ポイント

  • 既存設備でケーブル化可能な標準外径3モードの広帯域波長多重伝送可能な光ファイバを開発
  • モードにより光信号の到着時間が異なる現状を克服、348波長により大容量と長距離伝送を両立
  • 1000kmを超える大容量幹線系の通信で、標準外径マルチモードファイバの利用可能性を実証
NICTネットワークシステム研究所と株式会社フジクラ(フジクラ、取締役社長: 伊藤 雅彦)は、既存設備でケーブル化が可能な標準外径(0.125mm)、3モード伝搬の広帯域波長多重伝送が可能な光ファイバを開発し、モードにより光信号の到着時間が異なるマルチモードファイバの問題点である大容量と長距離伝送を同時に満たすことが難しい現状を克服し、毎秒159テラビットで1045kmの伝送実験に成功しました。
この結果は、伝送能力の一般的な指標である伝送容量と距離の積に換算すると、毎秒166ペタビット×kmとなり、標準外径光ファイバにおいてのこれまでの世界記録の約2倍になります。今回、伝送容量を確保するため348波長全てに対して16QAMという実用性の高い高密度な多値変調光信号をモード多重し、MIMO処理を行い、伝送距離を1000km超まで伸ばし、大容量基幹系の通信で利用可能であることを示しました。
なお、本論文は、第41回光ファイバ通信国際会議(OFC2018)にて非常に高い評価を得て、最優秀ホットトピック論文(Post Deadline Paper)として採択されました。

背景

増大し続ける通信トラヒックに対応するため、従来の光ファイバの限界を超える新型光ファイバと、それを用いた大規模光伝送の研究が世界中で盛んに行われています。主に研究されている新型光ファイバは、光ファイバに複数の通り道(コア)を配置したマルチコアファイバと、コア径を大きくして一つのコアで複数の伝搬モードに対応したマルチモードファイバです。これまで、マルチコアファイバでは、大容量かつ長距離の伝送実験の成功が報告されていますが、モードにより光信号の到着時間が異なるマルチモードファイバでは、大容量化と長距離化を同時に満たす伝送は難しいと考えられていました。

今回の成果

図1 伝送実験の写真
図1 伝送実験の写真
今回NICTは、フジクラの開発した標準外径光ファイバを用いてマルチモードによる伝送システムを構築し、毎秒159テラビット光信号の1045km伝送に成功しました(図1)。伝送能力の一般的な指標である伝送容量と距離の積に換算し、毎秒166ペタビット×kmとなり、これまでの世界記録の約2倍になります。
本伝送システムは、以下の要素技術から構成されます。
・標準外径0.125mmの3モード光ファイバ
・348波長一括光コム光源
・1パルス4ビット相当の16QAM多値変調技術
・ファイバ中の伝搬速度が異なるマルチモード光信号の分離技術(MIMO処理)
今回、標準外径3モードの光ファイバを用いて1000km超の伝送に成功しました。標準外径の光ファイバは、実際に敷設を行うケーブル化の際に、既存の設備を流用することが可能で、早期実用化が期待できます。また、NICTが産学と連携で研究開発を進めているマルチコア技術と組み合わせると、将来的に究極的な大容量伝送も可能になります。

今後の展望

今後、ますます増加していくビッグデータや5Gサービスなどのトラヒックをスムーズに収容可能な未来の光通信インフラ基盤技術の研究開発に取り組んでいきます。
なお、本実験の結果は、米国サンディエゴで開催された光ファイバ通信関係最大の国際会議の一つである第41回光ファイバ通信国際会議(OFC2018、3月11日(日)~3月15日(木))で非常に高い評価を得て、最優秀ホットトピック論文(Post Deadline Paper)として採択され、現地時間3月15日(木)に発表しました。

採択論文

国際会議:第41回光ファイバ通信国際会議(OFC2018) 最優秀ホットトピック論文(Post Deadline Paper)
論文名:159 Tbit/s C+L Band Transmission over 1045 km 3-Mode Graded-Index Few-Mode Fiber
著者名:Georg Rademacher, Ruben S. Luís, Benjamin J. Puttnam, Tobias A. Eriksson, Erik Agrell, Ryo Maruyama, Kazuhiko Aikawa, Hideaki Furukawa,Yoshinari Awaji, and Naoya Wada

過去のNICTの報道発表

補足資料

1. 今回開発した伝送システム

図2 伝送システムの概略図
図2 伝送システムの概略図
図2は、今回開発したモード分割多重伝送システムの概略図を表している。
① 348波の異なる波長を持つレーザ光を一括して生成する。
② 光コム光源の出力光に偏波多重16QAM変調を行い、遅延差を付けて擬似的に異なる信号系列とする。
③ 各信号系列は異なる伝搬モード(LP01、LP11a、LP11b)として3モード光ファイバに入射する。
④ 55km長の3モード光ファイバを伝搬後、周回スイッチを経由して再度3モード光ファイバに導入される。このループ伝送の繰り返しにより、最終的な伝送距離は1045kmに達した。
⑤ 各モード信号を光学的に分離し、6×6規模のMIMO信号処理を行って信号を分離し、伝送誤りを測定した。

