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大規模中性原子量子コンピュータ向けの多重量子光インターフェースを実現

—大規模ネットワーク型量子コンピュータへの新技術—
2026年9月1日

国立大学法人大阪大学
国立研究開発法人科学技術振興機構
国立研究開発法人情報通信研究機構

研究成果のポイント

概要

図1
開発した多重量子光インターフェースの実験図
大阪大学量子情報・量子生命研究センター(QIQB)/同基礎工学研究科の山本俊 副センター長/教授ら、情報通信研究機構(NICTエヌアイシーティー) 未来ICT研究所 神戸フロンティア研究センター 超伝導ICT研究室の三木茂人室長ら、浜松ホトニクス電子管事業部の下井英樹グループ長らの研究グループは、複数の量子コンピュータを多重光接続する手法として集積光導波路アレイを用い、世界記録となる10多重量子光インターフェースの実現に成功しました。
中性原子量子コンピュータでは100個×100個の合計1万個程度の原子を整列させ原子アレイとし、その一つ一つの原子を量子ビットとして利用して量子計算ができると考えられています。大規模分散量子計算を実行するためには、この量子コンピュータを複数並べ、量子もつれにある光子を配送して接続するネットワーク型量子コンピュータを構築し、大量の量子ビットを多重接続するための多重量子光インターフェースが必要となっていました。
これまでの多重化手法は、光ファイバーを並列化したもので、十分な集積度がなく、数多重程度でしか実現できていませんでした。また、原子間隔も広く、通常の中性原子量子コンピュータに対応できていませんでした。
今回、大阪大学の研究グループは、独自に開発した「集積光導波路アレイの光学系」を用い、光子を並列に検出することに成功しました。対象としたのは、中性原子量子コンピュータで通常用いられる「数マイクロメートル間隔に整列した原子」です。原子一つ一つからの光子を10個並列に集積光導波路アレイへ結合し、光ファイバー接続した後に、光子を並列に検出するという一連のプロセスを実証しました。将来的には約100個の多重化が可能な技術です。光子の検出には「多チャンネル超伝導ナノストリップ光子検出器」を用いました。これは、NICTの研究グループが開発した「高性能超伝導ナノストリップ光子検出器」の技術を基盤とし、浜松ホトニクスの研究グループが本研究のために新たに開発したシステムです。これにより、光子によって接続され、大規模化が可能な誤り耐性型汎用量子コンピュータへ一歩近づきました。
本研究成果は、米国科学誌「Optica」に、8月31日(月)午後10時30分(日本時間)に公開されました。
【山本俊副センター長/教授のコメント】
中性原子アレイから超伝導ナノストリップ光子検出器システムまで研究開発を行い多重光接続の最初の実証ができました。今後、さらなる多重度の増大から中性原子量子コンピュータ接続までの実証を行い、目指す誤り耐性ネットワーク型量子コンピュータに向けて、さらに研究を加速させます。

研究の背景

量子コンピュータが現在のコンピュータを超えて高速に計算できることは、いくつかの問題で示されてきました。しかし、社会で役立つ様々な問題を高速に計算するためには、計算中の誤りを訂正しながら動作が可能な「誤り耐性型汎用量子コンピュータ」の開発が必要とされ、世界中で研究開発が行われています。
この誤り耐性型汎用量子コンピュータは、誤り訂正を行うために多くの量子ビットを利用する必要があり、その実現には100万を超える量子ビットが必要と考えられてきました。一方、1台の量子コンピュータで扱える量子ビット数には実装上の限界があり、例えば、中性原子量子コンピュータでは1万量子ビット程度と現在見積もられています。
そのため、量子コンピュータのさらなる大規模化には、現在のスーパーコンピュータやデータセンターがモジュール化されたコンピュータを繋ぎ、ネットワーク化することで大規模化しているように、多くの小中規模の量子コンピュータを接続して1台の量子コンピュータとして動作させる必要があります。
このように、量子コンピュータをネットワーク化して誤り訂正を行いながら大規模な分散量子計算を行う「誤り耐性ネットワーク型量子コンピュータ」は、量子コンピュータ同士で量子もつれを共有することで接続されます。中性原子やイオントラップ方式の量子コンピュータでは、この接続を実現するために、量子ビットと量子もつれを持った光子を発生させ、別の量子コンピュータの量子ビットに光子の状態を「量子テレポーテーション」を使って転送する仕組みを用います。この接続を大容量化するために、多数の量子ビットから同時並行で転送を可能にする多重量子光インターフェースや多チャンネル光子検出器システムの開発が求められていました。

