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2013年 年頭のご挨拶 独立行政法人 情報通信研究機構 理事長 宮原 秀夫

明けましておめでとうございます。

皆様、それぞれに新たな感慨を持って新年を迎えられたことと思います。

我々NICTにおいては、昨年は、新しい試みを含めて順調に年度計画を実行できたと思っています。また、我が国に目をやると、政権交代が行われ、株価の上昇、円高是正が進むなど、わずかながら明るい兆しが見えてきたように思います。この状況をどう見るかについては、経済学者の中でも分かれる議論があるようですが、私は、大いに期待したいと思います。

しかし、東日本大震災からの復興に向けた新たな取り組みや、社会環境の変化や技術の進展を踏まえた新たなビジネスの展開など、将来に向けた取り組みも行われてはいますが、その進展具合については、十分なものではないと感じています。そこで、我が国の情報通信分野での研究開発を担う中核の機関の一つであるNICTとしては、将来の方向をしっかり見極め、研究成果の社会への展開をより一層意識しながら、自らの研究に取り組んでいき、新たな技術が次々に実用に供され、社会や経済を支える基盤として育っていくように努めなければならないと考えています。

そのような観点から、NICTにおける各研究所、センターの昨年の活動を観たとき、全ての点において、しっかりやって頂き、十分な成果をあげて頂いていると思っています。総務省独法評価委員会、NICT外部評価委員会の評価結果において、ほとんどがAA、A以上の評価であったことがそれを示しています。ただ一点、総務省評価の業務運営の項目でB評価になってしまったことが残念ではあります。この点に関して、多少私の言い分を言わせて頂くと、B評価を受けましたのは、平成23年度の人件費が削減目標とされていたものから多少ずれたことに関する評価です。私は、この件は、少なくとも理事長、執行部の所掌の範疇だと認識し、我々がとった策が、NICTにとって有利だとの判断で選択したものでしたが、それが指摘されました。独立行政法人たるNICTにおいては、理事長を中心とする執行部が十分にガバナンスを発揮して、自らが主体的かつ機動的に機構を運営していくことが、今の執行部に強く求められているのではないかと思います。そうすることこそが、独立した人格を持ち、特徴ある研究所として、世界にその存在を示していけるのだと思います。このことは、私自身の反省を含めて申し上げておきたいと思います。

先に言いましたように、各研究所、センターにおけるそれぞれのアクティビティについては、高い評価を受け、私の目から見ても大いに成果をあげて頂いたと思っています。したがって、それら、それぞれをこの場で紹介するとすれば、枚挙にいとまがないということで、それは控え、NICT全体として取り組んでいるもの、また取り組んでいかなければならない事柄について、言及したいと思います。

NICTでは、専門家をはじめ幅広い方々に最新の研究成果を紹介する、いわゆるアカウンタビリティについては、私は、常々重要であると言ってきました。その一環として昨年秋に、2日間にわたりオープンハウスを開催しました。これまでも、展示会への出展などの形で研究成果の紹介に努めてきましたが、NICTの本部で、講演や展示、デモにより、担当の研究者から研究成果をご紹介するのは初めてのことでした。

NICTのような研究機関においては、研究者がその持てる力を十二分に発揮することが何より重要です。そのための研究環境の向上に努めるとともに、そのモチベーションを高めていくことが、NICT全体の研究開発のレベルアップに結び付くと考えています。その点において、オープンハウスは、大いに効果があったと思っています。

私は、現在、情報通信技術の研究を推進する上で、考慮しなければならない重要な視点は、次の3つであると思います。その第1は、システム規模の急速な拡大にどう対応していくのか、すなわちScalabilityの課題です。第2番目は、ICTは、あらゆる社会基盤を支える重要な基盤技術であることは間違いないことですが、情報システム自身が消費するエネルギーの問題が浮上してきています。つまりICT自身のエネルギー消費の課題です。3番目は、システムの安全性、信頼性、広い意味でのSecurityであり、大きな社会問題となり、まさにnational securityとして扱わなければならない課題となっています。