2. 実験結果

図3 実験結果
図3 実験結果
上記図2の実験系において、送信及び受信時に誤り訂正処理などの様々な符号化を適用することで、システムの伝送能力(データレート)を最大限効率化するための検証を行った。
図3の実験結果のグラフは、誤り訂正を適用した結果で、多少ばらつきがあるものの348波長がほぼ均等で安定したデータレートが得られ、合計で毎秒159テラビットを実現した。

用語解説

標準外径光ファイバ
国際規格で光ファイバのガラス(クラッド)の外径は0.125±0.0007mm、被覆層の外径が0.235~0.265mmと定められている。現在の光通信で広く使用されている光ファイバは、外径0.125mmのシングルコア・シングルモードファイバで、毎秒100テラビットが容量の限界と考えられており、新型光ファイバの研究開発が盛んに行われている。
広く利用されている標準外径光ファイバの断面イメージ
広く利用されている標準外径光ファイバの断面イメージ
これまで報告された標準外径光ファイバ伝送容量と距離
これまで報告された標準外径光ファイバ伝送容量と距離
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モード伝搬
光ファイバのコアの中を光信号が伝搬する時は、コアとクラッドの境界で全反射を繰り返しながら、様々な振動状態で進行する。この振動状態の違いが、伝搬モードである。モードの異なる信号では、受信側に届くまでの時間差が生じる。今回の3モードファイバは、コアの屈折分布率を最適化し、300を超える波長多重信号の伝送においても到着時間差を小さくすることに成功した。
テラビット
1テラビットは1兆ビット、1ペタビットは1000兆ビット。2017年11月の我が国の総ダウンロードトラヒックは、毎秒約10テラビットである。
伝送容量と距離の積
光ファイバ伝送の最大の利点は、光の波長領域の広さを活かし多くの波長を利用する大容量と、長距離伝送でも信号劣化が少ない搬送能力である。したがって、光伝送システムの伝送能力の一般的な指標として、容量や距離だけではなく、それらの積で表現したものが用いられることがある。
16QAM(Quadrature amplitude modulation)
QAMとは、光の位相と振幅を併用し複数のビットを表現する方式(多値変調)の一種である。16QAMは1シンボルが取り得る位相空間上の点が16個で、1シンボルで4ビットの情報(24=16通り)が伝送でき、同じ時間でOOK(On-Off keying)の4倍の情報が伝送できる。
OOKの5倍(32QAM)、6倍(64QAM)の情報が伝送できる変調方式も利用されているが、32QAM、64QAMは、伝送後の光信号のゆがみが大きく長距離伝送には適していない。16QAMは、1シンボル当たりの情報密度を高めつつ、中・長距離へ十分到達可能であることから、最も実用性の高い多値変調方式の一つと考えられている。
MIMO(Multiple-input-multiple-output)処理
MIMOは、無線通信で用いられているマルチパス干渉を除去するための信号処理技術である。光通信においては、同一のファイバ内を伝搬する異なる光信号同士の干渉を除去するための信号処理技術である。モードにより光信号の到着時間が異なるマルチモード伝送では、モード分離を行う際に、ほぼ必ずMIMO処理が必要で、各モードの伝搬速度差に応じてMIMO処理の負荷が高くなり、伝送距離が伸びるに従ってモード分離が困難になる。そこで、下記の新型光ファイバのように各モードの伝搬速度差を最小化するようなファイバ設計を行うことで、1000kmを超える伝送距離でも良好なMIMO動作を行うことが可能になる。
新型光ファイバ
現在、中・長距離通信用に普及している標準シングルコア・シングルモードファイバは、コア径を小さくし伝搬モードを制限して最低次のモードだけを残すことで、モード間の干渉による通信速度の低下を回避していた。しかし、コア径が小さいため、注入できる信号パワーに限界があり、毎秒100テラビットが容量の限界と考えられている。その問題を解決するために、外径を大きくした大容量マルチコアファイバや、マルチモード・マルチコアファイバの研究が進められてきた。
今回開発した既存設備でケーブル化が可能な標準外径マルチモードファイバは、モード間の伝搬速度差を抑制する構造で、300波を超える広い波長範囲にわたってモード間伝搬速度差を低減し、MIMO処理の負荷軽減に成功、長距離かつ大容量のモード分割多重伝送に成功した。
新型光ファイバ

本件に関する問い合わせ先

国立研究開発法人情報通信研究機構
ネットワークシステム研究所
フォトニックネットワークシステム研究室

淡路 祥成、古川 英昭

Tel: 042-327-6337、5694

E-mail: PNS.webアットマークml.nict.go.jp

広報

国立研究開発法人情報通信研究機構
広報部 報道室

廣田 幸子

Tel: 042-327-6923

Fax: 042-327-7587

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総務・広報部

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