研究の内容

大阪大学の研究グループでは、2020年から中性原子アレイを用いたネットワーク型量子コンピュータの研究開発プロジェクトを始めました。中性原子アレイの構築から多重光子接続による誤り耐性ネットワーク型量子コンピュータのアーキテクチャの提案などを行い、今回の集積光導波路アレイを用いた多重量子光インターフェースの実現にたどり着きました。
今回の実証実験では、数マイクロメートル間隔に整列した10個の原子からなる中性原子アレイにおいて、一つ一つの原子の位置を精密に調整し、原子から発生した光子を集積光導波路アレイに結合させました。集積光導波路アレイは32チャンネルの光導波路が整列しており、それぞれが光ファイバーに接続されています。そのうち、近接した10チャンネルの光導波路部分に光子を結合し、10本の光ファイバーを通じて送られた光子を、10チャンネルの超伝導ナノストリップ光子検出器で検出しました。
この超伝導ナノストリップ光子検出器は、NICT 超伝導ICT研究室、浜松ホトニクス電子管事業部の研究グループが開発したもので、国内最大の32チャンネルを有する超伝導ナノストリップ光子検出器システムです。
原子の量子ビットの状態は光子の偏光状態と量子もつれの関係にありますが、実験によりその関係性の一部も確認できました。これにより、今回実証した多重量子光インターフェースが量子コンピュータ接続に利用できることも確認できました。
今後は、さらなる大規模化と、誤り耐性ネットワーク型量子コンピュータの実現に向けた研究開発をさらに進めていきます。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、誤り耐性型汎用量子コンピュータの開発に不可欠な大規模化を可能にする「ネットワーク型量子コンピュータ」の実現に一歩近づきました。
今後、ネットワーク型量子コンピュータの技術を発展させていくことで、現在のデータセンターのように、複数のモジュールを繋げて大規模化できる量子コンピュータの構築が期待されます。

本研究における各機関の役割

大阪大学:研究全般を統括し実施。
NICT:超伝導ナノストリップ光子検出器の技術提供と素子作成プロセスの一部を実施。
浜松ホトニクス:超伝導ナノストリップ光子検出器システムの開発および提供。

特記事項

本研究成果は、2026年8月31日(月)午後10時30分(日本時間)に米国科学誌「Optica」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Waveguide-array-based multiplexed photonic interface for atom array”
著者名:Yuya Maeda, Toshiki Kobayashi, Takuma Ueno, Kentaro Shibata, Shinichi Takenaka, Kazuki Ito, Yuma Fujiwara, Shigehito Miki, Hirotaka Terai, Tsuyoshi Kodama, Hideki Shimoi, Rikizo Ikuta, Makoto Yamashita, Shuta Nakajima, Takashi Yamamoto
なお、本研究は、科学技術振興機構(JST) ムーンショット型研究開発事業 ムーンショット目標6「2050年までに、経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現」 研究開発プロジェクト「誤り耐性ネットワーク型量子コンピュータ」(JPMJMS256K)および「ネットワーク型量子コンピュータによる量子サイバースペース」(JPMJMS2066)の一環として行われ、科学技術振興機構(JST) 共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)「量子ソフトウェア研究拠点」(JPMJPF2014)、科学技術振興機構(JST) 先端国際共同研究推進事業(ASPIRE)(JPMJAP2319)および総務省 ICT 重点技術の研究開発プロジェクト(JPMI00316)の支援を受けて行われました。また、本研究で開発した超伝導ナノストリップ光子検出素子の作製プロセスの一部は、NICT 先端ICTデバイス研究開発推進センターの設備を利用して実施されました。

