国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学、ソフトバンク株式会社、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)、National Research Tomsk State UniversityおよびTomsk Polytechnic Universityの研究グループ(以下「本研究グループ」)は、Beyond 5G/6G※1時代を見据え、300GHz帯テラヘルツ無線(以下「テラヘルツ無線」)で動作する超小型アンテナの開発に成功しましたのでお知らせします。
 
近年、無線通信の高速化・大容量化の要求によって、100Gbps以上の伝送速度を実現するBeyond 5G/6G技術に関する研究開発が世界的に開始されつつあります。テラヘルツ無線は、5Gで利用されるミリ波帯と比べて、より広い周波数帯域が利用可能なため、超高速無線システムの候補として期待されています。一方で、テラヘルツ無線の周波数は伝搬損失が大きく、実用化するには利得※2の高いアンテナの開発が必須となります。アンテナの寸法を大きくすることで利得は向上しますが、スマートフォンなどへの実装を考えると、小型で利得の高いアンテナの開発が必要不可欠であり、サイズと利得の両立が課題とされていました。
 
このたび本研究グループは、無線信号波長(約1mm)と同程度の大きさの直方体型誘電材料を使用することで発生するフォトニックジェット効果※3に着目して、小型アンテナの開発に応用しました。開発したアンテナは、利得を約15dBi(シミュレーション値)と大きく保ったまま、無線信号波長と同程度の1.36 mm×1.36 mm×1.72 mmというサイズ(開口面積:1.8 mm2)を実現しました。アンテナの開発に加えて、現在開発が進められているテラヘルツ無線に対応するトランシーバーの出力パワーと受信感度の性能が向上することで、テラヘルツ無線通信技術の実用可能性が広がります。
 
今後は、テラヘルツ無線伝送システムに超小型アンテナを適用して、無線送受信機の実現可能性を調査します。無線信号波長と同サイズの小型化アンテナの実現によって、テラヘルツ無線で動作する集積回路への実装を可能にし、Beyond 5G/6G時代の超高速無線通信などの実用化に貢献することが期待されます。
 
今回の研究成果は、2020年6月1日から30日までオンラインで開催される国際会議「EuCAP2020 (14th European Conference on Antennas and Propagation)」において、「"High-gain and Low-profile Dielectric Cuboid Antenna at J-band,” Y. Samura, K. Yamada, O. V. Minin, A. Kanno, N. Sekine, J. Nakajima, I. V. Minin, and S. Hisatake (Jバンドにおける高利得小型誘電体キューブアンテナ)」の名称で採択されました。
 
今後もBeyond 5G/6G時代の超高速無線通信などの実用化に向けた研究開発を加速し、通信事業の発展に貢献していきます。
 
今回の研究成果の詳細は、別紙をご覧ください。
 
※1 第5世代移動通信システム(5G)の次の無線アクセスシステムを指す。5Gの特長(超高速、超低遅延、多数同時接続)のさらなる高度化に加えて、高信頼化やエネルギー効率の向上など新たな技術革新が期待されています。
※2 アンテナに入力された電力に対して、アンテナ正面方向にどの程度の電力を出力できるのかを数値化したもの。利得が高ければ、より指向性が強い電波を放射することが可能になります。
※3 波長オーダーの誘電体構造に電磁波を照射することで、誘電体の後ろに発生する現象のこと。透過発生したフォトニックジェットを測定して、アンテナ本体の性能を明らかにしました。
開発した超小型アンテナ
<開発した超小型アンテナ>
 ※大きさを比較するためにスマートフォン上に配置
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 その他、このプレスリリースに記載されている会社名および製品・サービス名は、各社の登録商標または商標です。

別紙

Beyond 5G/6Gに向けたテラヘルツ無線通信用の
アンテナ開発の研究成果について

研究成果のポイント

  • スマートフォンへのテラヘルツ無線実装を実現する波長オーダー(1.36 mm×1.36 mm×1.72 mm)の超小型アンテナの開発に成功
  • アンテナ利得を同程度としたホーンアンテナと比較して体積が40%程度にまで小型化
  • 同寸法のホーンアンテナと比較して、テラヘルツ無線のビーム幅をE面で80%、H面で70%程度に狭窄化

開発した技術の詳細

一般的に、無線通信システムを実現するために、アンテナは必要不可欠です。アンテナ利得が大きいアンテナでは、伝搬する無線信号強度を増強する効果があり、テラヘルツ無線のように伝搬損失が大きい無線システムでは、高アンテナ利得のアンテナ素子が必要不可欠です。しかしながら、図1に示すように、アンテナ利得とアンテナ開口面積は比例関係を有しており、高アンテナ利得の実現にはアンテナ開口面積の大口径化が必須でした。
 
