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座談会
30年後の未来に活躍する理想のネットワークを目指して 新しい価値観で創る新世代ネットワークが、さらに新たな価値観を生み出す

NICTが展開するもっとも主要なテーマ「新世代ネットワーク研究開発」の推進役を担う5名の方々に、今日的課題から研究開発の可能性を見据えながら20年後、30年後のネットワークの姿について、夢やその展望を忌憚なく話し合っていただきました。

新世代ネットワークに求められるアプリケーション

―まずは自己紹介を兼ねて、NICTが推進している新世代ネットワーク研究開発に関して、出席の皆さんにNICTが今後どのように取り組み、進めていくか、また、30年後の新世代ネットワークがどのようなものかを、展望していただければと思います。

宮部新世代ネットワーク研究センターの研究開発推進の支援、それと連携研究部門、新世代ネットワーク研究開発に関する委託研究の取りまとめを行っています。また、NICT新世代ネットワーク研究開発戦略本部の副本部長を担当しています。

村田上席研究員で、宮部理事と同じく戦略本部の副本部長です。具体的には戦略ワーキンググループ(以降WG)で、これまで戦略策定を進めてきました。

細川新世代ネットワーク研究センター長を務めています。この研究センターは、ネットワークアーキテクチャ、ネットワークのデザインから非常に基礎的なところに至るまでの幅広い範囲を担当しています。主に有線関係ですが、それにとらわれない新しいネットワークを支えていく基礎技術について、主に光の技術の側面から幅広く捉えていくという研究センターです。今4年目になって、だんだん充実してきています。

門脇新世代ワイヤレス研究センター長を務めています。無線通信の分野が研究のターゲットですが、ここ1~2年はいわゆる無線通信の伝送部分の研究から、ネットワークを意識する研究の分野に少しずつ踏み込んできているという状況です。
 具体的な例としてはJGN2plusとコグニティブ無線の相互接続という形で、私たちはコグニティブ・ワイヤレス・クラウドという言葉を使っているのですが、ネットワーク全体がクラウドというイメージの中で、ワイヤレスがアクセス部分を中心に担っていくだろうという形で研究を進めているところです。

原井新世代ネットワーク研究センターのネットワークアーキテクチャグループのグループリーダーを務めています。私は当初からこのグループで、「AKARIアーキテクチャ設計プロジェクト」という、2015年以降の未来社会を支えるネットワークをデザインするプロジェクトに係わっています。私はもともと光ネットワークのデザインとか、光スイッチのデザインをしていましたが、それだけではなく、無線、モバイル、センサーまで含めた大きなネットワークの未来像を創ろうとしています。

―次世代ネットワークの更に先、10年、15年先でも通用するネットワークの研究開発を進めているわけですが、そうした未来のネットワークアプリケーションにはどのようなものがあると考えていますか。

宮部15年後は私も70歳を超えています。足も不自由になるだろうし、行動範囲も狭くなる。その時にネットワークに何を期待するかといえば、自分が行けないところ、あるいは体験できないことを見せてもらい、いかにも体験したように自分の知識の糧となるようなことができたらいいですね。
 アバターでWeb上の3Dリアルタイム仮想世界に入って行くような話ですが、非現実社会を中心としたものではなく、現実に存在するものを距離と時間を超えて手軽に見せてくれるということで、実地体験が今後も中心になると思っています。朝起きて、何かをしたいと思った時に、特段キーボードを打たなくても、自分の必要な情報を瞬時に出してくれる、それに基づいて人間が行動しながら判断する。それが不自由なくできる世界がいいのかなあと思っています。

村田将来のネットワークの本質は知識社会だと思います。Googleは全てを情報化すると言っていますが、それだけではなくて、その情報をいかに知識として獲得していくかが大事だと思います。技術的には、リアルな社会とネットワーク社会のヒモ付けのような話で、世界中のセンシング情報をインタラクションしていくことが大事だと思います。

