ポイント

  • 高速鉄道の走行に合わせ、通信が途切れないように無線局を適時切り替える通信方式
  • 光ファイバを介してミリ波信号を伝送できるファイバ無線技術により毎秒20Gビットの大容量通信
  • 時速500kmで移動する超高速移動体においても信号の途切れない通信への展開に期待
NICTネットワークシステム研究所は、高速鉄道移動中でもストレスのない通信を可能とする研究開発において、線路に沿って無線局を設置するリニアセル方式と無線信号を光ファイバへ重畳するファイバ無線技術を駆使し、高速移動中に通信を途切れさせないよう無線局を適時切り替える方式を開発し、現在の携帯電話回線の約20倍以上となる毎秒20ギガビットの無線信号の送信に成功しました。
今回の実験成功により、将来の時速500kmを上回る超高速鉄道など、無線局の切替えが頻発する移動体においても円滑な高速通信が可能となることを示しました。
なお、本論文は、光ファイバ通信国際会議(OFC2018)にて非常に高い評価を得て最優秀ホットトピック論文(Post Deadline Paper)として採択されました。

背景

スマートフォンの爆発的普及により、高速鉄道等での移動中にもストレスなく通信できることが望まれていますが、高速移動中では、接続している無線局が頻繁に切り替わるときに、しばしば接続が途切れます。NICTは、共同で総務省・電波資源拡大のための研究開発「ミリ波帯による高速移動用バックホール技術の研究開発」(研究代表者: 株式会社日立国際電気)を受託し、高速鉄道においても信号の途切れないネットワーク技術の研究開発を進めてきました。また、これまでNICTは、光ファイバ通信と大容量無線伝送が可能なミリ波帯の電波の特長を組み合わせたネットワークの研究開発を進めてきました。

今回の成果

図1 高速鉄道向け通信システムのイメージ図
図1 高速鉄道向け通信システムのイメージ図
今回NICTは、ファイバ無線ネットワークにおいて、高速鉄道向け通信システム(図1)に必要な要素技術を開発し、無線局から毎秒20ギガビットの無線信号の送信に成功しました。
開発した技術は以下のとおりです。
・ シームレスに無線局を切り替える技術として、無線局ごとに異なる波長の光信号を割り当て、列車の位置に合わせて、配信する光波長を高速に切り替える方式(補足資料 図2)と、隣り合った2つの無線局へ送信する光信号を制御し、2つの無線局からの無線信号の干渉を低減する方式(補足資料 図3
・ ミリ波信号を利用した大容量無線通信技術(補足資料 図4
一般的に高速鉄道では、運転指令所に列車位置情報が集約されることから、その位置情報を基にして信号配信する無線局を決めることが可能になります。移動している列車に近い無線局へ信号を適時配信することにより、あたかも無線局が列車に付随して移動しているように、移動中も信号途絶のない通信システムの構築が可能になります。
今回の要素技術により、仮に1000m間隔にミリ波無線局が配置され、時速500km(無線局間をおよそ7秒で通過)で走行しても、無線局を切り替えながら毎秒20ギガビットの信号が送信可能になります。

今後の展望

今後、ファイバ無線ネットワーク技術の実装を、総務省・電波資源拡大のための研究開発「ミリ波帯による高速移動用バックホール技術の研究開発」を通じて、株式会社日立国際電気、公益財団法人鉄道総合技術研究所、国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所電子航法研究所ほかと共同で、実際の鉄道路線において実証試験を行い、産学官連携の共同研究開発及び社会実装を加速していきます。

採択論文

国際会議:第41回光ファイバ通信国際会議(OFC2018)
論文名:High-Speed and Handover-Free Communications for High-Speed Trains Using Switched WDM Fiber-Wireless System
著者名:Pham Tien Dat, Atsushi Kanno, Keizo Inagaki, Toshimasa Umezawa, Fançoir Rottenberg, Jérome Louveaux, Naokatsu Yamamoto, Tetsuya Kawanishi

