金沢大学、名古屋大学、コロラド大学、ミネソタ大学、JAXA宇宙科学研究所、東北大学、京都大学、九州工業大学、ロスアラモス国立研究所、ニューハンプシャー大学、情報通信研究機構、国立極地研究所、アルバータ大学などの国際共同研究グループは、複数の科学衛星で同時計測された電磁波とプラズマ粒子データなどを用いて、宇宙の電磁波が発生する領域を明らかにしたとともに、目には見えない“電磁波の通り道”の存在を世界で初めて突き止め、電磁波が地上へと伝わる仕組みを解明しました。各国が開発した高性能な科学衛星や地上観測装置が連携することで、宇宙環境を立体的にモニタリングできることを示し、将来の宇宙天気予報※1の精度向上に向けた大きな一歩となることが期待されます。本研究成果は、2021年12月8日9時(米国東部標準時)に米国地球物理学連合速報誌『Geophysical Research Letters』のオンライン版に掲載されました。

研究の背景

地球周辺の宇宙空間では、絶えずさまざまな種類の電磁波が自然発生し、波動粒子相互作用※2と呼ばれる物理過程によって宇宙を満たすプラズマ環境を変動させることが知られています。宇宙の電磁波には「生まれた場所から遥か遠方へと伝わる特性」があるため、電磁波がもたらす影響を正しく理解するには,宇宙の電磁波がどこで発生し、どのように伝わっていくかを理解することが重要です。しかしながら、一機の科学衛星による「単地点観測」では、電磁波が空間的に広がって存在する様子や、現象がどこで発生してどのように伝わってきたか、といった謎を解明することが困難でした。

研究成果の概要

  1. 本国際共同研究グループは、日本の科学衛星「あらせ」、アメリカの科学衛星「Van Allen Probes」による宇宙からの観測と、日本が世界各国に展開する「PWING誘導磁力計ネットワーク」、カナダが北米を中心に展開する「CARISMA誘導磁力計ネットワーク」による地球からの観測を連携させ、宇宙で自然発生する電磁波の一種である「イオン波※3」を異なる場所から同時観測することに成功しました。
  2. 各拠点で得られた観測データを比較し、比較的広い空間範囲に励起したイオン波のうち、ストロー状の“通り道”に存在する限られた波だけが、宇宙空間の他の場所や地上へと伝搬していることを明らかにしました。イオン波を伝えるストロー状の経路が、地磁気赤道から地上では約5万キロメートルの長さとなるのに対し、経路の断面は千分の一ほどのスケールしかなく、広い宇宙空間で極めて局所的に伝搬経路が形成されることを解明しました。
  3. 科学衛星「あらせ」と「Van Allen Probes」による精密なプラズマ粒子計測によって、イオン波が“電磁波の通り道”を伝わっていく過程で冷たいプラズマにエネルギーを与え、周辺のプラズマ環境を変化させている様子も合わせて観測されました。イオン波はプロトンオーロラ※4と呼ばれる種類のオーロラを光らせることでも知られており、本研究の成果はプロトンオーロラの元となるエネルギーが宇宙から地上へと伝わる経路を明らかにした、と解釈することもできます。

今後の展開

本研究により、広大な宇宙空間でイオン波を遠方へ伝えるための“電磁波の通り道”が明らかになりました。宇宙の電磁波がどこで発生し、どのように伝わっていくかを把握できたことで、宇宙のプラズマ環境変動がさまざまな場所で同時に起きるメカニズムを明らかにすることができます。この成果をもとにして、安全な宇宙利用に向けた「宇宙天気予報」の精度向上への貢献が期待されます。
 
図1. “電磁波の通り道”を同時多地点観測する様子 © ERGサイエンスチーム
図1. “電磁波の通り道”を同時多地点観測する様子
© ERGサイエンスチーム

掲載論文

雑誌名:Geophysical Research Letters

論文名:Multipoint Measurement of Fine-Structured EMIC Waves by Arase, Van Allen Probe A and Ground Stations(あらせ、Van Allen Probe-Aと複数の地上観測拠点による電磁イオンサイクロトロン波動の同時多地点観測)

著者名:Shoya Matsuda1, Yoshizumi Miyoshi2, Yoshiya Kasahara1, Lauren Blum3, Christopher Colpitts4, Kazushi Asamura5, Yasumasa Kasaba6, Ayako Matsuoka7, Fuminori Tsuchiya6, Atsushi Kumamoto6, Mariko Teramoto8, Satoko Nakamura2, Masahiro Kitahara2, Iku Shinohara5, Geoffrey Reeves9, Harlan Spence10, Kazuo Shiokawa2, Tsutomu Nagatsuma11, Shin-ichiro Oyama2,12, Ian Mann13
(松田 昇也1、三好 由純2、笠原 禎也1、Lauren Blum3、Christopher Colpitts4、浅村 和史5、笠羽 康正6、松岡 彩子7、土屋 史紀6、熊本 篤志6、寺本 万里子8、中村 紗都子2、北原 理弘2、篠原 育5、Geoffrey Reeves9、 Harlan Spence10、塩川 和夫2、長妻 努11、大山 伸一郎2,12、Ian Mann13

1 金沢大学、2 名古屋大学、3 コロラド大学、4 ミネソタ大学、5 JAXA宇宙科学研究所、6 東北大学、7 京都大学、8 九州工業大学、9 ロスアラモス国立研究所、10 ニューハンプシャー大学、11 情報通信研究機構、12 国立極地研究所、13 アルバータ大学

掲載日時:2021年12月8日9時(米国東部標準時)にオンライン版に掲載

DOI:10.1029/2021GL096488

用語解説

※1 宇宙天気予報
太陽活動に伴って発生する、地球周辺の宇宙環境の乱れを予測する技術のこと。
※2 波動粒子相互作用
宇宙の電磁波とプラズマ(電子・イオン)との間でエネルギーの授受が行われる過程のこと。プラズマが高いエネルギーへと加速されるたり、エネルギーを失って散乱されるなどの現象の要因となる。

※3 イオン波
宇宙で自然発生する電磁波の一種。1秒間に1回程度のゆっくりとした振動を伴い、特に宇宙プラズマ中のイオンと波動粒子相互作用を引き起こすことができる。

※4 プロトンオーロラ
イオン波によって散乱された高エネルギーイオンが大気に降り込むことで発生するオーロラのこと。

本件に関する問い合わせ先

電磁波研究所 電磁波伝搬研究センター 宇宙環境研究室

担当:長妻 努

E-mail: tnagatsuアットマークnict.go.jp

金沢大学
理工研究域電子情報通信学系

担当:松田 昇也
職名:准教授

Tel: 076-234-4874

E-mail: matsudaアットマークstaff.kanazawa-u.ac.jp