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都市の既設光通信インフラで毎秒450テラビット伝送の世界記録を実証

2026年6月29日

国立研究開発法人情報通信研究機構

ポイント

  • 英国ロンドンに敷設されている光ファイバで毎秒450テラビット伝送のフィールド実証に成功
  • 世界最大の42.4テラヘルツの周波数帯域を利用して、既存光ファイバの伝送容量の世界記録を更新
  • 大規模な設備投資を伴わずに、既設の光通信インフラの伝送能力を大幅に拡大する道を開拓
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICTエヌアイシーティー、理事長: 大野 英男)を中心とした国際共同研究グループは、都市に敷設されている光ファイバを用いて、毎秒450テラビットの大容量伝送の実証実験に成功し、既存光ファイバでの伝送容量の世界記録を更新しました。
本成果では、従来の商用光通信システムで利用されているC帯とL帯の波長帯(約10テラヘルツ)に、新規開拓波長帯であるO帯、E帯、S帯を加えた伝送システムを開発し、利用可能な周波数帯域幅を4倍以上に拡大し、世界最大の42.4テラヘルツを達成しました。その結果、光ファイバ伝送容量は毎秒450テラビットに達し、2025年に既存光ファイバで達成された従来の世界記録(毎秒430テラビット)を上回りました。
今回は、英国ロンドンの中心部に敷設されている、University College London(UCL)とTelehouse Northデータセンター間を接続する光ファイバを用いたフィールド実証に成功しました。大規模な設備投資を伴わずに既設の光通信インフラを最大限に活用する方法を、実験室内ではなく実際の運用環境下で実証して伝送容量の世界記録を達成したものであり、AIサービスや5G以降の超大容量モバイルシステムを支える次世代通信ネットワーク実現への道を切り開きました。
なお、本実験結果の論文は、米国ロサンゼルスで開催された光ファイバ通信国際会議(OFC 2026)において、非常に高い評価を得て、最優秀ホットトピック論文(Postdeadline Paper)として採択され、現地時間2026年3月19日(木)に発表されました。

背景

AIなどの新たなサービスの普及により、超大容量通信ネットワークに対する需要は急速に増大しています。この需要に対応するため、光ファイバ通信に新しい波長帯を追加して、伝送容量を増加させるマルチバンド波長多重(WDM)技術の研究開発が進められています。この技術は、光ファイバケーブルの新設が容易ではない都市などにおいて、既設の光通信インフラの伝送能力を最大限活用できる経済的な手法として注目されています。
これまでの研究では、O帯、E帯、S帯、C帯、L帯、U帯を含むマルチバンド波長多重光信号の伝送が実験室内に設置された光ファイバで実証されてきましたが、実際の運用環境下に敷設されている光ファイバを用いたフィールド実証は行われていませんでした。
実際の運用環境下に敷設されている光ファイバは、実験室の光ファイバと比べて高い損失や不均一性が大きく、伝送条件が厳しくなります。そのため、フィールド実証は技術の実用化に向けて必要不可欠な評価プロセスです。
図1 広帯域WDM光信号伝送のフィールド実証の概要

今回の成果

今回、NICTは国際共同研究グループと共同で、O帯、E帯、S帯、C帯、L帯に対応した光増幅器等を用いて、これまで報告された中で最も広帯域の光ファイバ伝送システムを開発しました。表1に示すように、広帯域WDM光信号は、O帯、E帯、S帯、C帯、L帯にわたって最大1,273個の波長チャネルを含み、周波数帯域幅は42.4テラヘルツ(1,264.0 nm〜1,617.8 nm)です。この光信号は、偏波多重のQPSK、16QAM、64QAM、256QAM方式を用いることで高いデータレートを実現しました。
今回のフィールド実証では、英国ロンドンの中心部に敷設されている、UCLのキャンパスとTelehouse Northデータセンター間を結ぶ19.5 kmの光ファイバを用いました(図1参照)。この光ファイバは、一般的な商用光通信システムで使われている光ファイバと同じ規格のものですが、主に地下に敷設されている既設インフラであり、接続部の光コネクタ、過去の光ファイバ断線修復などによって実験室の光ファイバよりも光損失が大きいなど、実際の運用環境を反映した条件となっています。広帯域WDM光信号を光ファイバで往復39 km伝送した後、受信した光信号から理想的な誤り訂正符号の適用を仮定して得られたデータレート(一般化相互情報量(GMI: Generalized Mutual Information))は毎秒450テラビットに達し、過去の成果を超えて、既存の光ファイバ伝送における世界記録を達成しました(表1、図5参照)。
本成果により、既設の光通信インフラにおいて、新規開拓波長帯を活用することで、大規模な設備投資や長期の導入期間を伴うことなく、伝送容量を大幅に拡張できる可能性が示されました。さらに、実際の運用環境下の敷設光ファイバにおけるフィールド実証の成功は、今後の実用化に向けて大きな前進となりました。
 
表1 今回と過去の広帯域WDM伝送実験との比較

今後の展望

NICTは今後も、更なる周波数帯域の拡張や新しい伝送技術の開発を進め、超大容量・長距離伝送の実現を目指します。また、本技術を既設の通信インフラへ適用することで、将来の通信需要に対応可能な次世代通信ネットワークの構築を目指します。
なお、本実験結果の論文は、光ファイバ通信関係最大の国際会議である第49回光ファイバ通信国際会議(OFC 2026、開催地: 米国ロサンゼルス、3月15日(日)〜3月19日(木))で非常に高い評価を得て、最優秀ホットトピック論文(Postdeadline Paper)として採択され、3月19日(木)に発表されました。