細川超臨場感が進むのもいいのですが、20年、30年後くらいでは、まだ実体験の方が大事なのだと思います。
 これは、私の個人的な夢ですが、図書館が我が家にあればいいな、と思います。古今の名著に自由自在にアクセスして、居ながらにして次々に読めて、さらにその先に進めるという状況が創れたらなあと思っています。

原井食に関しても、10年後には解決しているかもしれませんが、例えば、今から食べる食事は本当に安全かどうかを教えてくれるようなシステムをネットワークやコンピュータのデータベースから構築できるようになればいいなと思います。今は、テレビを見ていて「晩御飯にこれ食べたいな」と思ったりしますが、もっと色々なところで食情報を教えてくれる世の中になるといいなと思います。

理想のネットワーク実現に向けた3つのビジョン

宮部Web上の3Dリアルタイム仮想世界のようなものをゲームとしてやるのはいいですが、若者の心を蝕んでいるとも言われていますね。若者をもう少し健全に導くことが大切なのではないか。私は田舎育ちなので、悪いことをすると隣のおじさんによく殴られた。自分の子どもでなくても地域コミュニティとして叱る。そういうことが必要なのかなとも感じています。情操教育ができるネットワークとは何なのか、ネットワークで何か最低限の基本的なメカニズムを提供する必要があるのかということですが。

村田学生と大学で付き合っていて感じるのは、世代間で価値観が全然違うことです。ネットゲームを全くやらない学生もいれば、中毒状態の学生もいる。そうした学生たちでも、小中学生の間で流行っているプロフのことは知らない、関心がないというのです。若者の間でさえ価値観の違いがあるのだから、私たちの世代の価値観を押し付けるのはどうかと思います。私たちがやるべきことは、むしろ負の面を顕在化させないように見守る姿勢が大事なのだと思います。

―新世代ネットワークビジョンについて聞かせてください。

宮部「理想のネットワークを求めて、その実現に向けたビジョン」で掲げた3つのビジョンですね。そのポイントについて、作成に尽力した村田上席研究員から紹介していただけますか。

村田1つはMinimize the Negatives、つまり顕在化する社会問題、エネルギー、セキュリティ、食料とかいった問題をまずは解決しようということです。ただ、これだけでは不十分で、2つ目として新しい価値観を創造していくことが、今後のネットワークに期待されていて、それをもってMaximize the Potentialと言っています。そしてそれらを包括する概念としてInclusionを3つ目としてうたっています。あらゆる人をICTで包摂するという概念です。それが戦略本部の掲げている新世代ネットワークのビジョンということになります。

宮部最後の包摂性の問題ですが、今までも言われていましたがなかなかうまくいかない。社会のグローバル化ということで英語圏の文化はずっと広がってきている一方で、「文明の衝突」(サミュエル・P・ハンティントン著)に述べられているように、リージョナル化が今後は大切だと言われていて、先ほど言った地域コミュニティも大事だと思います。

新しい価値観、新しい通信原理でエネルギー問題を克服

―COP15では、改めて地球の環境問題、エネルギー問題が浮かび上がりました。そこで、今後10年20年、ネットワークが使うエネルギーをいかに減らしてゆくか、また逆に、ネットワークを使うことで社会全体のエネルギー消費を減らしていくことができるのかという点については、どのように考えていますか。

門脇グリーンICTという点で言えば、無線というのは、実は受信相手以外のところに飛んでいってしまう、すなわち捨てているエネルギーが結構多いのです。ですからワイヤレスの部分でいかに上手にエネルギーを使うかが、グリーンICTの中では大きな比重を占めてきています。そこがワイヤレス研究センターとして1つのキー・ポイントかなと思っています。

宮部ICTに占めるエネルギーの割合は、昔は3%弱くらいでしたが、現在はもう少し増えて高くなってきた。このままトラフィックが増えると、膨大なエネルギーが消費される。本来人間活動が増えていけば、エネルギー消費が増えるのは当然ですが、これからはそうはいかない。持続性のある社会をネットワーク自身が支えなければならない。そういう効率のよいネットワークを提供しながら、さらに社会全体の消費量を抑えるということが、社会インフラの中核をなすネットワークインフラの果たすべき使命という気がします。

