株式会社日立国際電気(代表取締役 社長執行役員 佐久間 嘉一郎/以下、日立国際電気)と公益財団法人鉄道総合技術研究所(理事長 熊谷 則道/以下、鉄道総研)、NICTは、時速約240kmで走行する列車と地上間にて、ミリ波(90GHz帯)無線通信システムを用いて、現行の高速鉄道で利用されている対列車通信システムの750倍となる毎秒1.5ギガビットのデータ伝送実験(以下、本実験)に世界で初めて*成功いたしました。地上無線局をファイバ無線(RoF: Radio over Fiber)でネットワーク接続した点が特徴です。
 
具体的には、北陸新幹線(富山~金沢間)の地上機器室に中央制御装置、線路脇の約2kmの区間に地上無線局を4局、列車の後部運転席内に車上無線局を設置し、伝送試験を行いました(下図参照)。地上無線局は光ファイバで中央制御装置に接続されており、ファイバ無線ネットワークを介して列車を自動追尾し、必要最小限の電波放射で安定した高速通信を維持する機能をもっています。その結果、時速約240kmで走行する列車と地上に設置した中央制御装置間で毎秒1.5ギガビットの大容量データ通信が維持されることを実証しました。
本実験は、総務省・電波資源拡大のための研究開発課題「ミリ波帯による高速移動用バックホール技術の研究開発(研究代表者:日立国際電気)」の成果を実証する取り組みの一環で、西日本旅客鉄道株式会社(JR西日本)の全面的な協力を得て実現したものです。本実験は、日立国際電気、鉄道総研、NICT、国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所 電子航法研究所との共同研究成果により実現しました。
 
図 実証試験システムの構成
図 実証試験システムの構成

背景

スマートフォンやタブレットとインターネットの普及により、「いつでも、どこでも」高速のインターネット環境を利用したいという社会ニーズが顕在化し、高速走行する列車と地上間の高速通信環境の実現に向けた研究開発が各所で実施されています。最近では旅客サービス以外にも、走行車両内の防犯カメラ映像や営業車による軌道検測などで必要とされる大容量データ伝送手段として、ミリ波帯通信技術への期待も高まっています。ミリ波帯は、利用可能な帯域幅が広く毎秒ギガビット級の超高速無線通信を可能とする一方で、その信号生成・増幅の困難さが課題でした。近年の半導体技術の進歩の中で、ミリ波帯デバイスが実用の段階に入りつつあります。ミリ波は、周波数の高い信号であるため伝搬減衰が大きく中長距離の回線設計が困難でした。また、モバイルネットワークを使用して新幹線などでの高速移動中においても通信環境を向上させようという取り組みもありますが、これは基地局を次々と切り替えていく操作(ハンドオーバー)が頻繁に必要となり、実効的な通信速度を確保するのが困難であるという課題がありました。

今回の成果

本実験では、鉄道車両が軌道上を規則正しく走行するという特性に着目し、無線エリアを軌道沿いに構築するシステムを開発しました。具体的にはモバイルネットワークのようにセルが二次元的に並ぶのではなく、一次元の線状にセルを構成する方式を採用することでミリ波信号を必要なところまで光ファイバで低損失に届け、必要最小限の距離を無線信号で伝えることが可能になります。システム構成および地上無線局の配置については鉄道総研が中心となり開発しました。日立国際電気とNICTは、無線信号を光信号に変換し、低損失に光ファイバ伝送するファイバ無線(RoF)技術を開発しました。
車上無線局と地上無線局では本研究開発課題で開発した90GHz帯の化合物半導体を使用しました。地上無線局と中央制御装置はRoF技術で接続し、列車の移動に合わせ自動的に無線エリアを切り替えるシステムを構築しました。このシステムを地上の機器室に中央制御装置、線路脇の電化柱に地上無線局(約2km区間に4局)、列車の後部運転席内に車上無線局とする構成で設置し、走行試験を行いました。その結果、時速240kmで走行する列車と地上の設置した中央制御装置間で現行の高速鉄道で利用されている対列車通信システムの750倍となる毎秒1.5ギガビットの大容量データ通信を地上無線局切り替え時のハンドオーバーなしで実現できることを確認いたしました。

今後の展望

今後は、今回基本技術を確立したミリ波通信とRoF技術を活用した高速鉄道システムに適した新しい無線通信システムを実用化するため、さらなる技術検討と並行し、国際電気通信連合(ITU)において本実験に用いた周波数帯を含む、92.0-109.5GHzの鉄道無線応用に関する国際標準化活動を推進していきます。また、鉄道・航空などインフラ向け電波システム海外展開の一環として、国内外の共同研究機関と協力し積極的な展開に取り組む予定です。


* 2019年1月29日現在、日立国際電気調べ
ITU-R WP5A(https://www.itu.int/en/ITU-R/study-groups/rsg5/rwp5a/Pages/default.aspx)での議論の結果をまとめたレポート「Report ITU-R M.2442-0 “Current and future usage of railway radio communication systems between train and trackside”」を参照

補足資料

A) 実験システムの基本構成

開発したシステムは中央制御装置と線路脇に設置した地上無線局をRoF技術により接続し、中央制御装置では列車の移動に合わせて自動的に無線エリアを切り替えるシステムです(図1)。これにより地上無線局の切り替えに伴うハンドオーバーは原理的には発生しません。車上無線局と地上無線局には日立国際電気が開発した90GHz帯の化合物半導体を使用しました。基本仕様を表1に示します。
 
図 1 実証試験システムの概要
図 1 実証試験システムの概要
表 1 無線局の基本仕様
変調方式 QPSK変調
シンボルレート 250Mbaud
送信信号
中心周波数
(地上無線局→車上無線局)
95.1~96.3GHzにおける400MHz間隔の4波
(車上無線局→地上無線局)
97.9~99.1GHzにおける400MHz間隔の4波
アンテナ利得 (地上無線局)
42dBi
(車上無線局)
36dBi
送信電力 40mW(4波)

B) 伝送試験の結果

図2は列車が時速約240kmで走行する際の、地上・車上間の伝送速度の変化を、基点(地上無線局1から100m位置)からの距離に対してプロットしたものです。今回は実証実験のため、地上無線局設置に制限があり、伝送速度が低下している区間がありますが、車上無線局アンテナの複数化や、地上無線局の最適配置などで改善が可能です。今回のシステムは高速で走行する列車の移動に合わせて、無線エリアを移動させて、車上・地上の無線局間のハンドオーバーなしで接続が維持されています。

 図 2 高速走行時の伝送速度の変化
図 2 高速走行時の伝送速度の変化
図3は本システムで車上の映像信号を地上の中央制御装置に伝送した際の様子を示した写真です。列車の後部運転席に設置したカメラが撮影した動画をリアルタイム伝送しています。これにより、車上の防犯カメラ映像などを地上へリアルタイム伝送できる可能性を示しました。

図 3 運転席内映像を中央制御装置で受信している様子
図 3 運転席内映像を中央制御装置で受信している様子

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