今回の研究開発では、フォトニックジェットを発生させる直方体誘電材料を用いたアンテナ(Dielectric Cuboid Antenna: DCA)をテラヘルツ無線アンテナとして利用することで、アンテナ利得を15dBi(シミュレーション値)程度と比較的大きく保ったまま、開口面積1.8 mm2の小型化が実現できました。これは、同程度のアンテナ利得のホーンアンテナと比較して体積がおよそ40%程度にまで小型化されることに相当します。同寸法のホーンアンテナと比較した場合は、3dBビーム幅(FWHM)がE面で80%程度、H面で70%程度に狭窄化されたことに相当します。
 
図1.
図1. アンテナ開口面積とアンテナ利得との関係。
※これまでの先行研究開発の成果と本成果との優位性。
このアンテナから放射された300GHzテラヘルツ電磁波の、アンテナ開口面での電界分布の実測結果を図2に示します。放射された電磁波の位相分布はアンテナ開口面で一様となり、位相に敏感な無線通信にも実現可能であることを確認しました。
図2.
図2. 開発したアンテナの近傍界(実測)。
※振幅分布と位相分布を示している。開発したアンテナ(DCA)の開口を併せて示している。
DCAの放射パターン(E面)の実測による推定結果と、シミュレーションによる数値計算結果を併せて図3に示します。実測した近傍界分布を遠方界に変換することで、推定放射パターンとして示しています。得られた放射パターンはシミュレーション結果と非常によく一致しており、3dBビーム幅(FWHM)の実測値はE面で23度でした。
図3.
図3. 開発したアンテナ(DCA)の遠方界(E面)。
※メインローブについてはシミュレーション結果と実測結果はよく一致している。
今回の研究開発で実現した小型DCAをスマートフォンなどへ実装することにより、100Gbpsを超えるBeyond 5G/6Gデバイスの実現が期待されます。

参考文献

[1] Takuro Tajima, Ho-Jin Song, Katsuhiro Ajito, Makoto Yaita, and Naoya Kukutsu,  “300-GHz step-profiled corrugated horn antennas integrated in LTCC”, IEEE Transactions on Terahertz Science and Technology, Volume. 62, Issue. 11, pp.5437-5444, Nov. 2014.
[2] Kuikui Fan, Zhang-Cheng Hao, Quan Yuan, and Wei Hong, “Development of a High Gain 325-500 GHz Antenna Using Quasi-Planar Reflectors”, IEEE Transactions on Antennas and Propagation, Volume. 65, Issue. 7,  pp.3384-3391, July 2017.
[3] Karim Tekkouk, Jiro Hirokawa, Kazuki Oogimoto, Tadao Nagatsuma, Hiroyuki Seto, Yoshiyuki Inoue, and Mikiko Saito, “Corporate feed slotted waveguide array antenna in the 350 GHz band by silicon process”, IEEE Transactions on Antennas and Propagation, Volume. 65, Issue. 1, pp.217 - 225, Jan. 2017 .
[4] Karim Tekkouk, Jiro Hirokawa, Kazuki Oogimoto, Tadao Nagatsuma, Hiroyuki Seto, Yoshiyuki Inoue, and Mikiko Saito, “Corporate-Feed Slotted Waveguide Array Antenna at 350 GHz Band by Silicon Process”, Antennas and Propagation Society International Symposium, 26 June-1 July, 2016.
[5] Huan Yi, Shi-Wei Qu, Kung Bo Ng, Chi Hou Chan, and Xue Bai, “3D printed millimeter-wave and terahertz lenses with fixed and frequency scanned beam”, IEEE Transactions on Antennas and Propagation, Volume. 64, Issue. 2, Jan. 2015.

本件に関する問合せ先

研究に関すること

岐阜大学工学部

准教授 久武 信太郎

電話:058-293-2732

E-mail: hisatakeアットマークgifu-u.ac.jp

報道担当

国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学管理部総務課広報係

電話:058-293-3377

E-mail: kohosituアットマークgifu-u.ac.jp

ソフトバンク株式会社 広報本部

電話:03-6889-2301

E-mail: sbprアットマークg.softbank.co.jp

国立研究開発法人情報通信研究機構 広報部 報道室

電話:042-327-6923

E-mail: publicityアットマークnict.go.jp