原井日本のトラフィック量は、毎年40%の割合でデータ通信量が増え、現在大体1テラbpsくらいになっています。このままいくと2030年頃には今の1,000倍の1ペタbpsくらいになると思います。ということは、持続可能な社会を支えていくためには、1,000分の1くらいのエネルギー効率を求めなければいけない。これをどう実現するかというと、1つは光の技術をうまく使っていくことになります。
 光化できるところは光化していこう。それから、データをパケットに細切れにしなくていいものは、そのまま送ってしまおうという取り組みによって、ネットワークの基幹のところのエネルギーは減らせると思っています。

村田エネルギー消費に関しては、何でも削減というのはやり過ぎで、価値創造のためにはどうしてもエネルギーが必要です。1つは、全体のアーキテクチャとしてエネルギー消費を抑えるネットワークを考えていくのは非常に大事です。一方で、ネットワークを介して得られる価値の創造とかメリットの方も同時に考えていかないといけない、つまりバランスのよいネットワークアーキテクチャが大事かと思います。もう1つ、エネルギー消費1,000分の1というのは、少し長いスパンで、新しい通信原理とか新しいデバイスとかも考えていく必要があると思います。

宮部やはりバランスで考えるべきだと思います。「光」の技術だけでは限界が来る、既に、ある伝送パワーを超えると、ファイバーが溶けるという問題が起きています。効率化という点では2つの別のアプローチが必要なのだと思います。

細川方向性としてネットワークでのエネルギー消費が抑えられるのなら、それに越したことはないのですが、今、環境問題が大変だからエネルギー消費を抑えるというように、ある意味縮こまる方向でいいのかという問題もあります。
 人間は、科学技術によって自分たちの環境をどんどんコントロールしてきました。ところが今はそれができていない。例えば原子力の技術が進んだから元素の合成ができるのかというと難しいし、大気中の二酸化炭素を一挙に取り除く技術もないわけです。そうした技術を人間が持つべきなのかどうか。持つべきだとしたらそのために、知の創造をもっと進めなければいけない。そこにネットワークが活躍する余地もあるのではないでしょうか。
 守るか、攻めるか、どちらが良いかは難しいですが、人間の今までの知的好奇心とか発展性などを考えていくと、守る技術によってエネルギー消費を抑えるのではなくて、もっと積極的な技術によって環境を守るような知の創造があってもいいのではないか。

村田私は生物に学ぶネットワークアーキテクチャ、ネットワーク制御というのを、一部NICT神戸研究所の研究員と一緒に研究しています。そこで目指しているのは徹底した制御の分散化、自己組織的にネットワークを構築していくネットワーク制御を実現していくということです。エネルギー効率の面からも、消費を3桁くらい落とせるというものを考えています。それと同時に自己組織的な分散化によって、エネルギー消費だけではなく、災害とか故障に強いネットワークができるのではと考えています。

宮部色々な取り組みがされていますが、「光」そのものの革新的なこともやらないと、高速化とか大容量化は難しい。そうしたことも紹介していただきたいのですが。

細川光の技術では超高速フォトニックネットワーク、それから光波、テラヘルツ、ミリ波に関してデバイスから考えていくようなグループ、極限としては量子情報を研究しているグループがあります。それが徐々に絡み合ってきて新しいものが見えてきています。
 特に光の変調器の技術が超高速伝送につながってきて、有無線統合とこれからどうつなげていこうか模索していたり、精度が10-15から10-17という精密な基準周波数を作り、それをネットワークで精度を損なわず伝送するという技術を作り出したりしているところです。そうした技術で今まで不可能であったことを、徐々に可能にしていけることは色々あるはずで、そういう卵がうまく育っていけばと思います。

