。また、空間中の電波と干渉しないうえに、電力供給もできることから、従来にない公共スペースを生み出すことができます(図1)。さらに、柔軟な通信媒体に膨大な数の微小センサを付けることにより、体の動きや生体情報をリアルタイムに収集し、保健・介護医療器具を制御することも可能です。

図1●サーフェイスLANによるケーブルフリーな公共スペースのイメージ

面状通信媒体を用いたデジタル・スコープシステム

このような、面で構成する通信媒体を用いることにより、複数の人間の知的協調作業を支援する新しい情報インターフェースとなるバッテリーレス通信パネルの研究開発を行っています。この主な特徴は、軽い通信パネルを2次元の界面に置くだけで、位置・角度を自動的に検出し、大容量なコンテンツの送受信/表示ができること、また、電源供給も可能なことです。特に、正確に推定される通信パネルの位置情報(1cm以内を目指す)に基づき、その位置に関連する情報の詳細を拡大表示できることから、デジタル・スコープとして学習教材、カタログ紹介、観光案内、建造物レントゲンなど多様な応用が期待できます。その一例として、図2に示すように、「世界回廊」というデジタル・スコープシステムを開発しました。「世界回廊」では、家に居ながらにして家族や仲間で楽しく世界一周旅行を味わうことができます。通信パネルが置かれる位置により、地図にズームインして、図3に示すように、地図の場所の映像が徐々に拡大され、その観光地や生息している生き物の詳細な情報を可視化することができます。

図2●端末位置・向き依存型コンテンツシステム:「世界回廊」

複数の小型ディスプレイの連携によるコンテンツ表示システム

面状通信媒体を用いた応用例として、我々は、複数の小型ディスプレイの連携によるコンテンツ表示システムの研究開発も行っています。これは、小型電子ディスプレイの裏面に近接通信用のカプラ(変換装置)を搭載し、コンテンツサーバーから小型電子ディスプレイへの通信を、面状媒体を介して行います。面状通信媒体上に置かれている複数の小型ディスプレイ同士の隣接・非隣接情報を取得し、その位置の相関関係に応じたコンテンツ表示システムを開発しました(図4)。

非接触給電も可能に

一方、電力供給においては近傍界伝送による非接触給電を行っており、その給電の様子を図5に示します。小型のデバイスに対して、媒体となるシート全体に電磁波が伝播し、近接カプラを媒体面に近づけることにより、通信と電力供給を行っています。しかし、ノートパソコンなど数ワット級の電力供給が必要なデバイスに対して非接触電力伝送を高効率に行うためには、電磁波をシート内に満遍なく伝播させるより、端末が置かれる場所だけに集中させる必要があります。現在、多点入力位相を自律的に調整することにより、端末が置かれている場所に電力を集束させるシステムの開発を行っており、今後の様々な応用開発に対応していきます。

今後の展望

面状媒体を用いた通信技術のみではなく、その関連技術である近傍界での信号伝送とワイヤレス電力伝送の研究開発はここ数年たいへん活発になってきています。本研究開発では、今後大きく発展することが見込まれている、近傍界での信号伝送と電力伝送のキラー・アプリケーションの開拓に向けて、様々な可能性を探っています。特に、ギガビット通信を行う超高速な近接場通信の実現の可能性を検証しつつ、新しい通信技術である、近接通信・非接触給電における我が国の主導的地位を確保するとともに、国際標準化活動を今後精力的に推進する予定です。

図4●複数の小型ディスプレイ間の連携によるコンテンツ表示システム
図5●面状通信媒体上の任意の位置に置かれている、スピーカー、LEDライト、モニターなどを含む小型装置への非接触給電の様子
張 兵
張 兵(Bing Zhang)
新世代ワイヤレス研究センター 医療支援ICTグループ 主任研究員
1991年広島大工学研究科博士課程修了後、郵政省通信総合研究所(現NICT)に入所。
1995年~ 1996年米国テネシー大学へ博士研究員として海外研修。
2000年よりATR適応コミュニケーション研究所に出向、2005年にNICTに復職。ユビキタス通信、マルチメディア通信、通信品質制御などの研究に従事。ATR適応コミュニケーション研究所客員研究員を兼任。博士(工学)。
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