採択論文

国際会議: OFC 2026 最優秀ホットトピック論文(Postdeadline Paper)
論文名: 450 Tb/s GMI, 42.4 THz, OESCL-Band Transmission Over a Field-Deployed Fiber
著者名: Ruben S. Luis, Jiaqian Yang, Romulo Aparecido, Mindaugas Jarmolovicius, Eric Sillekens, Ronit Sohanpal, Zelin Gan, Aleksandr Donodin, Vitaly Mikhailov, Jiawei Luo, David DiGiovanni, Nicolas Fontaine, Lauren Dallachiesa, Mikael Mazur, Roland Ryf, Haoshuo Chen, David Neilson, Ian Phillips, Wladek Forysiak, Sergei Turitsyn, Daniele Orsuti, Hideaki Furukawa, Robert Killey, and Polina Bayvel

関連する過去のNICTのプレスリリース

本成果に関する共同研究機関からのプレスリリース

補足資料

1. 今回開発した光ファイバ伝送システム

図2 光ファイバ伝送システムの概略図
図2は、今回開発した光ファイバ伝送システムの概略図を表している。
① O、E、S、C、L帯の送信器において1,273波長の光信号を生成し、測定波長に偏波多重QPSK、16QAM、64QAMもしくは256QAM変調を行い、O、E、S、C、L帯の光信号を増幅する。
② O、E、S、C、L帯の光信号を光合波器で合波し、広帯域WDM光信号を生成する。
③ 広帯域WDM光信号を往復39 kmの伝送距離となるフィールド光ファイバ(ロンドン市内のUCLキャンパスからTelehouse Northデータセンターまでの区間に敷設されている光ファイバ)で伝搬させる。
④ 伝搬後、O、E、S、C、L帯の光信号を分波器で分けて、各波長帯の受信器で受信し、伝送誤りを測定する。

2. 実験結果

図2の伝送システムを用いたフィールド実証において、送信及び受信時に誤り訂正処理などの様々な符号化を適用することで、システムの伝送能力(データレート)を最大限効率化するための検証を行った。図3の実験結果のグラフは、理想的な誤り訂正符号の適用を仮定して得られたデータレート(GMI)を示す。多くの波長で毎秒400ギガビットを超えるデータレートを達成し、1,273波長の合計で毎秒450テラビットを実現した。
図3 広帯域WDM光信号伝送のフィールド実証の結果

用語解説

国際共同研究グループ 本研究に参加している研究グループは以下のとおりである。
NICT(日本)、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(英国)、アストン大学(英国)、ライテラ・ラボラトリーズ(米国)、ノキアベル研究所(米国)、ブリストル大学(英国)
元の記事へ

テラビット、ギガビット 1テラビットは1兆ビット。1ギガビットは10億ビット。 元の記事へ

波長帯 光通信用途で利用可能な波長帯は、C帯(Conventional band、波長1,530〜1,565 nm)とL帯(Long wavelength band、波長1,565〜1,625 nm)、そのほかにT帯(Thousand band、波長1,000〜1,260 nm)、O帯(Original band、波長1,260〜1,360 nm)、E帯(Extended band、波長1,360〜1,460 nm)、S帯(Short wavelength band、波長1,460〜1,530 nm)、U帯(Ultralong wavelength band、波長1,625〜1,675 nm)がある。
現在の長距離向けの光ファイバ伝送システムでは、主にC帯が利用されていて、波長数は80程度である。また、L帯も一部で商用に利用されている。それに対し、T帯、O帯、E帯、S帯、U帯などは開拓中の新しい波長帯であり、商用化が進んでいない。
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図4 光通信の波長帯

マルチバンド波長多重(WDM)技術 波長多重技術は、異なる波長の光信号を1本の光ファイバで伝送する技術である。現在の長距離向けの光ファイバ伝送システムでは、C帯やL帯の波長多重技術が利用されている。T帯、O帯、E帯、S帯、U帯などの波長帯は商用化が進んでいないが、これらの新しい波長帯を含んだ波長多重技術をマルチバンド波長多重技術とも呼ぶ。 元の記事へ

QPSK/QAM方式 QAM(Quadrature Amplitude Modulation)とは、光の位相と振幅を併用し複数のビットを表現する方式(多値変調)の一種である。例えば、256QAMは、1シンボルが取り得る位相空間上の点が256個で、1シンボルで8ビットの情報(28=256通り)が伝送でき、同じ時間でOOK(On-Off Keying)の8倍の情報が伝送できる。また、QPSK(Quadrature Phase-Shift Keying)は、1シンボルが取り得る位相空間上の点が4個で、1シンボルで2ビットの情報(22=4通り)が伝送でき、同じ時間でOOKの2倍の情報が伝送できる。また、直交する2つの偏光方向を持つ光信号を多重化することができ、これによりビット数を2倍にすることを偏波多重と呼ぶ。 元の記事へ

過去の成果 図5に、これまでに実施された、既存の光ファイバを用いた毎秒200テラビットを超える広帯域WDM伝送実験の結果とNICTの成果を示す。 元の記事へ

図5 広帯域WDM伝送実験

本件に関する問合せ先

ネットワーク研究所
フォトニックICT研究センター
フォトニックネットワーク研究室

古川 英昭

広報(取材受付)

広報部 報道室