参考URL

山本 俊 副センター長/教授 研究者総覧 URL

用語説明

量子コンピュータ
量子力学の原理に従って動作する量子ビットを情報の最小単位として計算を行うコンピュータ。従来のコンピュータにはない量子重ね合わせや量子もつれを利用することで、分子中の電子状態などの量子的な振る舞いを効率的にシミュレーションすることや機械学習、素因数分解など、さまざまな問題を高速で解けると期待されている。
参考:
◆大阪大学 究みのStoryZ「量子コンピュータの実用化は2030年?」
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/story/2023/nl89_research02
◆あなたと量子〜“新鋭”のスペシャリテ〜
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/feature/specialite_002n
◆量子コンピューターの実用化で、高度な社会問題を解く。実機にアクセス可能、確かな手応えが大阪大学に。
https://dialogue.osaka-u.ac.jp/182/
元の記事へ

多重量子光インターフェース 多重の量子ビットの状態を光で並列に読み出す量子インターフェース。ここでは、多重化された原子と光子の量子もつれを並列に読み出すための光学系と光導波路アレイを用いて、これを実現している。 元の記事へ

集積光導波路アレイ 光を特定の経路に閉じ込めて伝搬させる光導波路を複数配列した光導波路アレイを、高密度に集積化した光学素子。ここでは、ガラスウェハ内に光導波路アレイが形成され、各光導波路が光ファイバーと結合して、光子検出器に光子を配送している。 元の記事へ

量子もつれ 量子もつれした状態とは、二つの量子ビット(粒子や光子、超伝導回路などで構成される)のうちの一方の状態を観測した際に、もう片方がその量子ビットの状態と必ず逆の状態が現れるような強く相関した状態のことで、古典力学や古典電磁気学では説明できない状態。 元の記事へ

誤り耐性型汎用量子コンピュータ 量子コンピュータにおける誤りが十分に抑制されて、任意の規模の量子コンピュータが実装可能であり、任意の量子アルゴリズムが実装可能な量子コンピュータのこと。現在実装されている量子コンピュータは誤りの抑制が十分ではなく、可能なタスクが限られているので、誤り耐性型汎用量子コンピュータの実現が望まれている。一方、その実現が非常に困難なため、世界中で様々な研究開発が進められている。 元の記事へ

超伝導ナノストリップ光子検出器 超伝導ナノストリップ光子検出器は、光子入射による超伝導ナノストリップ(幅100ナノメートル以下)の抵抗変動を利用して光子を検出する。紫外から中赤外におよぶ広い波長領域にわたって感度を有しており、量子コンピュータ、量子ネットワークや量子センシングで広く用いられる。 元の記事へ

量子テレポーテーション 量子ビットの状態を古典的通信で送る方法のこと。リソースとして量子もつれを持つ量子ビット対を送信地点と受信地点に準備し、量子もつれ状態にある量子ビットの片割れと送りたい量子ビットの2量子ビットにベル測定を行う。古典通信によって測定結果を受信地点に知らせることで、受信地点の量子ビットを、送りたかった量子ビットの状態にすることができる。 元の記事へ

本件に関する問合せ先

研究に関するお問合せ

大阪大学 量子情報・量子生命研究センター/大学院基礎工学研究科

副センター長/教授 山本 俊(やまもと たかし)
Tel: 06-6850-6445

情報通信研究機構
未来ICT研究所 神戸フロンティア研究センター
超伝導ICT研究室

室長 三木 茂人(みき しげひと)

報道に関するお問合せ

大阪大学 量子情報・量子生命研究センター
企画室 プレスリリース窓口

科学技術振興機構
広報課

Tel: 03-5214-8404

情報通信研究機構
広報部 報道室

JST事業に関するお問合せ

科学技術振興機構 ムーンショット型研究開発事業部

藤井 健視(ふじい けんじ)
Tel: 03-5214-8419