• facebook
  • x
  • instagram
  • youtube

巨大磁気嵐が地球大気由来の酸素イオンを宇宙へ大量輸送

2026年6月18日

国立研究開発法人情報通信研究機構

国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が参画した九州大学国際宇宙惑星環境研究センター・尾花由紀特任准教授らの研究グループは、ニュージーランドを中心とした地上磁力計観測網と、JAXAのジオスペース探査衛星「あらせ」の観測データを組み合わせることで、2024年5月10–11日の巨大磁気嵐時 ※1に、地球近傍宇宙空間で酸素イオンが異常増加していたことを発見しました。NICTではGNSS衛星を用いた電離圏全電子数の観測 ※2を行っており、当観測を通じて本研究に貢献しました。

背景

地球周辺の宇宙には、地球大気起源のプラズマが磁場に捕まって広がる「プラズマ圏」があり、主に軽い水素イオンで構成されています。磁気嵐が発生すると、プラズマ圏の酸素イオンが増加し、電磁波動の伝搬や、高エネルギー粒子の生成・輸送過程に大きく影響します。プラズマ圏内の酸素イオンは、磁気嵐の回復段階において、地球半径3-4倍程度の距離にあるプラズマ圏の外側に近い部分で増加し、通常の10〜20%ほど増えることが知られています。今回の研究では、2024年5月の巨大磁気嵐を対象に観測データを解析し、巨大磁気嵐時のプラズマ圏の酸素イオン増加についてそのメカニズム解明を目指しました。

内容

地上磁力計ネットワークとジオスペース探査衛星「あらせ」の観測データを解析した結果、2024年5月の巨大磁気嵐時に、ニュージーランド上空のプラズマ圏において、プラズマ密度が通常の数倍から1桁以上高い極端な高密度状態に達していたことが明らかになりました。さらに平均イオン質量の解析から、このときプラズマ圏の90%以上が酸素イオンで占められていたことが分かりました。特に、この酸素イオンの増加は、磁気嵐の発達段階で、かつ地球半径2倍程度の地球にごく近い領域で観測された点で極めて特異な現象です。また、電離圏全電子数の減少や高エネルギーイオンと冷たいプラズマの共存や電子温度の上昇も確認されました。これらの結果は、巨大磁気嵐に伴って地球大気由来の酸素イオンが宇宙空間へ大量に輸送されていたことを示すものです。

本研究により示唆される、磁気嵐発達段階におけるプラズマ圏内酸素イオン異常増加のメカニズム

成果の意義

本研究は、巨大磁気嵐の最中に地球近傍で酸素イオンが極端に増加する現象を世界で初めて明らかにしたものです。従来想定されていなかった領域での異常な酸素イオン増加や、異なる起源をもつプラズマの共存を観測し、局所的なエネルギー交換の存在を示しました。これらの成果は、磁気圏と電離圏の結合過程に新たな理解をもたらすとともに、人工衛星障害や高エネルギー粒子環境変動に関わる宇宙天気研究への貢献が期待されます。


※1 2024年5月の巨大磁気嵐が観測された際の宇宙天気現象まとめ
https://swc.nict.go.jp/report/topics/202405101630.html
※2 GNSS衛星を用いた電離圏全電子数の観測
GNSS衛星の電波は電離圏を通過する際に、伝搬経路上の電離大気(プラズマ)の影響を受けてわずかに遅れます。この遅れから伝搬経路に含まれる電子の総量(電離圏全電子数)を推定することができます。当機構ではこの電離圏全電子数を用いて電離圏の状態を把握し、測位精度の向上や宇宙天気の監視に活用しています。
https://aer-nc-web.nict.go.jp/GPS/DRAWING-TEC/index.html

論文情報

雑誌名
Earth, Planet and Space
論文タイトル
Extreme O + Enrichment in the Deep Inner Magnetosphere: The May 2024 Geomagnetic Storm
著者
尾花由紀(九州大学国際宇宙惑星環境研究センター)ほか
本研究には、九州大学、NICTの他、名古屋大学、ニュージーランド・オタゴ大学、ニュージーランド・GNSサイエンス、東北大学、金沢大学、九州工業大学、京都大学、台湾中央研究院、台湾国立成功大学、宇宙航空研究機構、大阪大学、東京大学、テキサス大学の研究者29名が参加しています。詳細な著者情報は論文をご覧ください。
DOI
https://doi.org/10.1186/s40623-025-02211-y
出版日
2026年5月23日

関連発表

九州大学 研究成果発表サイト
https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/1502

問い合わせ先

国立研究開発法人情報通信研究機構
電磁波研究所 電磁波先進・基盤研究センター
宇宙環境研究室

西岡未知
Septi Perwitasari