新しい“宇宙天気イベント通報”及び“宇宙天気情報利用ガイドライン”をリリース

~宇宙天気情報の民間活用の促進に向けて~
2025年6月19日

国立研究開発法人情報通信研究機構

ポイント

宇宙天気現象が通信・放送、宇宙システム運用など社会インフラに及ぼす影響を軽減するために、

  • 社会インフラへの影響が見える新しい“宇宙天気イベント通報(SAFIR)”を開始
  • “宇宙天気情報利用ガイドライン”で、社会インフラ運用者の具体的な対策アクションを例示
  • 民間企業・府省庁・自治体などに向けた入門的な“宇宙天気情報利用の手引き”を発表
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICTエヌアイシーティー、理事長: 徳田英幸)は、2022年総務省主催の「宇宙天気予報の高度化の在り方に関する検討会」を受けて、社会的影響を踏まえた新警報基準に基づく“宇宙天気イベント通報(SAFIRセイファー)”を2025年6月19日(木)から開始するとともに、“宇宙天気情報利用ガイドライン”及び“宇宙天気情報利用の手引き”を作成し、発表しました(https://swc.nict.go.jp/safir/)。これらは、通信・放送、宇宙システム運用、航空機運航等、それぞれの事業分野において、社会的に大きな影響を与える規模の宇宙天気現象を迅速に把握し、その現象に対してどのように対処したらよいかの指針を示したものです。
これらの情報を利用することで、各分野の社会インフラ運用者が今まで以上に(図1参照)大規模な宇宙天気現象を正しく理解し、より安心安全な対応策を取ることができるようになると期待されます。

背景・経緯

図1 現在の通報と新たに追加された宇宙天気イベント通報及び宇宙天気情報利用ガイドライン
太陽表面の爆発現象「太陽フレア」などにより、地球周辺の宇宙環境が乱れると、その規模により、通信・放送、宇宙システム運用、航空機運航、衛星測位、電力等の重要インフラに影響を与えることがあります。こうした宇宙環境の変動は「宇宙天気」と呼ばれ、その影響を最小限に抑えることを目的として、NICTは1988年から宇宙天気予報を実施し、ウェブサイトやメール等で宇宙天気の概況や24時間の予報、太陽フレアなど宇宙天気現象の発生(宇宙天気イベント)について情報配信をしています。
しかしながら、宇宙天気現象の影響が社会インフラごとに異なること、予報情報が具体的な影響に直結しておらず影響の定量的評価が難しいこと、宇宙天気予報の成熟度が気象予報と比較すると観測点の圧倒的不足等から発展途上であることなどから、提供される宇宙天気情報と社会的影響の紐づけが不明瞭であり、またその情報の利用に関するガイドラインも整備されていませんでした。これらの問題点については、2022年に総務省主催の「宇宙天気予報の高度化の在り方に関する検討会」でも議論され、警報に関する体制強化として社会インフラのリスク(被害)を考慮した新たな警報基準、NICTによる確実な警報伝達の必要性や、社会インフラへの影響と効果的な対処として企業向けの標準的ガイドラインなど共通的対策の導入等について提言されています(参考情報参照)。本検討会の報告書も踏まえ、NICTでは新警報基準に基づく宇宙天気イベント通報の実装や、通報される宇宙天気情報を利用して対処するためのガイドラインの策定を進めていました。

今回の成果

宇宙天気現象が社会インフラに及ぼす影響を軽減するため、社会影響を踏まえた新警報基準に基づく宇宙天気イベント通報を2025年6月19日(木)から開始するとともに、宇宙天気情報利用ガイドライン及び入門的な利用の手引きを作成し、発表しました。

1. 新宇宙天気イベント通報(SAFIRセイファー: Space weather Alert For social Impacts and Risks)
・従来の自然現象の規模による警報基準ではなく、社会的影響を踏まえた新警報基準を採用
・社会インフラへの異なる影響を業界ごとに明示し、インフラ運用者が使いやすい情報に
・ユーザー視点での基準。科学専門用語ではなく、各運用現場での用語で記述

2. 宇宙天気情報利用ガイドライン
・防災・減災のための具体的なアクションのための宇宙天気情報利用ガイドライン
・通信・放送、宇宙システム運用、航空機運航などの各業界における異なる影響と対策のまとめ
・予報や現況情報を見てからの防災・減災の行動や、BCP策定の参考に

3. 宇宙天気情報利用の手引き
・宇宙天気情報を初めて見る方向けに、宇宙天気情報とは何か、社会影響の例を紹介
・太陽地球惑星間物理学の学術書ではなく、宇宙天気ユーザーのための入門書


これらは以下のWebサイトからご覧いただけます。
https://swc.nict.go.jp/safir/

今後の展望

SAFIR、宇宙天気情報利用ガイドライン、宇宙天気情報利用の手引きを利用し、民間企業・公的機関などの各分野のインフラ運用者が宇宙天気現象に対して正しく理解し、適切な対策を取ることで、より安心安全な対応策を取ることができるようになると期待されます。今回公開した情報については、宇宙天気情報ユーザーとのコミュニケーションを図り、継続的に更新する方針です。SAFIRについては、今後、測位分野など基準値が未策定の分野についても引き続き基準値の検討を行い、策定次第対象に加える予定です。これらの取組により、宇宙天気情報の利活用が広がり、人材育成や民間サービスの発展が進むことで、より安心安全な社会の実現が期待されます。

参考情報

宇宙天気予報の高度化の在り方に関する検討会
宇宙天気予報の高度化の在り方に関する検討会」は、2022年に総務省が主催し、6月21日に報告書が公表されました。この報告書では、大規模太陽フレア等の極端な宇宙天気現象によって社会インフラに異常を発生させ、社会経済活動に多大な影響を与えるおそれがあることから、我が国初となる「極端な宇宙天気現象がもたらす最悪シナリオ」を策定するとともに、宇宙天気現象を現実のリスクとして捉え国家レベルの危機管理に向けた提言がなされました。

用語解説

宇宙天気 宇宙天気とは、主に太陽表面の爆発現象「太陽フレア」などにより地球周辺の宇宙空間が乱れる自然現象で、通信・放送、宇宙システム運用、航空機運航、衛星測位、電力などの社会システムに影響を与えることが知られている。大規模な宇宙天気の現象は社会システムに障害を引き起こすことがある。 元の記事へ

宇宙天気予報 NICT(及びその前身組織)による宇宙環境に関わる予報及び警報の配信は1940年代後半に短波通信障害を事前に利用者に知らせるための「電波伝搬警報」から始まり、1988年に「宇宙天気予報」に発展し、今日に至るまで継続されている。また、1996年に設立されたISES(International Space Environment Service: 国際宇宙環境サービス)の日本における地域警報センター(Regional Warning Center, Japan)として、宇宙天気情報を配信している。2019年からは、24時間365日の運用体制で宇宙天気情報をウェブサイト及び電子メールで配信している(https://swc.nict.go.jp/)。 元の記事へ

本件に関する問合せ先

電磁波研究所 電磁波伝搬研究センター
宇宙環境研究室

津川 卓也

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広報部 報道室