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準天頂衛星初号機「みちびき」打ち上げられる! 新世代ネットワーク研究センター 光・時空標準グループ 研究マネージャー 浜 真一

2010年9月11日夜、私たちは種子島宇宙センターから数km離れた駐車場で地元の方たちと共に、天の川が見えるよく晴れた夜空を見上げていました。そして20時17分00秒、予定から1秒も違わずオレンジ色の光が遠くに出現しました。準天頂測位衛星の初号機「みちびき」を搭載したH-IIAロケットが打ち上がったのです(図1)。

図1●準天頂衛星打ち上げの瞬間

傾斜軌道を利用すれば、日本のような中緯度地域にいるユーザでも衛星を高仰角で見ることができ、ビルの谷間を走る移動体でもシャドウイング(物体の背後になることによりその箇所に電波が到達しない現象)にわずらわされずに通信・放送が享受できる―日本では1972年に、電波研究所(現NICT)衛星管制研究室の高橋耕三氏が提案したのが発端です。しかし当時は、この軌道を維持するために多くの燃料が必要と思われ、実用サービスには向かないとされていました。しかしその後、衛星軌道の研究をしていた木村和宏主任研究員(当時)により、静止軌道衛星と同程度の燃料消費で準天頂軌道を利用できることを明らかにして、準天頂衛星というものが現実的になり、また産業界からも準天頂軌道を利用した通信・放送サービスの提案がされるようになりました。

一方、GPS等の衛星測位サービスの利用は急激な広がりを見せると共に、我が国でも米国のみに頼らない国産の衛星測位技術を持つべきとの議論がなされ、宇宙開発委員会の分科会ではキーとなる技術は我が国が開発する必要があるとの答申が出されました。このような背景のもとで2003年度より、民間が通信・放送を、国(文部科学省・総務省・経済産業省・国土交通省)が測位を担当するという官民連携の準天頂衛星プロジェクトが開始されました。NICTも総務省からの受託により、時刻管理系等の研究開発を行うことになりました。

その後の状況変化などで、2006年度からこのプロジェクトは国の測位ミッションのみとなり、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が取りまとめて進めることになりました。測位ミッションでは、GPSの補完(高仰角にGPSと相互運用性を有する衛星を配し、可視性を高める)と補強(L1-SAIF、LEXという信号に載せた補強データを用いて、測位精度を改善する)が目的となっています。

時刻管理系の目的は、衛星に搭載した原子時計、協定世界時UTC(NICT)とリンクした地上局、軌道決定のためのモニタ局、GPS時刻が準拠するUTC(USNO)を生成する米国海軍天文台(USNO)、という各要素間の時刻関係を管理することです。この中では衛星搭載時計と地上局との時刻比較が特に大きな課題であり、NICTが培った衛星双方向時刻・周波数比較(TWSTFT)の技術を利用し、衛星・地上間で双方向比較を行うことにしました。

搭載機器は、心臓部である時刻比較装置(TCU)と、地上局との間でKu帯の信号を送受信するための通信装置から構成されます(図2に測位ミッションの搭載機器を示します)。TCUは、オンボードでの搭載原子時計同士の比較、L帯3信号間の比較も行います。また衛星を単に通信の中継器として使うベントパイプ機能も有し、非静止衛星を用いた地上局間のTWSTFT実験も行う予定です。

図2●測位ミッションの搭載機器(赤の一点鎖線内がNICTの開発部分)

地上系は、衛星との時刻比較を行う時刻制御実験局を、UTC(NICT)を生成する小金井と衛星が24時間可視となる沖縄とに設置、またサロベツ・父島・カウアイ島の3ケ所のモニタ局にTWSTFT機能を設置しました。図3に沖縄局の3.7m径全天駆動アンテナを示します。ハワイにあるカウアイ局は、小金井と米国東海岸にあるUSNOとの中間にあるため、両者をつなぐTWSTFTの中継点としても機能します。各地上局はテレメトリ(遠隔でデータを取得)、コマンド(機器への動作指令)やデータをJAXAのマスター制御局とやりとりするなどのため、他機関と多くのインターフェイス調整や整合性確認の試験が必要となりました。

衛星からのダウンリンク信号は、まず10月4日小金井局にて受信が確認され、その後沖縄局でも受信確認を行いました(図4に受信信号のスペクトルを示します)。11月から搭載機器・地上系の初期機能確認試験を実施しています。この原稿執筆時点(11月21日)で、搭載機器に大きな問題点も無く初期機能確認試験の前半が終わったので、順調に12月中旬からの技術実証実験フェイズに入れると期待できます。

技術実証実験で上記の搭載機器の機能・性能を確認するほか、産業技術総合研究所(産総研)の実験への協力、準天頂衛星特有のLEX信号を利用した実験、可搬型時刻制御実験局の開発・実験、SLRを利用した測距実験なども予定されています。

このプロジェクトは総務省・メーカー・JAXA・産総研の関係の方々、退職や異動で現在はプロジェクトから離れた方々、その他非常に多くの方にお世話になっています。この場を借りて感謝いたします。

図3●沖縄局の3.7m径アンテナ
図4●衛星からの双方向ダウンリンク信号(沖縄局での受信スペクトル)
浜 真一
浜 真一(はま しんいち)
新世代ネットワーク研究センター 光・時空標準グループ 研究マネージャー
1980年電波研究所(現NICT)に入所後、VLBI(超長基線電波干渉計)、パルサータイミング、衛星通信の研究に従事。現在は総務省からの受託により、準天頂衛星システムの時刻管理系の研究に従事している。
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