• English
  • 印刷

イオン光周波数標準器は、電場で捕捉されたイオンの光周波数領域の量子遷移を利用して、高精度な周波数の基準を実現します。本グループでは、インジウムイオン(In⁺)を用いた光周波数標準器の実現を目指し、その狭線幅遷移(時計遷移)の周波数計測に取り組んでいます。

インジウムイオンを捕捉するトラップ電極

イオンの捕捉にはイオントラップと呼ばれる技術が用いられ、単一原子のゼロ電場の位置での捕捉が可能であり、イオンの運動や他のイオンとの衝突等の影響を避けた、理想的な状態で周波数計測を行うことができます。また、一般的に同じ光周波数標準器である中性原子の光格子型周波数標準器と比較しても装置が小さく、小型・可搬型の装置開発が期待されています。

異なる配置でトラップされたCa⁺イオンとIn⁺イオン

本グループが研究しているIn⁺はアルカリ土類型の電子配置を持っていて、イオントラップ電極より生じる電場の影響だけでなく隣り合ったほかのイオンの電場の影響にも鈍感です。また紫外光遷移を利用した汎用的な手法で量子状態の検出が可能であり、アルミニウムイオンなどの他のアルカリ土類型イオンよりもシステムが簡易となります。これらの特徴からIn⁺光時計は、より高精度な周波数計測が可能になると共に、イオン時計の周波数計測時間短縮を可能にする次世代の周波数標準である「複数個イオン光周波数標準」の有力な候補となります。本グループでは隣り合ったイオンの電場に対して鈍感であるというインジウムの性質を利用し、インジウムイオンの効率的な冷却のために同じトラップ中にカルシウムイオン(Ca⁺)を入れて共同冷却する手法を採っています。

2017年には単一In⁺イオン光時計の時計遷移周波数計測を実現し、国際度量衡委員会(CIPM)の推奨値の改訂に貢献しました。また、2020年にはIn⁺イオン光時計とSr光格子時計との周波数比計測も行いました。このような光時計同士の直接比較測定では、現在の周波数標準であるCs原子時計の不確かさの限界を超えた計測が可能であるという利点があります。

参考文献

1) N. Ohtsubo, Y. Li, N. Nemitz, H. Hachisu, K. Matsubara, T. Ido, K. Hayasaka, Frequency ratio of an ¹¹⁵In⁺ ion clock and a ⁸⁷Sr optical lattice clock, Opt. Lett. 45, 5950 (2020)

2) N. Ohtsubo, Y. Li, N. Nemitz, H. Hachisu, K. Matsubara, T. Ido, K. Hayasaka, Optical clock based on a sympathetically-cooled indium ion, Hyperfine Interact. 240, 39 (2019)

3) N. Ohtsubo, Y. Li, K. Matsubara, T. Ido, K. Hayasaka, Frequency measurement of the clock transition of an indium ion sympathetically-cooled in a linear trap, Opt. Express 25, 11725 (2017)

4) K. Wakui, K. Hayasaka, T. Ido, Generation of vacuum ultraviolet radiation by intracavity high-harmonic generation toward state detection of single trapped ions, Appl. Phys. B 117, 957 (2014)

5) K. Hayasaka, Synthesis of two-species ion chains for a new optical frequency standard with an indium ion, Appl. Phys. B 107, 965 (2012)