2019年3月3日から7日まで米国サンディエゴで開催された、光通信分野の最大級の国際会議の一つである第42回光ファイバ通信国際会議(OFC2019)において、NICTネットワークシステム研究所の研究者の論文が高い評価を得て、ポストデッドライン論文(Postdeadline;特別設定の締切りを設けた、世界最高峰の成果が競合する国際会議内での最難関セッション)に3編が選出されました(全21編中)。NICT筆頭著者論文が同時に3編選出されたのは初めてで、今回はNICTと米国のノキアベル研究所のみが3編選出されました。詳細は以下の通りです。

1.0.715 Pb/s Transmission over 2,009.6 km in 19-core cladding pumped EDFA amplified MCF link (19コア一括光増幅器を利用した毎秒0.715ペタビット、距離2,009.6km伝送実験成功) フォトニックネットワークシステム研究室:ベン パットナム、ゲオルグ ラーデマッハ、ルーベン ルイス、ヴェルナー クラウス、淡路 祥成、和田 尚也、未来ICT研究所 量子ICT研究センター:トビアス エリクソン 他

ベン パットナム 主任研究員
ベン パットナム 主任研究員

 将来の大容量光ファイバ通信を実現する新型光ファイバを利用したマルチコア光伝送システムにおいて、19コアマルチコア一括光増幅器(EDFA)を用いた伝送としては、世界記録となる19コア合計で毎秒715テラビットの光信号を、2,009kmの距離にわたって伝送する長距離伝送実験に成功しました。コア数の多いマルチコア一括光増幅器は伝送容量の拡大のみならず集積化への期待が高まっていますが、産官連携で開発した19コアEDFAにおいて全波長帯域を使った高密度波長多重信号を中継増幅し、本州をカバーできる2,000kmを超える大容量中継伝送に成功したことで、高性能な増幅システムとして利用可能であることを実証しました。

 関連プレスリリース
波長帯拡張19コア一括光増幅器を用い、毎秒715テラビット、2,009km伝送成功
https://www.nict.go.jp/press/2019/03/28-1.html

2.Coherent Detection only by 2-D Photodetector Array:A Discreteness-aware Phase Retrieval Approach(高速集積型受光素子と位相回復信号処理による新たなコヒーレント光信号受信手法の提案と実証) ネットワーク基盤研究室:吉田 悠来、梅沢 俊匡、菅野 敦史、山本 直克

吉田 悠来 主任研究員
吉田 悠来 主任研究員

 現在の基幹・メトロ系光ファイバ通信網では、光の位相にも情報をのせて伝送するデジタルコヒーレント通信方式により伝送効率の向上が図られ、同技術の光アクセス等の近距離網への導入検討に向けてシンプルなデジタルコヒーレント技術の研究開発が盛んとなっています。デジタルコヒーレント光受信器では、データを復調するための強力なデジタル電気信号処理回路が用いられていますが、さらにその前の光の段階でローカル光源や光干渉回路などからなる複雑な光前処理回路が必要でした。今回、NICTが独自に開発した1辺が1mmにも満たない高速集積型受光素子と新たな位相回復(Phase Retrieval)アルゴリズム技術を組み合わせることで、光コヒーレント信号のための超小型かつシンプルな光受信器を世界に先駆け実現しました。

3.Field Trial of 1.5-Gbps 97-GHz Train Communication System Based on Linear Cell Radio Over Fiber Network for 240-km/h High-Speed Train(光ファイバ無線ネットワークのリニアセル方式に基づく鉄道向け通信で、時速240kmで走行する高速鉄道と97GHzミリ波による毎秒1.5ギガビットの伝送実験に成功) ネットワーク基盤研究室 菅野 敦史、ファン テイエン ダト、梅沢 俊匡、山本 直克、川西 哲也 他

菅野 敦史 研究マネージャー
菅野 敦史 研究マネージャー

 これまでNICTがリードしてきた光・無線融合基盤技術を応用し、産官連携で開発した高速鉄道向け光ファイバ無線通信システムです。北陸新幹線「かがやき」(富山~金沢間)の地上機器室に中央制御装置を、また線路脇の約2kmの区間に中央制御装置と光ファイバで接続された4局の地上無線局を設置し、列車後部運転席内の車上無線局と地上間での大容量データ伝送試験を行いました。今回、時速約240kmで走行する列車と地上に設置した中央制御装置間で、途切れない毎秒1.5ギガビットの大容量データ通信に成功しました。

 関連プレスリリース
世界初、90GHz帯を用いて時速240kmで走行する列車と地上間で毎秒1.5ギガビットのデータ伝送に成功
https://www.nict.go.jp/press/2019/01/29-1.html