仮想空間上で電波利用システムを模擬・評価するワイヤレスエミュレータを用いてWi-SUN FAN無線機10,000台の通信試験に成功

2024年1月31日

国立大学法人 京都大学
国立研究開発法人情報通信研究機構

国立大学法人 京都大学 大学院情報学研究科の原田博司教授の研究グループ(以下 京都大学)と国立研究開発法人情報通信研究機構(NICTエヌアイシーティー)の総合テストベッド研究開発推進センターは、仮想空間上で電波利用システムを模擬・評価するワイヤレスエミュレータを用いて、モノのインターネット(Internet of Things、以下:IoT)用国際無線通信規格 Wi-SUN FAN(Field Area Network)を搭載した10,000台の無線機によるマルチホップを利用した通信試験を行うことに世界で初めて成功しました。今回の成果により、実無線機を用意することなく仮想空間上に任意に多数の無線機を配置し、通信試験を実現できるため、現実空間での実証試験が困難である、大都市を網羅する超大規模IoTシステムを想定した様々な試験が可能となり、スマートシティ構築のための無線システムの研究開発の加速化が期待できます。

ポイント

  • NICTが開発した仮想空間上で電波利用システムを模擬・評価するワイヤレスエミュレータ上に、京都大学が開発したWi-SUN FAN通信機能を搭載した仮想無線機を10,000台配置してWi-SUN FANを用いた超大規模IoTシステムの評価環境を仮想空間上で構築
  • Wi-SUN FANを用いたワイヤレスエミュレータ上でスマートメータリングの基本利用モデルである1ネットワークあたり1,000台、合計10ネットワークの通信を実現し、合計10,000台を利用した自律的な超大規模ネットワーク構築・通信試験評価に成功

背景

センサー、メーター、モニター等に通信機能を搭載し、都市環境における様々な課題を解決するスマートシティやスマートメータリングと呼ばれる大規模IoTシステムが現在検討されており、このシステムの実現のためには、屋外での高品質でかつ建物等による遮蔽に対する耐障害性に優れた堅牢な無線通信ネットワークが必要となります。Wi-SUN FANは、これらの要求を満たすIoT用国際無線通信規格「Wi-SUN」の規格の一つであり、既に電気・ガス・水道のメータリングのほか、スマートシティ、スマートグリッド、高度道路交通システム等のセンサー、モニター等を用いた各種インフラ、アプリケーションにおいて、相互運用可能な通信ネットワーク技術として導入が検討されています。NICTでは、このWi-SUNの基本通信方式を研究開発、国際標準化を行い、京都大学では、Wi-SUN FANの通信技術の実用化に向けて、接続方式や技術の研究開発、実無線機の開発、大規模ネットワーク確立に向けた実証試験を行ってきました。しかしながら、大都市を網羅するスマートメータリングネットワークの実現のためには、1,000台を超える無線機を用いて自律的にネットワークを構築させ、このネットワークを複数構築し、システム全体での検証が必要となりますが、現実環境では無線機数や設置場所の制限のため実現が困難でした。
これらの問題を解決するため、NICTでは、総務省 仮想空間における電波模擬システム技術の高度化に向けた研究開発※1の一環として、仮想空間上で大規模な電波利用システムを模擬・評価するワイヤレスエミュレータの研究開発を進めてまいりました。このワイヤレスエミュレータでは、各種電波利用システムを構築可能な実機で動作可能な無線機の通信機能をソフトウェアで記載し、これを仮想無線機として評価に必要な台数用意し、ワイヤレスエミュレータが模擬する電波伝搬環境において、通信試験を屋外実験することなく仮想空間で実施するものです。

今回の成果

仮想無線機10,000台の環境で通信を実現するため、主に下記の4点について研究開発しました。
(1) 実機で動作するWi-SUN FANの無線機の通信機能を実現するソフトウェア(以下:プロトコルスタック)をワイヤレスエミュレータ上で仮想無線機として動作するソフトウェアとして移植
(2) 10,000台の仮想無線機の評価をワイヤレスエミュレータで実施するために必要となる、無線機間の電波伝搬特性のモデルの搭載、伝搬特性に応じてパケット伝送特性を模擬し、ネットワークの構築に利活用する機能等のエミュレーション管理機能(オーケストレーション機能)を開発
(3) 計算機シミュレーションで得られた結果を適用して表示可能な表示機能の開発
(4) 大量の無線機を仮想空間上でソフトウェア処理するための時間調整機能を開発
 
 これらの研究開発の成果をワイヤレスエミュレータ上に搭載して、Wi-SUN FAN仮想無線機10,000台(1対1,000のネットワークの10セット分)を用いたマルチホップメッシュネットワークの構築とデータ通信を実現しました。(図1,2,3,4参照)
図1 ワイヤレスエミュレータ(NICTが構築したテストベッドStarBED上に実装)