国際戦略は、強みと弱みを見極めて、協調と競争で

―個別の技術ばかりでなく、もう少し大きな観点で全体を見て考えてきたのが、新世代ネットワーク研究開発戦略本部だと思います。戦略本部は宮原理事長を本部長として、2007年10月1日に発足。副本部長には村田上席研究員と宮部理事、そして青山友紀プログラムコーディネーターがいます。発足以来2年を経て、戦略本部の方針等について聞かせてください。

村田戦略本部では、まずは新世代ネットワークに関するビジョンを掲げるのが大事だということで、20年後さらには30年後に実現すべきものをじっくり考えること、そのビジョンに基づいて技術戦略や技術ロードマップの策定をし、同時に、海外との連携、標準化戦略、あるいは研究資金戦略について議論してきました。
 特に、新世代ネットワークを考えると、どの部分を海外の諸国と連携し、どの部分を競争していくのかという、協調と競争が大事です。強みの部分では競争、弱みの部分では連携していく。そのためには、強み弱みの分析を行って、それに基づいて来年度から研究開発の実行フェーズに入っていこうと考えています。

宮部確かに海外戦略は極めて大切で、グローバル化の大きな波があって、技術開発は協調と競争という考えでしっかりやらなければならない。
 欧州連合(EU)と全米科学財団(NSF)とは、協調で色々なことをやろうと動いています。EUではFP7(フレームワークプログラム7)が2013年一杯まで、その後のFP8の検討も始まっています。そうしたところを、どのようにやって行くのかを考えなければならない。昨年からEUと合同のミーティング、アメリカとも合同ワーキンググループを持って、現在、動き始めているところです。
 一方、アジアでも、中国とは2回のミーティングを開催しました。韓国も新世代ネットワークに関しては活動が活発で、前向きな取り組みを始めており、12月には「フューチャーネットワーク2020フォーラム」が発足しました。これは、NICTが総務省と推進している「新世代ネットワーク推進フォーラム」と同じような団体で、IP事業者、コンテンツ作成業者、ゲーム開発業者とかICT関係の色々な企業が参画しています。私たちはこれらの国とも今後、うまく協調と競争をしていかなければならない。そのためにも、戦略本部の村田上席研究員が進めてきたことを、さらに発展させていくことが必要です。

―戦略本部にある戦略WGとは、どういうものですか。

原井戦略本部では、企業からの出向者とNICT内の研究者で戦略WGを作って定例の会議を開いています。グループの中だけだと視野が狭くなりがちですが、将来を見据えてという意味では、新世代ネットワークあるいはNICTという垣根を越えて、産業界学術界を強く意識してこれからのネットワーク戦略を考えていかなければ、ということを肌で感じています。

人材育成も夢のあるビジョンの発信で体系的に

―それでは具体的なアプローチについて、聞かせてください。

宮部一般に言われるように、理工離れが進んで優秀な学生が集まりにくくなっている、それも含めて人材育成をやっていかないと、将来のネットワークを支える人材が日本にはいなくなってしまうと思うのです。
 人材育成については、NICTの中では戦略本部を中心に進めていて、国内では新世代ネットワーク推進フォーラムを立ち上げてやっていますが、それだけでは十分ではない。小中学校の段階から理工離れを食い止めるなど、ICT全般の産業基盤を育成する中で位置付けていかなければならない。高校の教育に対して、私たちはサマー・サイエンスキャンプといった形で協力もしていますが、そういうことをもう少し手間暇かけてやる必要があるし、そういう必要性をもっと浸透させていかなければならない。
 子どもたちの科学全般への興味をいかに育てるかということが大切です。興味を持てる形で教育の中に入れ込まなければならない。今は高校の後半あるいは大学に入って初めてそういう世界が見えてくる。それでは遅い。もっと早い時期からこういう面白い世界があるのだということを私たち自身が発信していけるようにしなければと思います。

村田その通りだと思います。ただそうした機会がないのも事実で、我々の場合は、高校生に我々の大学に入ってもらうために、受験してもらわなければならないのですが、我々自身が夢を発信しえていないということが大きいのだと思います。
 そんな状況の中で新世代ネットワークというのは今のインターネットを一旦忘れてクリーン・スレート(白紙の状態)で考えていこうということですから、これは夢を発信する1つのチャンスと思っています。