過去のNICTの報道発表

補足資料

1. ファイバ無線技術を用いた高速無線局切替え方式

図2 無線局切替えイメージ図
図2 無線局切替えイメージ図
図2は、今回開発した高速無線局切替え技術のイメージ図である。波長スイッチに、レーザから送信する光の波長に対応するアンテナを設定する。
① 無線局1のエリア移動中
コントローラの制御により、レーザは無線局1と無線局2の波長の光を生成し、同じ情報を送信する。
② 無線局2のエリア移動中
コントローラの制御により、レーザは無線局1の波長生成を停止し、無線局3の波長の光信号を生成、同じ情報を送信する。

2. 2つの無線局からの無線信号の干渉を低減する方式

図3 実験構成の概略図と実験結果
図3 実験構成の概略図と実験結果
図3は、今回の実験構成の概略図とその結果である受信波形である。送信制御を行い、アンテナ1とアンテナ2から到来する電波のタイミングをそろえ、両波形が重なっても、ゆがまずに元の波形を再生できる。本結果により、2つの無線局からの電波の干渉を大幅に低減することが可能になり、途切れない通信が実現可能となる。

3. ミリ波を利用した大容量無線通信技術

図4 ファイバ無線技術でミリ波を送信するイメージ
図4 ファイバ無線技術でミリ波を送信するイメージ
図4は、NICTがこれまで培ってきたファイバ無線技術でミリ波を伝送するイメージである。2つの光周波数の差が電波の周波数と等しくなるように設定し、周波数の揺らぎが少ない光信号を発生し、光ファイバ中を伝送させる。無線局では、2つの光成分の干渉からミリ波帯の電気信号を得て、増幅した後にアンテナから電波として送信する。また、逆にミリ波帯の電波を受信し、光信号に変換して光ファイバ中を伝送させることも可能である。光ファイバは、金属の電気信号ケーブルと比較して伝搬損失が極めて少ないため、ファイバ無線技術は、周波数の高い電気信号を長距離伝送できる特長がある。

用語解説

リニアセル方式
無線局のカバーするエリア(セル)を直線状に配置した構成のこと。通常のモバイル無線では、面をカバーするために平面上に配置する必要があるが、鉄道や高速道路などは一直線に細長いセルをいくつも直線上に配置することになる。無線信号を放射する方向を限定し、アンテナの指向性を高めることで、一般的に到達距離が短いミリ波でも数100m以上のセルが実現可能である。また、鉄道では移動方向が既知であることから、従来のモバイル無線に比べて、移動する次のセルが予想しやすく、効率的な信号配信が可能になる。
リニアセル方式
ファイバ無線技術
無線信号で光信号を変調することで、無線信号を直接光ファイバで伝送する技術。携帯や地上デジタル放送の電波不感地帯対策で既に利用されている。
無線局切替え
モバイル通信などでは、無線局がカバーするセルから次のセルへ端末が移動するときに、無線局上流において端末情報のやり取りなどが発生する。その切替え(ハンドオーバー)では、通常数ミリ秒~数秒のデータ通信途絶が起こり、実効的なデータ通信速度が低下する。また、将来の大容量無線通信を実現するには、周波数が高い電波を利用する必要があるが、一般的に周波数が高い電波は到達距離が短くなるため、無線局を多く配置する必要がある。特に高速鉄道では頻繁に無線局の切替えが発生し、結果として通信途絶の時間が増え、接続性の低下につながる。本システムでは、あらかじめ位置情報が分かっていることから、その情報を基に適切な信号配信を行うことで、通信途絶を極小化することが可能になる。
無線局切替え

本件に関する問い合わせ先

ネットワークシステム研究所
ネットワーク基盤研究室

菅野 敦史、山本 直克、Pham Tien Dat

Tel: 042-327-6876、6982

E-mail: ldp-inquiryアットマークml.nict.go.jp

広報

広報部 報道室

廣田 幸子

Tel: 042-327-6923

Fax: 042-327-7587

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