ポイント

  • マルチモード光ファイバの性質を持つ結合型3コア光ファイバで大容量長距離伝送の世界記録
  • 一般的なマルチモード光ファイバと比べて信号処理の負荷が小さく、伝送システムの省電力化に貢献
  • 既存設備でケーブル化が可能な標準外径で、大容量基幹系通信システムの早期実用化に期待
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT、理事長: 徳田 英幸)ネットワークシステム研究所のラーデマッハ ゲオルグ フレデリック研究員らのグループは、NOKIA Bell Labs(ベル研(米国)、President: Marcus Weldon)のRoland Ryf研究員のグループと共同で、標準外径(0.125 mm)結合型3コア光ファイバを用いた、毎秒172テラビットで2,040 kmの大容量・長距離伝送実験に成功しました。
この結果は、伝送能力の一般的な指標である伝送容量と距離の積に換算すると、毎秒351ペタビット×kmとなり、標準外径の新型光ファイバのこれまでの世界記録の約2倍になります。
本実験に用いた結合型マルチコア光ファイバは、伝送後の受信側に信号処理が必要ですが、同様に信号処理が必要な一般的なマルチモード光ファイバと比べて受信側の信号処理の負荷が小さく、伝送システム全体の省電力化に貢献します。また、標準外径光ファイバは、既存設備でケーブル化が可能で、高密度マルチモード伝送の早期実用化が期待できます。
なお、本実験結果の論文は、第43回光ファイバ通信国際会議(OFC2020)にて非常に高い評価を得て、最優秀ホットトピック論文(Post Deadline Paper)として採択されました。

背景

増大し続ける通信トラヒックに対応するため、従来の光ファイバの限界を超える新型光ファイバと、それを用いた大規模光伝送の研究が世界中で盛んに行われています。究極の大容量を追求する研究では、光ファイバのコアを増やし、各コアに異なるモードの光信号を伝送するマルチコア・マルチモード光ファイバが研究されています。一方、早期実用化を目指した研究では、製造方法や扱いやすさなど考慮した標準外径(0.125 mm)程度のマルチコア又はマルチモード光ファイバの研究が行われています。

今回の成果

図1
図1 今回の成果及びこれまでに報告された標準外径光ファイバ伝送容量と距離
今回は、ベル研の実施した、結合型マルチコア光ファイバにおける抑圧されたモード分散特性を利用した長距離伝送実証実験結果を基に、NICTが大容量・長距離伝送システムを構築し、359波長を16QAM変調し、合計毎秒172テラビット光信号の2,040 km伝送に成功しました(図1参照)。これは、伝送能力の一般的な指標である伝送容量と距離の積に換算すると、毎秒351ペタビット×kmとなり、これまでの世界記録(NICT)の約2倍になります。
結合型マルチコア光ファイバは、マルチモード光ファイバと同様に受信側では信号処理(MIMO処理)によって干渉を除去する必要があるものの、各コアの伝搬損失のばらつきが小さい(モード分散が抑圧されている)特性があり、長距離伝送に適しています。また、この特性により信号処理の負荷を小さくすることができるため、マルチモード光ファイバと比べ伝送システム全体の省電力化が可能です。
しかし、これまでは限られた信号帯域(波長範囲換算で5 nm以下)でしか伝送が行われておらず、長距離伝送特性と大容量伝送の両立が可能かどうかは不明でした。
今回、標準外径の光ファイバを用いて、日本の基幹系通信容量(毎秒10テラビット)の17倍である毎秒172テラビットの2,040 km伝送に成功しました。標準外径の光ファイバは、実際に敷設を行うケーブル化の際に、既存の設備を流用することが可能で、大容量基幹系通信システムの早期実用化が期待できます。
 
図2
図2 これまでNICTが開発した標準外径・準標準外径の新型光ファイバ

今後の展望

今後、ますます増加していく、5Gを利用したサービスや海底ケーブルを経由した国際間通信などのトラヒックをスムーズに収容可能な未来の光通信インフラ基盤技術の研究開発に取り組んでいきます。
なお、本実験の結果の論文は、米国サンディエゴで開催された光ファイバ通信関係最大の国際会議の一つである第43回光ファイバ通信国際会議(OFC2020、3月8日(日)~3月12日(木))で非常に高い評価を得て、最優秀ホットトピック論文(Post Deadline Paper)として採択され、現地時間3月12日(木)に発表します。

