国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT、理事長: 徳田 英幸)は、日本時間2021年10月28日(木)の深夜に、太陽面中央に位置する黒点群2887において、大型の太陽面爆発(フレア)現象の発生を確認しました。このフレアは、日本時間29日(金)の0時35分に発生し、最大X線強度はフレア発生前の100倍に及ぶ大型のものです。この現象に伴い、高温のコロナガスが地球方向に噴出したこと及び高エネルギーのプロトン粒子の増加が確認されました。コロナガスは日本時間10月30日午後から31日(日)の間にかけて到来・通過することが予測されています。

 この影響で、地球近傍の宇宙環境や電離圏、地磁気が乱れる可能性があり、通信衛星、放送衛星などの人工衛星の障害やGPSを用いた高精度測位の誤差の増大、短波通信障害の影響などが生じる恐れがあり、注意が必要です。

背景

NICTは、太陽活動や宇宙環境変動など宇宙天気の観測を行い、現況とその推移に関する情報提供を行っています。

NICT宇宙天気予報センター https://swc.nict.go.jp/

観測した現象

①現在、太陽面の中央南よりに位置する黒点群2887で、10月29日(金)0時35分(日本時間)に、太陽X線強度Xクラス(X1.0)の大規模太陽フレア現象が発生しました。この規模は、太陽フレア発生前に比べ、100倍に及ぶものです。
②この太陽フレア現象に伴い、地球方向へのコロナガスの放出(コロナ質量放出)及び高エネルギープロトン粒子の増加が観測されています。
③地球方向へ放出されたコロナガスの速度は1500km/s程度と推測され、日本時間の10月30日午後から31日の間に地球へ到来・通過することが予想されます。

今後の推移

今回報告した大規模太陽フレアに伴うコロナガスの放出は、日本時間10月30日午後から30日の間に地球に到来・通過する可能性があります。その場合、到来後数日間にわたって、地球周辺の宇宙環境や電離圏、地磁気を乱れさせる可能性があり、注意が必要です。また、今回の現象は、現在太陽面中央南寄りにある黒点群2887で発生しているもので、今後1週間ほど地球に影響を与える可能性があり、注意が必要です。
図1. 人工衛星SDOで観測された太陽画像(左: 可視光、右: 紫外線)
図1. 人工衛星SDOで観測された太陽画像(左: 可視光、右: 紫外線)
図2  人工衛星GOESによって観測されたX線強度
図2. 人工衛星GOESによって観測されたX線強度
黒線(GOES16で観測された波長0.1-0.8 nmの強度)のピークが10-4W/m2を越える(赤領域)イベントをXクラスフレアと呼ぶ。

補足資料

太陽フレア現象

太陽の黒点群の領域で生じる爆発現象。この現象に伴い、強い紫外線やX線、電波等が放射される他、高温のガスが放出されるコロナ質量放出(CME)現象が生じることもある。発生したフレアの最大値により、小規模なものからA、B、C、M、Xの順にクラス分けされている。

高エネルギープロトン粒子

太陽フレアやコロナ質量放出に伴って放出される、非常に高いエネルギーをもった粒子。これが地球に到来すると、宇宙飛行士や人工衛星が被曝したり、大規模な現象が起きた場合は航空機乗員などの健康に影響が出る可能性が指摘されている。また、これらの粒子が極域に降り注ぐことで、極域の電離圏で電波の吸収が起こり、無線通信障害が発生することがある。

電離圏: 高さ300km付近で電離ガス(プラズマ)の大気が濃い領域

高さ約60km以上の地球の大気は、太陽からの極端紫外線によってその一部が電離され、プラスとマイナスの電気を帯びた粒子から成る電離ガス(プラズマ)となっている。このプラズマ状態の大気が濃い領域を電離圏と呼ぶ。電離圏は、高さ300km付近でプラズマの濃さ(電子密度)が最も高く、下から、D層(90km以下)、E層(90km〜150km)、F層(150km以上) に分けられる。短波帯の電波を反射したり、人工衛星からの電波を遅らせたりする性質を持つ。電離圏は、太陽や下層大気の活動等のさまざまな影響を受けて常に変動しており、衛星測位や短波通信等にしばしば障害を与える。

コロナ質量放出(Coronal Mass Ejection:CME)

太陽の上層大気であるコロナのガスが惑星間空間に放出される現象。地球に到来すると大規模な宇宙環境変動を引き起こすことがある。

第25太陽活動サイクル

太陽活動はほぼ11年の周期で変動しており、その周期的な変動をサイクルとして1755年から数えている。第25太陽活動サイクルは2019年12月から開始したと考えられている。

本件に関する問い合わせ先

広報部
報道室

E-mail: publicityアットマークnict.go.jp

電磁波研究所
電磁波伝搬研究センター
宇宙環境研究室

E-mail: E-mail: tsugawaアットマークnict.go.jp

・本件に関しては、報道関係以外の個別の問い合わせは行っておりませんので、ご了 解お願いします。
・太陽フレアの状況に関して確認したい方は、以下のサイトをご覧ください。

https://swc.nict.go.jp