図2 Wi-SUN FANプロトコルスタックの仮想化概念図

図3 Wi-SUN FAN仮想無線機10,000台接続時のネットワークトポロジ
(10台のWi-SUN FANボーダルータ:青色、10,000台のルータ:紫色)

図4 左:ネットワーク(1,000台)毎のネットワーク構築完了時間、
右:パケットのWi-SUN FANボーダルータへの到達時間(灰色)と通信成功率(赤)

今後の展開

今回の検証にて、ワイヤレスエミュレータ上に10,000台のWi-SUN FAN仮想無線機を配置して、マルチホップを利用した自律的なネットワークを構築、次世代スマートメータやスマートシティで要求されている規模のネットワーク構成への適用が可能であることが確認できました。
今回開発したWi-SUN FAN仮想無線機には、実無線機で動作しているプロトコルスタックをそのまま搭載しているため、仮想環境上にて実運用に向けたパラメータ調整や新方式の提案を検証して、容易に実無線機へとフィードバックすることが可能です。
今後は、今回の成果で確立したWi-SUN FAN仮想無線機に、仮想空間で計算した伝搬模擬データの取り込みを行い、より現実空間に近い条件での大規模通信ネットワークの構築、維持、安定した通信の実現に向けて研究開発を進めてまいります。

※1 本研究の一部は総務省「仮想空間における電波模擬システム技術の高度化に向けた研究開発」(JPJ000254)における受託研究の一環として実施されたものである。


京都大学 大学院情報学研究科 原田博司研究室について

京都大学 大学院情報学研究科 原田博司研究室は、京都大学 大学院情報学研究科通信情報システム専攻に所属し、ディジタル通信分野に関する研究開発を行っています。特に原田博司教授は、情報通信研究機構に在籍中、Wi-SUNシステムのベースとなる国際標準規格IEEE 802.15.4gの副議長として標準化に貢献し、2012年Wi-SUNアライアンスを共同創業者(Founder member)として設立し、Wi-SUNアライアンス理事会議長(Chair of the Board)として長年活動し、またWi-SUNアライアンスHAN WG議長として、電力会社向け宅内スマートメーターシステム用Wi-SUNシステムの技術仕様策定、普及活動を行ってきました。また、Wi-SUN FAN 1.0の国際標準化であるIEEE 2857も副議長として貢献しています。原田博司研究室では、Wi-SUNシステム全般の研究開発を行っており、主に通信方式、電波伝搬・伝送、システム最適化、応用システム等の研究開発を行っています。また、ワイヤレスエミュレータの研究開発においては総務省受託研究の共同受託機関です。

情報通信研究機構について

情報通信研究機構は、情報通信分野を専門とする我が国唯一の公的研究機関です。業務の一部には、機構の前身である郵政省電波研究所より引き継がれた電波伝搬、無線通信に関する研究業務に加え、無線通信を含む各種システム・サービスの検証環境であるテストベッドの運用業務<実施部署:ソーシャルイノベーションユニット総合テストベッド研究開発推進センター>などが挙げられます。同機構は、Wi-SUNシステムのベースの技術である国際標準規格IEEE 802.15.4g/4eの標準化に貢献し、また、世界初のWi-SUN準拠無線機を開発しました。現在は、Wi-SUNアライアンスの理事会メンバーとしてWi-SUNシステムの標準化、普及展開を促進しています<実施部署:ネットワーク研究所ワイヤレスネットワーク研究センター>。また、ワイヤレスエミュレータの研究開発においては総務省受託研究の共同受託機関であり、今回の業績にあたっては、原田博司研究室の主導のもとで、Wi-SUNをはじめとする各無線通信の評価のための仮想空間検証基盤を、実際の電波的挙動を適切に反映しながら提供する機構初の試みを行いました。

※本資料に掲載する機関名、製品名は各社の登録商標または商標です。

用語説明

Wi-SUN FAN (Field Area Network)

Wi-SUNアライアンスが制定するスマートメータリング、配電自動化を実現するスマートグリッドおよび、インフラ管理、高度道路交通システム、スマート照明に代表されるスマートシティを無線で実現するためのセンサー、メーターに搭載するIPv6でマルチホップ可能な通信仕様です。2016年5月16日にバージョン1がWi-SUN FANワーキンググループで制定され、現在は高速通信、低消費電力化などに対応したバージョン1.1の規格化が進められています。物理層にIEEE 802.15.4g、データリンク層に IEEE 802.15.4/4e、アダプテーション層にIETF 6LoWPANそしてネットワーク層部にIPv6、ICMPv6、トランスポート層にUDP、そして認証方式としてIEEE 802.1xを採用しています。また製造ベンダー間の相互接続性を担保するための試験仕様なども提供されています。京都大学は、株式会社日新システムズとローム株式会社と共同で、このWi-SUN FAN 搭載のWi-SUNアライアンス認証済み無線機の開発を2019年1月に世界で初めて行いました。また、このWi-SUN FAN 1.0はIEEE 2857により標準化済です。

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