採択論文

国際会議: 第43回光ファイバ通信国際会議(OFC2020) 最優秀ホットトピック論文(Post Deadline Paper)
論文名: 172 Tb/s C+L Band Transmission over 2040 km Strongly Coupled 3-Core Fiber
著者名: Georg Rademacher, Ruben S. Luís, Benjamin J. Puttnam, Roland Ryf, Sjoerd v. d. Heide, Tobias A. Eriksson, Nicolas K. Fontaine, Haoshuo Chen, Ren'e-Jean Essiambre ,Yoshinari Awaji, and Hideaki Furukawa

過去のNICTの報道発表

補足資料

1. 今回開発した伝送システム

図5
図5 伝送システムの概略図
図5は、今回開発した伝送システムの概略図を表している。
① 359波の異なる波長を持つレーザ光を一括して生成する。
② 光コム光源の出力光に偏波多重16QAM変調を行い、遅延差を付けて擬似的に異なる信号系列とする。
③ 各信号系列は結合型3コア光ファイバの各コアに入射する。
④ 60 km長の結合型3コア光ファイバを伝搬後、周回スイッチを経由して再度結合型3コア光ファイバに導入される。このループ伝送の繰り返しにより、最終的な伝送距離は2,040 kmに達した。
⑤ 各コアの信号をそれぞれ受信し、6×6規模のMIMO信号処理を行って信号を分離し、伝送誤りを測定した。

2. 実験結果

図6
図6 実験結果
上記図5の実験系において、送信及び受信時に誤り訂正処理などの様々な符号化を適用することで、システムの伝送能力(データレート)を最大限効率化するための検証を行った。
図6の実験結果のグラフは、誤り訂正を適用した結果で、多少ばらつきがあるものの359波長がほぼ均等で安定したデータレートが得られ、合計で毎秒172テラビットを実現した。

用語解説

標準外径光ファイバ
図3
図3 広く利用されている標準外径シングルコア・シングルモード光ファイバの断面イメージ
国際規格で光ファイバのガラス(クラッド)の外径は、0.125±0.0007 mm、被覆層の外径が0.235~0.265 mmと定められている。現在の光通信で広く使用されている光ファイバは、外径0.125 mmのシングルコア・シングルモード光ファイバで、毎秒150テラビットが容量の限界と考えられており、新型光ファイバの研究開発が盛んに行われている。
結合型マルチコア光ファイバ
一般的な(非結合型)マルチコア光ファイバは、コア間の信号干渉(クロストーク)を低減するために、コア間を適切に広げコア内に信号を閉じ込めている。長距離伝送では非線形光学効果による信号の歪みが生じ、伝送後は受信機側で各コアの信号処理が必要になる。
マルチモード光ファイバは、コア径を大きくし、一つのコア内を複数のモードで伝搬する。各モードが混在して受信されるため、受信側では、ほぼ必ずMIMO処理が必要になる。この際、モードによる光信号の到達時間の差が信号処理の負荷を増大させる。
結合型マルチコア光ファイバは、コア間の信号干渉(クロストーク)を受信機側のMIMO処理によって補償(除去)する前提でコアを配置している。コア間隔が狭いため、高いコア密度を得ることができる。各コアをそれぞれ信号が伝搬するが、各コアがランダムに結合することで、それぞれの信号はマルチモードのように混ざり合ってしまうため、受信側でMIMO処理をして分離しなければならない。
いずれのファイバも伝送後の信号処理は必要であるが、利用場所や距離に応じた選択が重要になる。
図4
図4 結合型マルチコア/非結合型マルチコア/マルチモード光ファイバの比較
伝送容量と距離の積
光ファイバ伝送の最大の利点は、光の波長領域の広さを活かし多くの波長を利用する大容量と、長距離伝送でも信号劣化が少ない搬送能力である。したがって、光伝送システムの伝送能力の一般的な指標として、容量や距離だけではなく、それらの積で表現したものが用いられることがある。
ベル研の結合型マルチコア光ファイバにおける抑圧されたモード分散特性を利用した長距離伝送実証実験結果
様々なマルチモード光ファイバにおける伝送実験が報告される中、ベル研において、結合型マルチコア光ファイバを用いたマルチモード伝送が実施された。結合型マルチコア光ファイバは2009年に國分康雄教授(当時、横浜国立大学)・小柴正則教授(当時、北海道大学)によって提唱されたマルチコア光ファイバの一種であるが、通常のマルチコア光ファイバと異なり、各コアの伝搬モードが結合された状態ではマルチモード光ファイバと似た振る舞いをする。ベル研の伝送実験においては、単一コアのマルチモード光ファイバに比べて、各モードの伝搬遅延差(モード分散)が極小に抑圧でき、モード分離のための信号処理の負荷を極めて小さくすることが可能であることを実証した。

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