NICTでは、調和の取れた電波利用のために、スマートフォンのような携帯型無線機からの電波により電子機器が誤動作することがないように、電子機器の電波への耐性(電磁耐性)を試験する方法について研究開発を進めています。このたび、株式会社ノイズ研究所との共同研究により、電磁耐性試験を大きく効率化する高性能アンテナ「TEMホーンアンテナ」を開発し、製品化・販売を開始しました。

背景

スマートフォンのような携帯型無線機の急速な普及に加え、IoT(モノのインターネット)や5G(第5世代移動通信システム)などの新しい通信技術によるインフラの構築が進んでいます。一方、これらの携帯型無線機が医療電子機器などに近接して使用されるケースが増えており、無線機の発する電波による電子機器の誤動作が懸念されています(図1)。このため、IEC(国際電気標準会議)により、携帯型無線機の近接による電子機器の電磁耐性を試験(近接電磁耐性試験といいます)する国際規格 (IEC 61000-4-39)が定められました(図2)。しかし、国際規格が要求している条件を十分に満足するアンテナが無く、近接電磁耐性試験にかかるコストと時間の効率化が大きな課題とされていました。
 

成果

NICTでは、良好で安全な電磁環境を構築するための研究活動を行っており、その一環として、近接電磁耐性試験に対応したアンテナの研究開発を実施しています。近接電磁耐性試験では、電子機器から非常に近い位置でアンテナを移動しながら機器全面にわたり強い電波を照射します。国際規格に定めるアンテナは、強い電波照射(最大300 V/m)のために高効率(VSWR≦3)でなければならず、さらに、電子機器全体に少ないアンテナ移動回数で電波を照射するため、アンテナ近傍に広い電界均一場の生成が求められます。NICTが開発したTEMホーンアンテナ(図3)は、IEC規格で要求される試験周波数の全範囲(380 MHzから6 GHz)においてこれらの要件を満たす世界で唯一のアンテナです。このTEMホーンアンテナを用いることで、近接電磁耐性試験にかかるコストと時間の効率化が可能となりました。

社会への展開

株式会社ノイズ研究所は、NICTとの共同研究によりこの成果を製品化し、このたび、TEMホーンアンテナおよび近接電磁耐性試験システムの販売を開始しました。特に、広帯域および良好な電界均一特性を有するTEMホーンアンテナと電波照射の自動化によって、試験時間の短縮化や省力化が可能となりました。今後、TEMホーンアンテナを使用したIEC規格は、医療電子機器やマルチメディア機器の製品規格への引用が見込まれています。また、自動車関係の近接電磁耐性試験にも有用です。

用語解説

電磁耐性試験
電子機器の電磁波に対する耐性を確保するための試験です。世界共通の規格に従い、決められた周波数、試験レベルの電波を製品に照射し、誤動作の評価を行います。特に、機器の近傍で電波を照射する近接電磁耐性試験が新たに規格化されました。
VSWR (Voltage Standing Wave Ratio、電圧定在波比)
アンテナの性能指標のひとつです。理想的なアンテナでは、加えた電力が全てアンテナに供給されますが、実際には、電力の一部がアンテナの入口で反射して戻ってきます。VSWR値は、この反射の程度を示す数値で、1に近いほど電力効率の良いアンテナです。例えば、VSWR = 2で90%、VSWR = 3で75%程度の電力がアンテナに入力されます。

株式会社ノイズ研究所 製品ページへリンク

http://www.noiseken.co.jp/modules/rfsys/index.php?content_id=59

本件に関する問い合わせ先

電磁波研究所 電磁環境研究室

張間 勝茂

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