国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)は、2019年6月9日(日)に高知県内で実施された「令和元年度高知県総合防災訓練・地域防災フェスティバル」にて、高知県中央東福祉保健所、香南市及び株式会社スペースタイムエンジニアリング(STE)と合同で、公衆通信手段が使用できなくなった想定のもと、接近時高速無線接続技術※を活用した災害時保健医療情報伝達・通信訓練を実施しました。
 同技術は、内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第二期「国家レジリエンス(防災・減災)の強化」テーマⅠ「避難・緊急活動支援統合システムの研究開発」(研究責任者:(国研)防災科学技術研究所(NIED)臼田裕一郎)の研究開発項目「接近時高速無線接続による通信途絶領域解消技術の研究開発」の一環として、NICTが開発中の技術です。

訓練の概要

図1 「災害医療救護活動における災害時保健医療情報伝達・通信訓練」の概要
図1 「災害医療救護活動における災害時保健医療情報伝達・通信訓練」の概要
この訓練では、図1に示すように、大規模災害により、高知県香南市一帯において携帯電話や固定電話、インターネットなどの公衆通信手段が使用できなくなったとの想定が設けられました。その上で、救護病院・救護所から香南市災害対策本部と高知県中央東保険医療調整支部に対し、災害時に必要な保健医療情報として、EMIS(広域災害救急医療情報システム)代行入力依頼、医療救護所活動状況報告といった単方向の連絡と、重症患者等受入要請・応諾、医療従事者等派遣要請・応諾、医薬品等供給要請・応諾といった双方向の連絡を行う訓練を実施しました。
災害時に公衆通信手段が使用不可になった時の高知県の運用は、所定様式に手書きした情報を県の防災行政無線によるFAXと音声で送受信しています。しかし、防災無線によるFAXは、救護病院・救護所には配備されておらず、音声では情報内容が誤伝達されることが多いなどの課題がありました。そこで、図2に示すような、NICTが開発した接近時高速無線接続技術を搭載した通信装置とSTEが開発した情報共有アプリケーションで構成されたシステムを用いた救護病院・救護所から香南市災害対策本部、高知県中央東保険医療調整支部間での情報伝達・通信訓練を実施しました。
図2 訓練で使用されたシステムの外観
図2 訓練で使用されたシステムの外観
図3 訓練の様子
図3 訓練の様子
その結果、図3に示すように、県の様式に従った情報をタブレット等に入力するだけで、公衆通信手段や既存の防災行政無線に頼らずに、迅速かつ正確に情報共有することに成功しました。また、本システムを搭載した車両が拠点間を移動することにより、救護病院・救護所で撮影した解像度の高い写真など、県の様式に記載できない情報も送ることができました。
高知県中央東福祉保健所と香南市の訓練参加者からは、「今回の訓練により、南海トラフ地震などの大規模災害時に、公衆通信手段が使えなくなった中、これまでの県の防災行政無線では手書き書類のFAXや音声による被災現場の救護病院・救護所から市及び県医療調整支部までの情報伝達・共有が困難だったが、今回のシステムを活用すれば、短時間かつ正確に情報共有できることが確認でき、大規模災害時に有用である。」とのコメントを頂きました。
NICTでは今回の訓練での成果も踏まえ、さらなる機能の開発、社会展開に必要な諸技術の開発に取り組んで参ります。
* 接近時高速無線接続技術
IEEE802.11ai規格に基づき、無線LAN装置同士がお互いに接近した際に認証を伴う接続を安全かつ高速に行うことができる技術。