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地域社会と個人生活を豊かにする地域情報共有通信網 NerveNet インフラストラクチャとしてのセンサー・アクチュエータネットワーク
  • *1 センサー・アクチュエータネットワーク:多様な環境情報や生体情報の検知(センシング)、解析(データ処理)、解析結果に基づく環境や生体に対する物理的な作用(アクチュエーション)という基本動作サイクルを定期的もしくはオンデマンドで実行するための、構成ノードによるルーティング及びアドレッシングを含む通信ネットワーク、もしくはその通信ネットワークと一連のデータ処理系を含む協調的通信システム。

地域神経網の役割を果たすNerveNet

あふれるほどの大量の情報が生み出される未来社会では、情報探索の時間とコストを削減するために、一人ひとりに対して適切な情報が適切なタイミングで自動的に配信される環境の実現が期待されています。また、総務大臣による「原口ビジョン」では、ICTによる地域活性化が打ち出されています。
 2015年以降の新世代ネットワークでは、地域社会や住民、あるいはその地域を訪れた人が求める情報やサービスが適切なタイミングで提供されるネットワーク、災害など非常時にも頼りになるネットワークが必要だと考えました。それが、地域情報共有通信網「NerveNet」です。ネットワークに接続されたセンサーが、気象、交通、災害、防犯などの地域事象や家族や個々人の動きなどを感知し、それらの情報に基づいて地域や個々人が求める情報やサービスを提供したり、将来的にはネットワークに接続されたロボットに指令を出したりします。NerveNetは、このように地域の神経網の役割を果たすことから名付けたものです。

未来の地域社会基盤に求められる3つの機能

1つめは、「プラットフォーム」機能です。登下校時に特定個所を児童が通過したことを家族に通知する児童見守りシステムの実証実験が各地で行われていますが、システム構築・運用費等のコストが高く、今のままでは実用化が難しい状況です。ネットワークやシステムを単独アプリケーションだけのために構成するのではなく、多様なアプリケーションが提供できる社会基盤として構築することで相対的にコスト低減を図り、実用化することが大切です。
 2つめは、「自律・自動的にネットワークを構成する」機能です。地域の情報通信サービス会社や自治体、NPOなどが地域ニーズに基づいて適宜ネットワークを構築できるようにするためには、簡易に設置されたものでも無線や有線による接続が自動的に確立する仕組みが大切です。自然災害の際にもネットワーク機能を存続させるために、ネットワークの一部がダウンしても自律的にネットワーク構成を変更して機能維持できることも必要です。
 3つめはセンサー情報の「安全・確実な伝送」です。現在は、携帯電話やパソコン上でユーザIDとパスワードを手入力してウェブサイトや企業ネットワークに遠隔からログインする方法が一般的です。また、自分のメールやファイルの格納場所やそこまでの通信経路が不明なのはクラウドの利点かつ欠点です。将来は、気象など公共情報とともに組織や個人に関する重要情報も、無人動作のセンサーが発信します。センサーが発信する情報が安全・確実に所定の送信先まで届けられる仕組みが必要です。

  • *2 地域クラウド:クラウド・コンピューティング技術を活用し、地方自治体の行政システム効率化・低コスト化を目指すクラウドの概念を民間にまで拡大したもの。筆者は、地域の民間企業の業務システムや地域向けサービス提供システムにも活用するものとして、地域クラウドを定義する。地方自治体が実施するサービスとして成長させ、地域のセールスポイントと雇用創出につなげていく狙いである。