新世代ネットワーク構築のための技術革新へのアプローチ

村田ネットワークなどの技術は、イーサネットとかLANとかインターネットとか、10年周期で新しいものが出てきますね。新世代ネットワーク推進フォーラムの齊藤忠夫会長に、「なぜ10年周期で新しいものが出てくるのですか」とずいぶん昔に伺ったことがあるのですが、先生は「10年もやれば研究者も飽きるでしょ」とおっしゃられました(笑)。もちろんそれだけでなく、研究・開発・事業化のサイクルなどの理由もありますが、新しい発想をするには一旦クリーン・スレートになることは研究者にとって非常に大事だと思います。そうしないと技術革新は出てこないのではないかという気がします。それがイノベーションにつながるのだと思います。

原井「AKARI」プロジェクトについてですが、私たちは新世代ネットワークの概念設計書というものを作って、毎年アップデートしています。最近の議論では、今のインターネットでは経路表が爆発するという問題がある、それは今のネットワークの構造に問題があるのだから、ネットワークの構造を一から作り直そうという話をしています。今25~30万個もある経路数を数千くらいに抑え、メモリー規模を小さくして消費電力を抑えていくことができるだろうと考えています。アーキテクチャを考える時に光技術を最初から考えるのはよくないかもしれないですが、数千であれば光ルーターがうまく作れるのではないかということで、電気ルーターを光ルーターにリプレイスしていく取り組みをしています。

門脇今は主に人がネットワークをつないでいますが、人があまり意識しないところで、色々なものがつながっているという時代になってきていて、無線もそういう世界になっていく。特にセンサーとかモニタリングの部分は、私たちが普段意識しなくても、身の回りの色々な情報を吸い上げています。例えば、スマートグリッドにもワイヤレスのノードが使われることが増えていくだろうと想定されています。
 まず、センシングという部分がワイヤレスも含めてネットワークされ、その先には、クラウドコンピューティングがあって、そのデータをどのように処理して、生活に反映させるか、今度は逆に、ユーザーの近くにあるアクチュエーターを制御して、結局双方でネットワーク化されていくのではないか、そして、ワイヤレスもその中の重要なファクターだと思っています。
 人間は地球の表面に貼りついて生きていますが、センシングという話になれば、当然空間、宇宙から見るということも出てきます。2次元的な話だけでなく、3次元的にセンサーもアクチュエーターも広がっていきます。だから衛星なども含めて3次元的なネットワーククラウドを作っていく時代が間もなく来るのではないかと思います。

  • * スマートグリッド:電力供給を人手を介さず自動的に最適化できるようにした電力網

宮部膨大な数のセンサーがネットワーク上に広がっていき、それらを有線無線の境目もなく接続しようとした時、今までのプロトコルの延長でやると、途端に破綻をきたす。その辺の取り組みについてはどのようなアプローチをしていますか。

門脇非常に難しい話ですが、個別具体的に言えば、今私たちがやっているコグニティブ無線がひとつのキー・テクノロジーになるのだろう思います。非常に柔軟に電波を使うということが大事で、色々な制限を取り払って、人とモノが移動しても常にコネクションは途切れずにつながっている。そういう技術開発を進めていく必要があると思います。
 それから、有線無線は既に色々なところでつながっています。今のネットワーク技術では、それらをある意味ゲートウェイ的に変換しながらつないでいますが、変換をしないでつなげるものが必要になってくる。光空間伝送する光とファイバーの間を、特殊なデバイスを使わずに一気につないでしまうような技術も、実現しそうなところまできています。なるべく透過性の高いネットワークに、有線と無線がうまくつながっていくような方向性をつけるのがキー・ポイントになっていきます。

期待される「AKARI」の展開と、様々な分野の融合

宮部「AKARI」は、韓国でも注目されていて、「AKARIの概念設計書の英語版はないんですか?」と質問されたり、ネットワーク界の著名な先生が引用したりと、かなり知名度が上がってきていますね。