NICTにおけるほとんどの研究分野において、この3つの要素を考慮しなければならず、この要素を、ある場合には、制限条件として、またある時は、目的関数として、モデル作りをし、研究を推進すべきだと考えます。つまり、これら3つの要素は互いに関連しており、どれかの要素1つだけが、飛び抜けて高い評価を受けたとしても、他の要素が伴わなければ、システム全体として(やや抽象的な表現ではありますが)うまく動かない、つまり有効なシステムとして受け入れられない、その結果、役に立たないということです。つまり、システム全体を俯瞰的に見て、全体最適化をはかることが重要になります。それを可能にするのが、まさに総合デザイン力です。私は、着任以来、このことを言い続けてきました。最近では、全ての研究所、センターにおいて、着実にこのことを念頭において、研究を実践してきて頂いていると思っております。

そのことの成果として生まれたのが、研究所間をまたがる連携プロジェクトだと思っています。すでに幾つかのものが成果をあげつつあります。しかもこれらのプロジェクトは、各研究所から独立したものでなく、親元とも緊密な連携を取って進めてもらっています。また今後の新たなる連携を模索する機会として、研究所間共同開催の研究発表会なども進めて頂いており、結構な企画だと思っています。

連携研究を生むきっかけは、それほど難しいことではなく、日頃の研究者間での付き合いからだと思っています。何事につけても、人と人の出会いが始まりで、それが一つのチャンスを生みます。したがって、この“出会い”、“チャンス”を大事に考えて頂きたいと思います。必要条件である“チャンス”は誰にでも訪れますが、そのときそれを掴めるかどうかの十分条件は、日頃の努力によってできるものだと思っています。

さて、東日本大震災からそろそろ2年になります。復旧・復興に向けた努力が各方面で精力的になされていますが、これまでの防災対策は抜本的な見直しが迫られています。震災により、情報通信システムも甚大な被害を受けました。情報通信システムにはそれまでの経験を踏まえた対策が行われてきましたが、十分に機能を果たすことができませんでした。

NICTでは、昨年4月、東北大学の協力を得て、同大学内に耐災害ICT研究センターを設置しました。産学官の共同研究により、災害に強い情報通信の実現と、被災地域の地域経済活動の再生を目指していきます。これには震災復興のための補正予算があてられています。したがって、これは単に東北大学内にNICTの研究センターができるということではなく、いかに迅速に震災復興に貢献できるのかの一点に注力していかなければならないと強い思いを持っています。

このセンターに先駆けて、脳情報通信融合研究センター(CiNet)が、立ち上がっていますが、その研究所の建物が、大阪大学のキャンパスに出来上がり、近々、その開所式が行われます。これは、大阪大学、ATRとの連携の下に進められているもので、東北大学のセンターと並び、今後NICT全体で支援していかなければならないと思っています。また、このセンターの横に、理化学研究所が大阪大学と共同し、生命システム科学を指向したセンター(QBiC)を構えることが予定されています。これらが、省庁間をまたがった産官学連携プロジェクトのモデルケースとして育って欲しいと思います。

私は、このような具体的な連携による拠点形成は、世界各国から優秀な研究者がNICTを中心に集結し、NICTが世界屈指の研究機関として認められるために是非必要なことだと思っています。

このようにNICTでは、急激に変化する社会情勢の中で、早期に取り組むべき情報通信技術について、柔軟に研究プロジェクトを立ち上げ、研究開発に取り組んでいます。NICT内の関係する研究者を結集させるとともに、大学や民間企業の研究機関との連携を進めることで、社会の要請に速やかに対応し、期待に応えていきたいと考えています。

最後になりましたが、本年が皆様にとって素晴らしい年になりますよう祈念いたしまして、年頭のご挨拶とさせていただきます。

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