国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所のJames O’Donoghue博士と、米国ボストン大学、英国レスター大学、NASAゴダード宇宙飛行センター、国立研究開発法人情報通信研究機構などによる国際共同研究グループは、木星極域のオーロラが全球的な加熱に影響していることを、観測で捉えることに成功しました。

背景

木星は、太陽—地球間の距離の5倍ほど太陽から離れたところを公転する惑星です。そのため、高層大気の温度は200 K程度と期待されますが、実際には700 Kと大変高温になっており、どのように高温を維持しているのかは、長年の謎でした。極域のオーロラは加熱源として有力な候補の一つですが、約10時間で惑星が自転する効果のために極域から中低緯度への加熱エネルギーの分配が妨げられているという示唆もあり、この「惑星高温の謎」は未解決です。

経緯・結果・成果

研究グループは、ハワイにあるKeck望遠鏡の近赤外分光装置Near-Infrared Spectrometer(NIRSPEC)を用いて、木星超高層の主要電離大気成分であるH3+イオンの発光輝線を、極域から赤道に至るまで全球域にわたって観測しました。複数のスケールで緯度・経度の領域を区切って各領域内で発光輝線から温度を求め、十分な精度を保ちつつ、かつ、可能な限り高空間分解情報を参照することで、温度の詳細な全球分布図の導出に成功しました(図1)。
得られた分布は、極域ほど温度が高く、中低緯度にかけて、温度が低下していく様子が見られました。想定されたよりもエネルギー輸送効果が自転効果に比べて卓越し、極域から赤道に向かう風速場によって中低緯度にわたって広く温められていることを示唆しています。また、2016年4月と2017年1月の観測を比べると、2017年1月は、極域および中低緯度の温度が明らかに高いことがわかりました(図1)。情報通信研究機構による木星における太陽風変動の推定結果(図2)との比較で、2017年1月は、太陽風動圧の大きな増大が木星に到来した時期でした。
本研究成果は、2021年8月5日に英国科学誌 Natureに掲載されました。

今後の予定・展望など

本研究は、情報通信研究機構が取り組む太陽風変動等の宇宙天気情報が、惑星環境の理解(=科学研究)に貢献した一例になります。太陽に起因する変動が、太陽から遠く離れた木星の巨大磁気圏のオーロラを通して、超高層大気の全球的な加熱に影響していることが、本研究から明らかになりました。全球的な加熱には大気循環(風速場)が重要な役割を果たしていると考えられますが、自転効果による制約の中で大気運動がどのように引き起こされているのかは、今後の課題です。身近な地球環境においても、極域からのエネルギー分配は、日本における通信・測位障害とも関係しうる、宇宙天気の観点から重要な課題です。
 
雑誌名 Nature
論文名 “Global upper-atmospheric heating at Jupiter by the polar aurorae” (木星極域オーロラによる全球高層大気加熱)
著者名 J. O’Donoghue1,2, L. Moore3, T. Bhakyapaibul3, H. Melin4, T. Stallard4, J. E. P. Connerney5,2, C. Tao6
著者所属 1. 宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所、2. NASA ゴダード宇宙飛行センター、3.米国ボストン大学、4. 英国レスター大学、5. 米国宇宙研究コーポレーション、6. 情報通信研究機構
URL https://www.nature.com/articles/s41586-021-03706-w
関連発表
 宇宙航空研究開発機構 https://www.isas.jaxa.jp/topics/002676.html
 NASA https://www.nasa.gov/feature/goddard/2021/juno-jupiter-auroral-heating/
図1
図1. Keck望遠鏡の近赤外分光装置によるH3+発光観測から得られた、木星高層大気温度の(a)コンター図と(b)緯度分布[論文の図より]。上の左側の2016年4月14日の結果は赤道域から、右の2017年1月25日の結果は北極域から見た様子を示しています。
図2
図2.木星位置における宇宙天気(太陽風)変動のモデル結果[論文の図より]。観測のタイミングを青線で示します。モデルによる到来時刻の不確定性を考慮すると、温度上昇がみられた2017年1月25日は、太陽風強度が大きく増大していたと推定されます。

本件に関する問い合わせ先

電磁波研究所 電磁波伝搬研究センター 宇宙環境研究室

垰 千尋

TEL:042-327-5273

E-mail: chihiro.taoアットマークnict.go.jp