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電磁波計測研究所 原子・分子から宇宙空間まで、電磁波計測技術によって課題解決に取り組む 井口 俊夫

電磁波計測研究所は、センシング基盤研究室、センシングシステム研究室、宇宙環境インフォマティクス研究室、時空標準研究室および電磁環境研究室の5つの研究室体制で発足します。これら5つの研究室が目標とする対象は、原子・分子から宇宙空間までの幅広い空間スケールにわたっており、実利用への寄与の仕方も様々です。研究所全体を通して電磁波という共通項がありますが、それには電磁波を計測するという意味と電磁波を使って計測するという2つの意味があります。さらに後者の電磁波を使って計測する研究には2つの側面があります。1つは、電磁波そのものの性質を熟知し、電磁波を使いこなすための研究です。これには、電磁波の発生・受信のための技術、さらには伝搬、散乱、吸収についての知識が必要であり、主にレーダや受信機の開発など工学的な側面を持った研究です。もう1つは測定される対象についての研究であり、対象が雲・雨など気象現象であれば気象学、生体であれば生物学といった理学的な側面を持ちます。当研究所では工学研究者と理学研究者が協力し合って問題に取り組み、最大の成果を実現させる環境を作りたいと思っています。

5つの研究室の第3期計画における目標について簡単に述べます。

センシング基盤研究室

地球温暖化等の地球環境変動の診断をより的確なものにする大気組成等の高精度グローバル観測技術の実現に資するため、ミリ波以上の高周波電磁波を用いて大気組成及びそれらの循環に関するデータを収集するリモートセンシング技術を研究開発します。

センシングシステム研究室

短時間に降雨の3次元分布の把握を可能とする次世代ドップラレーダや衛星搭載レーダ等の先端的レーダシステム構築技術を確立するとともに、その検証等を踏まえた高性能かつ高機能なデータ取得・処理基盤技術を研究開発します。また、航空機SAR(合成開口レーダ)を用いて高分解能SAR(分解能30cm)の応用検証を行うとともに、発展的な観測手法の開発を目指して地上や海上の移動体の速度計測技術等の先導的な研究開発を行います。

宇宙環境インフォマティクス研究室

宇宙を含む人類活動圏の環境情報技術分野において、アジア・オセアニア域を中心に構築する国際的で多種多様な宇宙・地球環境データの観測・収集・管理・解析・配信を統合的に行う体制をもとに、観測・センシング技術および数値計算技術を総合し、これらによる大規模データを計算機クラウド上で処理するためのインフォマティクス技術を確立します。

時空標準研究室

日本標準時の生成、供給業務の高度化および次世代時空標準利用技術の研究開発を通じて、国民への信頼できる高精度時空間基盤・周波数標準を提供します。また、光周波数標準および次世代時空計測技術の研究開発により秒の再定義への貢献、時空の一体的標準の構築に寄与します。

電磁環境研究室

電波利用の一層の多様化・高度化、省エネルギー機器等の急速な普及が見込まれる中、情報通信機器や通信システムが電磁波による干渉を受けることなく動作し、人体に対しても安心かつ安全に使用できるようにするため、電磁環境計測技術に関する研究開発を行います。また無線機器の検定・較正業務を通じて電磁環境の確実な維持に貢献します。

今回の組織構築に当たって重視した点の1つに研究成果の展開があります。当研究所の研究テーマには実利用に近い段階まで成熟しているものもあれば、将来大きく花開く可能性のある萌芽的研究まで多岐にわたっています。電磁環境研究室の型式検定と較正、時空標準研究室の日本標準時の生成、供給と周波数較正、宇宙環境インフォマティックス研究室の宇宙天気予報などは業務として行っています。その一方で、最後の未利用周波数帯でもあるテラヘルツ帯の電磁波利用の開拓は将来の展開が期待できるテーマの1つです。実利用への展開を積極的に進めつつ、将来の芽を大切に育てていく研究所となるようにしたいと思います。

電磁波計測研究所の研究配置図
井口 俊夫
井口 俊夫(いぐち としお)
大学院修了後、研究員を経て、1985年電波研究所(現NICT)に入所。海洋レーダの開発、熱帯降雨観測衛星のデータ処理アルゴリズム開発など、リモートセンシングの研究に従事。Ph.D.
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