原井幸いなことに、少しずつモノもできてきた状況で、今年度は積極的に外にアピールしていきたいです。概念だけでなく、その良さを実証していくことで、「AKARI」を示していきたいと思っています。昨年は欧米各国で概念を中心に講演しましたが、今年は中身のところで各研究者が話せるようにしていければといいなと思います。

門脇私のところでは、ネットワークとワイヤレスの融合は具体的には2つほど研究していて、1つは有無線の統合につながるような実験環境を作っていこうとしています。もう1つはJGN2plusの上で動くHotaruというオープンIMSプロジェクトがありますが、そちらと融合したコグニティブ無線ネットワークの実証を行う予定です。そうしたところでワイヤレスの技術とネットワークの技術をうまく融合していけたらと考えています。

細川新世代ネットワーク研究センターとしては、「AKARI」は海外でも評価されるまでにまとまってきていますし、新世代ネットワーク戦略WGがいいビジョンを出してくれたので、方向性はだいぶ見えてきたと思います。それから光の技術では、超高速フォトニックネットワークグループと光波のデバイスあるいはテラヘルツ、ミリ波の技術、それから量子とフォトニックネットワーク、量子と周波数標準、周波数標準とフォトニックネットワークなど、それぞれの関連性が強まってきています。私としてはこれをもっと風通しのいいものにして交流を促進していき、各技術領域の交流を大切にして、これが発展的に続けられるような形にすることがたいへん大事なことだと思います。

村田基礎の話も出ましたが、ネットワーク分野の基礎理論というと、これまでは伝送理論かトラフィック理論が中心でしたが、最近そういうのが使えるところはほとんどない。ネットワークデザインのための科学、いわゆるネットワーク科学を今こそ打ち立てていく必要があります。それを実現する1つの方法が、ほかの科学技術分野との融合だと思っています。物理や、私の場合は生物ですけど、そういう科学分野の融合、それに基づくネットワーク分野の基礎構築が大事だと思います。

―本日はお忙しい中ありがとうございました。

■座談会出席者プロフィール

宮部 博史
理事
新世代ネットワーク研究開発戦略本部 副本部長
東北大学大学院博士課程修了。1980年日本電信電話公社入社。日本電信電話株式会社サービスインテグレーション基盤研究所長、同サイバーコミュニケーション総合研究所長を経て、2008年4月より現職。工学博士。
村田 正幸
上席研究員
新世代ネットワーク研究開発戦略本部 副本部長
大阪大学大学院情報科学研究科 教授
1982年大阪大学大学院基礎工学部情報工学科卒業、1984年同大学 基礎工学研究科博士前期課程修了。同年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。同社東京基礎研究所を経て、1987年から大阪大学勤務。1999年同大学基礎工学研究科教授、2000年同大学サイバーメディアセンター教授。2004年より現職。工学博士。2007年よりNICT上席研究員、新世代ネットワーク研究開発戦略本部副本部長。
細川 瑞彦
新世代ネットワーク研究センター センター長 東北大学大学院理学研究科博士課程修了後、1990年4月郵政省通信総合研究所(現NICT)入所。標準計測部において時空計測、原子標準の研究に従事した後、光・時空標準グループリーダー、総合企画部統括を経て、2009年4月より現職。理学博士。
門脇 直人
新世代ワイヤレス研究センター センター長 東北大学大学院修士課程修了後、三菱電機株式会社を経て、1986年に郵政省電波研究所(現NICT)入所、移動体衛星通信、高速衛星ネットワークなどの研究に従事。
原井 洋明
新世代ネットワーク研究センター ネットワークアーキテクチャグループ グループリーダー 大阪大学大学院博士課程修了後、1998年郵政省通信総合研究所(現NICT)に入所。光ネットワーク制御、光パケットスイッチ設計、新世代ネットワーク設計の研究等に従事。博士(工学)。
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