健康寿命を伸ばすための社会インフラへー筋力から高齢者の“変化の予兆”を捉える見守りの新しいかたち(3/4)

3.高齢者が楽しみながら毎日続けられる仕組み作りが大切

高齢者の能動的な行動を促し筋力の変化を定期的に取得するために、どのような配慮や仕組みを取り入れたか詳しく教えてください。

 街の電器店としての経験から得た2つの気づきがこのシステムに活かされています。

 1つ目は、「心理に関する気づき」です。たとえば、いつもと異なる状況が生じると、「その状態を元に戻したい」「解消したい」という心理が働くことがあります。あるとき、テレビをご購入された方のお宅から「リモコンでテレビの電源を切っても画面のランプが点いたままだが、どうすれば消えるのか」という電話を受けました。このように、「普段と違う状態があると気になって仕方がない」という反応を日常的に目にしてきました。また、生活空間に見慣れないものが置かれていると、「不要なもの」と感じて処分してしまうことがあるということも経験からわかっていましたので、こうした心理をうまく活用できるのではないかと考えました。

 2つ目は、「楽しみにつながるものにしたい」という点です。ある高齢女性のお宅で作業をしていた際、その方が貯金箱に話しかけている様子を目にしました。その貯金箱は、お金を入れると「もっと頑張って貯金しようね」などと音声が流れる仕組みになっており、その貯金箱とのメッセージのやりとりを楽しんでいました。これら2つの気づきを組み合わせてシステムに取り入れれば、監視されていると感じることなく、楽しみながら日常を過ごしてもらえるのではないか、そう考え、以下の5つの条件をもとに開発を進めました。

  ・動作したら、楽しめるイベントを発生させる
  ・イベントが発生したら、表示を消す動作につなげる
  ・表示を消す動作でデータを取得する
  ・表示を消したら、高齢者が楽しめるメッセージやイラストを表示させる
  ・1日4回、メッセージやイラストを表示させて定期的な見守りにつなげる

 これらをもとに開発したのが、指でボタンを押して見守りができるシステム「つまモーネ」です。

ボタンをつまんで押すことで筋力を測定する仕組み。高齢者の方には、握る動作よりもつまむ動作の方が継続につながる
ボタンをつまんで筋力が計測された後、楽しめるメッセージやイラストを表示させる

試作品の反応はいかがでしたか。エピソードがあったら教えてください。

 試作品が完成した後、私は最初にお得意様の近所の女性に試していただくことにしました。その方は高齢で一人暮らしをされていますが、日々の暮らしをとても丁寧に営んでおり、いつも笑顔で接してくださる上品な方です。

 実はそれまでにも何度か「試作品を試してほしい」とお願いしていましたが、「監視されているのは嫌」と強い抵抗感を示され、なかなか受け入れてもらえませんでした。それでも、「なんとか一晩だけでも使ってほしい」と懇願し試していただいたところ、翌朝一番に電話がかかってきました。「きっとお叱りの電話だろう」と身構えながら受話器を取った瞬間、興奮した様子で、「これ、とても楽しい!ずっと置いてほしいくらい!」と叫ばれたのです。その言葉を聞いた瞬間の喜びは、今でもはっきりと覚えています。

 試作品の開発には本当に多くの時間を費やし、さまざまな高齢者にご協力いただきながら、感想や意見をもとに実証試験を重ねてきました。その結果、「まったく抵抗感がない」という声を数多くいただくことができました。仮説として立てていた「能動的な動作を促す仕組み」が有効であることが、ここで明らかになったのです。開発を開始してからすでに10年以上が経過し、これまでに行ったバージョンアップは少なくとも300回以上にのぼります。サーバー側の改修も含めると、改良の回数は数百回を超えています。そして、現在もなお、新たな機能を取り入れるための改良を続けています。


今年2月には、KAiGO DESIGN AWARD 2026 ビジネスアイデア部門 優秀賞/MySCUE大賞を受賞しました。

「つまモーネ」は、一台で見守りと筋力測定の両方を叶える