北京オリンピックにおける多言語情報サービス
北京五輪組織委員会は、多くの外国人観客へのサービスとして、北京オリンピック開催期間中に、公式の多言語情報サービスを運用していました。サービスの概要を図1に示します。多言語総合情報データベースを中核に、さまざまな公式サービスがオリンピック会場の内外で行われていました。この公式サービスにおいて、テキスト翻訳システムは組織委員会からのニュースを翻訳するなど、データベース作成用に用いられるほか、会場に設置されたインフォメーションブースでも利用できました(図2)。この多言語データベースはCAPINFO(首都信息発展股 有限公司)が担当しましたが、NICTはCAPINFOと昨年12月に研究開発協力の覚書に調印し、中日テキスト翻訳システムの提供者の1つとして技術提供を行ってきました。この協力に対し、北京オリンピック終了後10月15日に北京においてCAPINFOからNICTに対し、北京オリンピックでの中日情報サービスの成功にはNICTの協力によるところが多である旨の感謝状が贈られました。
テキスト翻訳システム
NICTでは平成18年度から科学技術振興調整費の助成を受け、京都大学、東京大学、静岡大学、科学技術振興機構とともに日中・中日機械翻訳システムの開発を行っています。ここで使われる翻訳エンジンは京都大学の開発したものを基にしており、CAPINFOから提供を受けた北京観光や競技に関する中国語文書を日本語に翻訳した対訳データベースを作成することにより、今回の目的に特化した高性能のシステムとしました。
北京五輪組織委員会の公式システムに組み込まれるためには、組織委員会の定めた評価基準を満たすことを第三者機関が検証することが要求されます。アライメント技術の向上や対訳データベースの作成により性能向上を図り、中国科学院計算技術研究所により北京五輪組織委員会の評価基準を満たしていると認定されました。
北京観光案内システム
NICTでは翻訳エンジンの改良用に作成したデータベースを活用し、CAPINFOと協力して、日本語による北京観光案内システムを開発しました(図3)。このシステムは北京オリンピックの全期間を通して、日本人観客が集中する場所を選んで設置され、好評でした。
CAPINFOとNICTは北京オリンピック終了後も北京観光についての相互協力を続けることで合意しており、このシステムはその第一歩となるものです。今後もNICTでは北京観光を中心にCAPINFOをはじめとする中国機関と協力を進めていく予定です。
Profile
井佐原 均(いさはら ひとし)
上席研究員
大学院修士課程修了後、通商産業省工業技術院電子技術総合研究所を経て、1995年に郵政省通信総合研究所(現NICT)に入所。自然言語に関する研究に従事。博士(工学)。