分散通信制御と分散情報処理を一体化したNerveNet

無線や有線経由で相互接続可能な基地局を高密度に配置し、移動端末やセンサー、アクチュエータなどエンド端末を無線で収容します(図1)。地域の各センターや教育機関、サービス提供企業、個人宅などにはCSG(Community Service Gateway)を置きます。各CSGは網上にそれぞれの論理ドメインを形成し、所属するエンド端末を管理します。そして、データベース(DB)に記録されるセンサー情報を使った各種アプリケーションが稼働し、エンド端末に情報やサービスを提供します。例えばAさん宅のCSGは、Aさんの家族が所有する移動端末の登録や網接続、位置情報を管理します。家族の位置情報を第3者に提供することなく、子ども見守りや歩行距離把握による自己健康管理などが可能です。NerveNetは、世帯を含むさまざまな組織のCSGを収容し、それらにより防災、健康医療、福祉、交通、教育等の官公・民間・プライベートの各種サービスが提供されるプラットフォームとして機能します。
 基地局は周辺の基地局を探索して無線接続を確立します。そして遠隔の基地局に至る通信経路を探索し、発見した複数の通信経路を把握します。通信障害が発生しても、別の通信経路に瞬時に切り換えます。このようにして自律・自動的なネットワーク構成と維持を行います。
 センサー情報を安全・確実に伝送する仕組みを図2で説明します。(1)センサーからの信号は、(2)センサー情報トンネルが生成されて移動端末まで運ばれ、モバイル認証パスが生成されてCSGのDBまで伝送され保存されます。これは必要な時にのみ、また移動端末とCSGとの間で認証が確認された時に限り行われます。(3)これにより安全・確実なセンサー情報伝送を実現します。また、同じセンサーを複数の人や組織が共有できることも特徴です。(4)センサー情報に基づいた情報やサービスは、(2)と同様にモバイル認証パス経由で移動端末へ提供されます。
 基地局がDBを搭載し、分散情報処理を行うこともNerveNetの特徴です。多くのユーザが必要とする情報は常にNerveNetに登録され、DBに蓄積されます。例えば、店舗を選ばずに近隣店舗からタイムセール情報が欲しいユーザには、居場所と時刻に基づいて近隣店舗の広告が通知されます。基地局のDBは、接続中のユーザ情報や周辺のAED(自動体外式除細動器)など、重要情報を分散蓄積することもでき、災害時には稼働中の基地局に接続して情報を取り出すことで、周辺の災害前の状況を確認することができます。

NerveNetアプリケーション例
?インタラクティブ機能を持つ電子広告配信

総務省SCOPE(戦略的情報通信研究開発推進制度)に提案した「地域ビジネスのためのユーザコンテキストに基づくリアルタイム広告配信システムの研究開発」が平成21年度に採択されました。新聞折り込み広告は、エリアは指定できても受け取る人の特性は把握できず、また広告効果を定量的に把握できないという課題があります。研究対象は、ユーザの氏名住所等の個人情報を用いることなく、移動端末に設定したユーザ属性、嗜好と端末位置情報のみを使い、店舗が求めるユーザが多くいると思われるエリアに最新の広告を配信し、その効果を店舗側が定量的に把握できるシステムです(図3)。店舗は、ユーザが実際に来店したことを自動的に検知して広告効果を確認できます。配信対象ユーザ、配信エリア、タイミング等を最適化していくこともできます。これはNerveNetで可能になるアプリケーションの一例です。

今後の展開

 NICT本部(小金井)敷地内にてテストベッドを用い、大規模な環境での性能検証を行います。そののち、地方自治体の協力のもとでNerveNetのサブセットをその地域内に構築し、ユーザ参加型の実証実験を行う計画を進めています。その後の技術改良と、未知のアプリケーションをユーザに体験してもらい、新しいICTの有効性を知ってもらうことが目的です。これら研究活動の成果を新世代ネットワークの設計に活かしていきます。

井上 真杉
井上 真杉(いのうえ ますぎ)
新世代ネットワーク研究センター
ネットワークアーキテクチャグループ
研究マネージャー
大学院博士課程修了後、1997年に郵政省電波研究所(現 NICT)に入所。ミリ波超高速無線LAN、第4世代移動通信、新世代ネットワークなどの研究に従事。博士(工学)。
独立行政法人
情報通信研究機構
総合企画部 広報室
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