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多摩科学技術高校科学技術アドバイザー特別授業の報告 電磁波計測研究所 センシング基盤研究室 主任研究員 笠井康子

6月6日、快晴の中、都立多摩科学技術高等学校で実施された「科学技術アドバイザー特別授業」に出かけて参りました。高校2年生を対象とした1時間半の授業でした。今回は以下の5つの授業があり、生徒たちはその中から好きな授業を選ぶ形式でした。もし皆さんが高校生でしたら、どの授業を受けたいと思いますか?

  1. 「宇宙から観測する地球」 情報通信研究機構
  2. 「環境とバイオ」 東京工科大学
  3. 「役立つ数学」 東京農工大学
  4. 「わたしたちの生活をささえる半導体電子デバイス」 日立製作所中央研究所
  5. 「ヒューマノイドロボット研究とその応用」 早稲田大学

一般に、学生への講義は、大学院生→大学生→高校生→中学生→小学生→幼稚園児と年齢が低くなるほど難しくなります。より広範囲で深く本質的なことを、より簡単な言葉で説明しなければならなくなるからです。高校生に「宇宙から観測する地球」の講義を行うにあたっては、たいそう悩みました。私がこれまで積み重ねてきた大学院や大学の講義資料は使えません。講義の準備は、まず、「高校生は私たちから何を習いたいのか、我々NICT研究者のミッションは何か」を考えるところから始まりました。日本の平均寿命は約80歳、高校2年生は17歳、平均的には彼らはこれから約63年間の人生があります。何年かの学生生活を過ごし、その後、社会の一員として大事な役割を果たして行くことになります。そのような人たちにNICTの研究者が伝えるべきことは何でしょうか。今回の「宇宙から観測する地球」講義では、前半は地球に住む人間としての教養を身につけてもらうことを目的に「地球人とは何か」を勉強しました。私がこれまでの研究生活(物理化学、電波天文学、地球惑星リモートセンシング)の中で得てきた一般的な幅広い知識の中から、地球の存在をある一面から切り出したものです。後半は世界の最前線の地球観測研究の例として、NICTの宇宙からのサブミリ波地球大気観測研究を紹介しました。

「地球人とは何か」では、地球が宇宙の中のどこにあるかを空間・時間的に確認しました。空間的には多摩科学技術高校の日本国内の住所→日本の地球内の位置(住所)を確認した後、さらに、地球の太陽系内の位置→太陽系の我々の銀河系内の位置→我々の銀河系の位置をNASA提供の美しい画像ビデオと共に旅しました。また、時間的には、地球の年齢とこれまでたどってきた道を確認しました。地球の寿命は(太陽と同じと考えると)おおよそ90億年、そして現在は約46億歳になったところです。人間でいえば壮年期の地球。誕生からこれまで、そしてこれからどうなるか、を勉強しました。

「世界の最先端の地球大気観測研究」では、NICTがJAXAと共同開発した国際宇宙ステーション搭載の超伝導サブミリ波サウンダSMILESを取り上げ、地球大気の観測について紹介しました。SMILESに関してはこれまでに何度かNICTニュースでも取り上げているので詳細は報告しませんが、NASAの技術を遥かにしのぐ、日本が誇る「ぶっちぎりのSMILES成果」の迫力には高校生も楽しんだと後から伺いました。

宇宙からの地球観測に従事することを目指すには、勉強や研究能力のほかに、衛星提案から打ち上げまでの長い10年間を耐える胆力と粘りを必要とします。その困難さと迫力も伝えるように努力しました。高校生諸君には、今回の授業で地球の「位置」を知ることで地球をより愛おしく思い、これからの60年以上、スケールの大きな深い胆力をもって日々生活してくれることを望みます。そしてSMILESのような極みの技術開発を目指す学生諸君がひとりでも増えることを期待しています。

●授業で使用した資料の一部
●授業で使用した資料の一部

●熱心に講義に聞き入る生徒たち
●熱心に講義に聞き入る生徒たち

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