大学発スタートアップが研究成果を商品化。デフリンピックで実証実験、ウェアラブル触覚デバイス「Hapbeat(ハップビート)」開発秘話(2/4)

2.誰もが臨場感を共有できる場を目指してーデフリンピックで実証されたアクセシビリティの可能性

東京デフリンピック2025で触覚演出システム「HapVibeCast(ハップ・バイブ・キャスト)」が活用されたと伺いました。どのような場面で使用されたのでしょうか。また、調整が必要だった点があれば教えてください。

 「HapVibeCast」は、マイクや加速度センサーで音と振動を検知し、高速フーリエ変換*2や閾値判定で処理後、無線で「Hapbeat」に送信するものです。
今回の東京デフリンピック2025では、柔道の試合で使わせていただきました。試合を単に「見る」だけでなく、柔道特有の擦り足や、重打、軽打の3種類の音を「Hapbeat」を通じて振動に変換し、観客に伝えました。東京武道館で4回ほど実地検証を行いましたが、動作を自動かつ極力低遅延で判別する必要があり、その点にはかなり試行錯誤を繰り返しました。当初は機械学習*3を用いたアプローチを想定していましたが、検討を進める中でリアルタイム性が求められる今回のケースにおいては、現実的ではないと判断しました。本番環境が不明確であること、および数十ミリ秒の遅延でもリアルタイム用途では大きな問題になることから、本番で安定した精度を確保するのは難しいと判断したためです。実証実験の2回目には、どのように検知してHapbeatと連動させるか、大まかな見通しが立ちました。

*2:時間領域の信号(波形)を周波数領域の成分に変換する「離散フーリエ変換(DFT)」を、計算量を大幅に減らして高速に実行するためのアルゴリズム群の総称
*3:コンピューターが大量のデータからパターンやルールを自動で学習し、その知識をもとに予測や分類、意思決定を行う技術

デフリンピックでは、聴覚障がい者の方からどのような感想が聞かれましたか。

 デフリンピックでは、実際に使用された方々にアンケートへのご協力をお願いしました。その結果、概ね好評な反応をいただくことができました。臨場感や迫力、面白さ、感動があったといったポジティブな感想が多く寄せられ、触覚技術を活用した体験は聴覚障がい者に有用であることが期待できる結果となりました。また、出展会場や各種イベントで体験していただいた際にも、ほとんどの方に喜んでいただけた印象です。
一方で、触覚体験は、人によって「合う・合わない」が分かれやすいです。実際に、デフリンピックのアンケートでも1~2割程度の方はネガティブに捉えられていました。そのため、受け入れ方には個人差があることを前提に、体験を設計していく必要があると考えています。

参考:デフリンピックアンケート結果

取得した信号をもとにオペレーション卓で触覚信号を生成し、観客席の Hapbeat デバイスやディスプレイに送信
デフリンピックでは、競技場での上記3つの音を「Hapbeat」の振動で表現
「Hapbeat」を装着して観戦している様子