科学技術に関する研究開発、理解増進等において顕著な成果を収めた者を表彰する「科学技術分野の文部科学大臣表彰」の表彰式が、平成31年4月17日に文部科学省で開催されました。
情報通信研究機構からは、科学技術賞を2件、若手科学者賞を1件受賞しました。

1.科学技術賞 開発部門 (団体)

【業績名】耐災害性に優れた自律分散協調通信システムの開発
井上 真杉
オープンイノベーション推進本部グローバル進部門国際研究連携展開室 室長
大和田 泰伯
オープンイノベーション推進本部ソーシャルイノベーションユニット 総合テストベッド研究開発推進センターテストベッド連携企画室 主任研究員
(同ユニット耐災害ICT研究センター 応用領域研究室  主任研究員兼務)
浜口 清
ワイヤレスネットワーク総合研究センター 総合研究センター長
 
科学技術賞 開発部門 (団体)受賞者
【概要】
災害時にも通信が確保され、必要な情報の送受信が安定して行える災害に強い通信システムの実現が課題でした。本開発では、冗長経路を含む様々な形状のネットワークを構成可能で、これまでに無かったサーバ機能を内包する新たな構造と、従来の中央制御型に替わる自律分散協調型の構造を持つことを特徴とする耐災害性に優れた通信システムを発案し、基盤技術を確立して実用化しました。本開発により、災害等で発生した通信経路上の障害を可能な限り回避することを可能とし、また、スマートフォンがクラウドと通信不能になっても、各中継装置が内包するサーバ機能により一定の情報の送受信を可能としました。さらに、各中継装置が自律分散かつ協調して動作することでシステム全体が停止するリスクを低減しました。本成果は、東日本大震災被災地の宮城県女川町で港湾監視映像伝送に活用され、南海トラフ地震に備える和歌山県白浜町では災害に強いインターネット接続環境に活用され、熊本地震後の熊本県高森町では役場や住民の臨時の通信手段に活用されるなど、地域の安全安心に寄与しています。

2.科学技術賞 研究部門 (団体)

【業績名】SNS情報の深い意味的分析に基づく被災状況把握技術の研究
大竹 清敬
ユニバーサルコミュニケーション研究所 データ駆動知能システム研究センター
上席研究員
(オープンイノベーション推進本部 ソーシャルイノベーションユニット
耐災害ICT研究センター 応用領域研究室 上席研究員 兼務)
水野 淳太
ユニバーサルコミュニケーション研究所 データ駆動知能システム研究センター
主任研究員
(オープンイノベーション推進本部 ソーシャルイノベーションユニット
耐災害ICT研究センター 応用領域研究室 主任研究員 兼務)
鳥澤 健太郎
ユニバーサルコミュニケーション研究所
データ駆動知能システム研究 センター センター長
 
科学技術賞 研究部門(団体)受賞者
【概要】
東日本大震災時には、SNS上に膨大な災害関連情報が発信され、その中には重要な情報も大量に含まれていましたが、そうした情報を発見することが困難でした。その理由は、通常の検索エンジンでは、ヒットするテキストの件数が膨大すぎ、それらをユーザが短時間に咀嚼することが不可能であるためでした。本研究は、ピンポイントで求める情報を探すことを可能とする質問応答および、被災状況を表す情報を自動抽出するという高度な自然言語処理技術、さらにはそれらのリアルタイム処理を実現し、発災後の素早い被災状況把握という重大な社会課題に適用するという世界初の試みに挑戦し、その成果を自治体等での実活用を通して実証したものです。本研究により、現代社会における必須なインフラであるSNS上に溢れる情報の中から、非常に多様な災害関連情報をリアルタイムで発見し、さらにそうした情報の整理・要約やデマ特定支援機能をも実現することで、素早い被災状況把握を可能としました。本成果は、自治体等において実災害時に有効活用される事を通して、今後の災害対応の在り方を変革することに寄与することが期待されます。

3.若手科学者賞(1名)

【業績名】外惑星オーロラの発電-発光-変動過程の研究
垰 千尋
電磁波研究所宇宙環境研究室 テニュアトラック研究員
 
若手科学者賞 受賞者
【概要】
太陽系の他の惑星の電離圏・磁気圏環境を研究することは、地球を対象としてきた研究についての普遍性を検討・拡張するために重要です。他惑星における熱圏大気運動から電離圏・磁気圏にわたる領域の相互作用を考慮した数値モデルを新たに開発し、大気運動によって電流系が変えられることを明らかにしました。また土星のオーロラ発光からそのオーロラの持つ電子エネルギーを推定する手法を確立し、土星においても地球と同様のオーロラ電子加速理論が適応できることを実証しました。さらに宇宙望遠鏡「ひさき」の観測データを用い、オーロラ発光強度の変動の定量的な解釈に成功しました。本研究で開発されたモデルによる太陽風予測手法は、宇宙天気研究で重要な情報として国内外で広く参照されています。