米国カルフォルニア工科大学ジェット推進研究所のJames Sinclair博士ら、東北大学、北海道情報大学、国立天文台、情報通信研究機構、米国ボストン大学、ベルギー・リエージュ大学などからなる国際共同研究グループは、木星大気中のメタンの発光分布および発光強度が、宇宙天気によって変動していることを、観測で初めて捉えました。

 木星のメタンは、木星オーロラとしてよく知られている木星水素大気の発光よりも低い成層圏で
発光し、大気の温度を反映します。そのため、惑星周辺に広がる磁気圏やさらにその外部の太陽からのプラズマ流である太陽風といった宇宙天気のメタン発光への影響はこれまで考えられていなく、
メタンの発光強度が示す変動の要因は未解明でした。
 研究グループは、ハワイのマウナ・ケア山の山頂にある、すばる望遠鏡の冷却中間赤外線撮像分光装置(Cooled Mid-Infrared Camera and Spectrograph, COMICS)を用いて、木星のメタン発光の観測を行いました。すばる望遠鏡を使うことで、地上4200メートルの立地によって観測への障害となる地球大気の影響を小さくし、8.2メートルの大口径で微細な光を集光して、詳細な発光分布が得られました。その結果、極域発光の急激な強度変化を検出しました(図1)。情報通信研究機構の垰千尋研究員による木星での太陽風変動の推定結果(図2)との比較で、太陽風強度の増大の影響が極域のメタン発光に及ぶことが明らかになりました。また、高エネルギー粒子の降込みによって光るX線発光などと同様に、メタン発光も南極と北極で異なることが今回明らかになりました。
 本研究成果は、木星成層圏大気が磁気圏や太陽圏の変動と密接に関連していることを示唆しています。機構が取り組んでいる太陽風変動予測等の宇宙天気研究が、惑星科学研究においても大きく貢献しました。また、多種多様な惑星環境の知見は、巨大太陽嵐など極端な宇宙天気現象の地球への影響を知る手がかりとしても期待されます。

 本研究成果は、2019年4月8日16時(英国時間)に英国科学誌 Nature Astronomyのオンライン版に掲載されました。


雑誌名:Nature Astronomy
論文名:”A brightening of Jupiter’s auroral 7.8-μm CH4 emission during a solar-wind compression”(太陽風圧縮時の木星のメタン7.8 μm発光の増光)

著者名:J. A. Sinclair1, G. S. Orton1 , J. Fernandes1,2 , Y. Kasaba3 , T. M. Sato4 , T. Fujiyoshi5 , C. Tao6 , M. F. Vogt7 , D. Grodent8 , B. Bonfond8 , J. I. Moses9 , T. K. Greathouse10 , W. Dunn11 , R. S. Giles1 , F. Tabataba-Vakili1 , L. N. Fletcher12 and P. G. J. Irwin13
1. 米国カルフォルニア工科大学ジェット推進研究所、2. 米国カルフォルニア州立大学、3. 東北大学、4. 北海道情報大学、5. 国立天文台、6. 情報通信研究機構、7. 米国ボストン大学、8. ベルギー・リエージュ大学、9. 米国宇宙科学研究所、10. 米国サウスウエスト研究所、11. 英国ロンドン大学、12. 英国レスター大学、13. 英国オックスフォード大学

DOI: 10.1038/s41550-019-0743-x


関連発表:
図1. すばる望遠鏡搭載の冷却中間赤外線撮像分光装置で観測された、2017年1月11—12日の木星のメタン発光強度分布。南極(木星下側)および北極(木星上側)で見られる発光が、2017年1月12日に増大する様子を観測しました。(提供:国立天文台・NASAジェット推進研究所)
図1. すばる望遠鏡搭載の冷却中間赤外線撮像分光装置で観測された、2017年1月11—12日の木星のメタン発光強度分布。南極(木星下側)および北極(木星上側)で見られる発光が、2017年1月12日に増大する様子を観測しました。(提供:国立天文台・NASAジェット推進研究所)
図2.木星位置における宇宙天気(太陽風)変動のモデル予測。大きな極域メタン発光増大がみられた2017年1月12日(橙線)に、太陽風強度の増大が推定されました。緑色の縦線は図1の左の撮像、橙色の縦線は図1の真中と右の撮像の観測時間を示しています。
図2.木星位置における宇宙天気(太陽風)変動のモデル予測。大きな極域メタン発光増大がみられた2017年1月12日(橙線)に、太陽風強度の増大が推定されました。緑色の縦線は図1の左の撮像、橙色の縦線は図1の真中と右の撮像の観測時間を示しています。