研究概要
酸化ガリウム電子デバイス研究
はじめに
酸化ガリウム(Ga2O3)は、シリコン(Si)や炭化ケイ素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)に続く次世代の超ワイドバンドギャップ半導体として注目されています。 当研究室は、2012年に世界で初めて単結晶β-Ga2O3トランジスタを実証した研究を礎として、酸化ガリウム電子デバイス研究を推進してきました。 これまでに培ってきた材料・デバイス・シミュレーション技術を活用し、従来の半導体では動作が困難であった高放射線環境や高温環境などの極限環境領域の開拓に取り組んでいます。
現在は、耐放射線デバイス、高温動作デバイス、熱管理技術を主要な研究テーマとし、酸化ガリウムが持つ潜在能力の解明と、その性能を最大限に引き出すデバイス技術の創出を目指しています。
耐放射線デバイス
現在、シリコンをはじめとする半導体材料は、スマートフォンやコンピュータを含む幅広い電子機器に利用されています。しかし、宇宙空間や原子力施設周辺などの高放射線環境では、放射線によってデバイス内部に電荷が蓄積し性能が徐々に劣化する総電離線量効果(TID: Total Ionizing Dose)や、1個の高エネルギー粒子の入射によって誤動作や故障が発生するシングルイベント効果(SEE: Single Event Effects)が問題となります。また、放射線によって結晶中の原子配列が乱されて欠陥が形成される変位損傷(DD: Displacement Damage)も、デバイス性能や信頼性を低下させる要因の一つです。そのため、極限環境下でも安定して動作可能な新しい半導体材料が求められています。
酸化ガリウムが持つ優れた耐放射線特性に世界に先駆けて着目し、放射線環境で動作する次世代電子デバイスの研究開発を推進しています。これまでに、ガンマ線を用いた照射実験を通じて、高線量環境下でも優れたデバイス特性を維持できる可能性を示してきました。 現在は、宇宙・原子力分野をはじめとする極限環境での利用を見据え、耐放射線性と高周波性能を両立するデバイス構造の開発を進めています。酸化ガリウムが持つ優れた物性を最大限に活用することで、従来の半導体では実現が難しい環境下でも安定して動作する電子デバイス技術の確立を目指しています。
高温動作環境への対応
シリコンをはじめとする従来半導体は、高温環境下ではリーク電流の増加や材料特性の変化が生じるため、安定した動作を維持することが難しくなります。そのため、航空・宇宙機器、自動車、地熱・資源探査装置など、電子機器が高温環境にさらされる用途では、温度による性能や信頼性の制約が課題となっています。
酸化ガリウムは、超ワイドバンドギャップ半導体に分類され、高温環境においても優れた電気特性を維持できることが期待されています。 これまでに、高温環境下におけるデバイス動作実証や劣化メカニズムの解明を行い、その有効性を示してきました。 現在は、高温環境下における信頼性向上に向けて、デバイス構造やプロセス技術の研究を進めています。 冷却装置への依存を低減し、システム全体の小型化・軽量化・省エネルギー化につながる次世代高温動作デバイスの実現を目指しています。
デバイスの熱管理技術
酸化ガリウムは優れた耐放射線性や高温動作特性を有する一方で、熱伝導率が比較的低いため、デバイス動作時に発生する熱が局所的に蓄積しやすいという課題があります。この自己発熱によるホットスポットは、出力特性や信頼性を制限する重要な要因となっています。
当研究室では、TCADシミュレーションや熱解析技術を活用し、デバイス内部の電界分布や温度分布を評価するとともに、自己発熱がデバイス特性に及ぼす影響を解析しています。また、効率的な放熱を実現するデバイス構造の研究開発にも取り組んでいます。 材料特性とデバイス設計を最適化することで、酸化ガリウムデバイスが本来持つ性能を最大限に引き出す熱設計技術の確立を目指しています。 これにより、高出力・高効率・高信頼な次世代パワーデバイスおよび高周波デバイスの実現に貢献します。