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無線ボディエリアネットワークと技術課題 浜口 清
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無線ボディエリアネットワークと技術課題 新世代ワイヤレス研究センター 医療支援ICTグループ グループリーダー 浜口 清

無線ボディエリアネットワークとは

無線ボディエリアネットワーク(BAN)は、からだ表面(ウェアラブル)及び体内(インプラント)に配置された無線センサによって作られる無線センサネットワークの一種です。BANではからだを取り巻くようにして無線ネットワークが作られます。BANを用いた医療分野における利活用の例には、BANが携帯電話などを通して外部ネットワークに接続され、心電、動脈血酸素飽和度、体温といった生体情報を医療・ヘルスケア等に利用することが考えられます。例えば、加速度センサを用いてからだの各部位の運動量をセンシングすることにより、遠隔地にいる理学療法士が外傷後の機能回復状態を確認できる他、高齢者の転倒事故をいち早く検知し救急活動を行うことも可能になります(図1参照)。入院患者が生体情報センサを複数装着しても、ケーブルレスであることから患者への負荷や行動制約が大幅に軽減できることが期待されます。
 インプラントBANを用いた応用では、体内埋め込み型血糖センサとウェアラブル型インシュリンポンプでBANを構築し、体内センサの情報からインシュリン注入量を制御する応用が考えられます。その他、カプセル内視鏡やペースメーカとウェアラブル端末間でのBANも考えられ、いずれも患者への少ない負荷で生体内のさまざまな情報を取り出し、最適なケアが行えるよう生体情報が利用されます。

図1●試作したアクセサリ型多素子心電・加速度計(搭載のセキュリティ技術は、センサから得るデータを暗号化キー生成に利用することで特別なキー設定を不要とします。特にキー生成のための計算量を極めて少なくして低消費電力化しています)

技術課題について

様々な応用先を持つBAN技術ですが、その技術の確立には多くの課題があります。例えば、無線リンク品質を推測するための電波伝搬モデルの解析があります。ここで、NICTで実施した電波伝搬特性測定の様子を図2に示します。からだの裏表にセンサ端末がある場合、1GHz以下の電波を利用したBANは回折によって通信が途絶えにくい利点のあることが分かりましたが、利用できる周波数帯は逼迫しています。一方の高周波数帯には、より通信速度が速く手軽に利用できるISM(産業科学医療用)やUWB(超広帯域無線)といった無線周波数帯があります。すなわち、BANで利用される無線周波数は、アプリケーション(この場合、通信速度)を条件に電波伝搬特性の特徴を考慮して決定する必要があります。
 インプラントBANでは、体内組織の電気定数を与えたNICT数値人体モデルによる計算機解析も行っており、周波数が低いほど電波の減衰が小さいことが分かりました。これまでからだ周りの電波伝搬モデルは網羅的に検討された例が見当たらず、特に人が動く場合の動的モデル解析は世界的に見ても未知な領域のため、私達は現在、その解析に挑戦しています。
 この他にも、BAN端末から放射される電磁波のからだ及び医療機器へ与える影響の検討、無線リンク品質を向上させる変復調及びメディアアクセス制御技術や、低消費電力で個人情報(=生体情報)を安心して伝送するための暗号化技術など検討すべき課題として取り組んでいます。

図2●人体周辺での電波伝搬特性モデル化に向けた測定の様子


Profile

浜口 清浜口 清(はまぐち きよし)
新世代ワイヤレス研究センター 医療支援ICTグループ グループリーダー
大学院修了後、メーカを経て、1993年通信総合研究所(現NICT)に入所。ディジタル陸上移動通信方式、超広帯域通信システム、医療・ヘルスケア応用向け通信技術などに関する研究に従事。博士(工学)。

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