ポイント

  • 深さ方向にもサブミクロンの分解能を持つ高速3次元蛍光顕微鏡システムを開発
  • 蛍光体の3次元情報をホログラムとして記録するため、スキャンが不要で測定の高速化を実現
  • 測定を高速化するアルゴリズムの開発で1,000分の1秒以下での測定が期待、カラー化も可能
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT、理事長: 徳田 英幸)、国立大学法人東北大学(東北大学、総長: 大野 英男)及び学校法人桐蔭学園(桐蔭横浜大学、学長: 溝上 慎一)の研究グループは、サブミクロンの分解能を持つ高速ホログラフィック蛍光顕微鏡システムの開発に成功しました。蛍光体の3次元情報をホログラムとして記録するため、スキャンが不要で、高速化ができます。さらに、測定を高速化するアルゴリズムの同時開発で、高速な位相変調素子を適用できるようになり、1,000分の1秒以下での測定が期待できます。また、カラー化の実証にも成功しています。本システムが実用化されれば、動きのある物体を測定でき、3次元動画での観察ができる顕微鏡に発展します。
本成果は、日本時間2021年1月29日(金)13:00に、米国科学雑誌「Optics Letters」に掲載されます。

背景

図1
図1 今回開発した高分解能・高速ホログラフィック蛍光顕微鏡システムの概略
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デジタルホログラフィは3次元画像情報をホログラムとしてセンシングできる技術であり、世界的な研究・開発によってレーザ光だけでなく自然な光もホログラムとして記録できるようになりました。あらゆる光学顕微鏡にホログラムセンシングの機能を与えられるため、3次元蛍光顕微鏡、他の光学顕微鏡への応用が期待されています。
NICTらの研究グループでは、自然な光のカラーホログラムを高速に記録する3次元顕微鏡を開発し、これまでに、数10ミクロンの多数の蛍光体を1回の露光でカラーホログラムセンシングしてきました。一方で、前回の報道発表(2020年7月22日付け)では、深さ方向の分解能が低かったため、1ミクロン以下の大きさの物体を3次元的にセンシングできませんでした。

今回の成果

このたび、本研究グループは、デジタルホログラフィに基づき、スキャンが不要で、高倍率、高分解能な、高速ホログラフィック蛍光顕微鏡システムを開発しました(図1参照)。直径0.2ミクロンの蛍光体を試料として、深さ方向にも定量的にサブミクロンの分解能を持つことを実証しました(図2参照)。図2に示すように、蛍光をホログラムとしてセンシングすることにより、多数の蛍光体を同時に3次元センシングすることに成功しました。さらに、測定を高速化する信号処理アルゴリズムを同時開発したことにより、位相変調素子の1回の変調で3次元センシングできるようになりました。この結果から、高速な位相変調素子を適用できるようになり、1,000分の1秒以下での測定が期待できます。
本システムを計算コヒーレント多重方式と融合させることで、カラー化の実証にも成功しました。開発したアルゴリズムを計算コヒーレント多重方式に適用することで、少ないホログラムの枚数でカラー3次元センシングできるため、ホログラム1枚当たりの光量を多く取れるようになりました。
 
図2
図2
左上: 開発したシステムにより得られた、異なる深さにある蛍光粒子の再生像(粒径約0.2 μm、矢印が合焦した粒子)、
右上: 紫矢印が示す蛍光粒子のx-z面画像、深さzごとに集光・発散する様子を画像化したもの、
左下: 面内方向における蛍光粒子の再生像の半値全幅(FWHM)のグラフ、
右下: 深さ方向における蛍光粒子の再生像のFWHMのグラフ

今後の展望

細胞内の物質など動きのある物体を観察するために、サブミクロンの物体をホログラムの動画としてセンシングできる、3次元動画顕微鏡へ展開する予定です。また、定量的な位相情報を得ることで、深さ方向の分解能を更に高めます。そして、非常に小さな物体から来る蛍光は、量子光学レベルで弱い光とされており、その様な光でも鮮明なカラーホログラムとしてセンシングするための方法を開発します。図1のシステムは、ホログラフィシステムでありながら振動に強いため、コンパクト化し、持ち運び可能な3次元顕微鏡装置とすることを将来の目標に掲げています。

各機関の役割分担

  • 情報通信研究機構(NICT): 高分解能・高速ホログラフィック蛍光顕微鏡システムとカラー化、アルゴリズムの開発
  • 東北大学: 高分解能・高速ホログラフィック蛍光顕微鏡システムの共同開発
  • 桐蔭横浜大学: ホログラフィック蛍光顕微鏡システムのカラー化における実験試料の作製

論文情報

掲載誌: Optics Letters
DOI: 10.1364/OL.414083
論文名: Two-step phase-shifting interferometry for self-interference digital holography
著者: Tatsuki Tahara, Yuichi Kozawa, Ayumi Ishii, Koki Wakunami, Yasuyuki Ichihashi, and Ryutaro Oi

関連する過去の報道発表

用語解説

位相変調素子
波長以下、又は1波長を超える程度で光波を進ませたり遅らせたりすることで、光波の振動のタイミングをずらす素子。具体的には、素子の屈折率が変わることで、光波が進んだり遅れたりする。液晶素子など、電圧で制御される複屈折材料などが用いられる。強誘電性の液晶素子やEO素子など、1秒間に1,000回以上駆動する、高速な位相変調素子もある。
デジタルホログラフィ
被写体から来る、3次元の情報を含む光波の干渉縞画像(ホログラム)をデジタル記録し、デジタル記録されたホログラムから被写体の3次元情報を像再生する技術(図3は技術の概略)。ホログラムのデジタル記録には、干渉光学系(干渉計)とイメージセンサを用いる。デジタル記録されたホログラムから被写体の3次元情報を数値再生する際には、ホログラムに対する各種信号処理アルゴリズム、回折積分などの像再生手続を計算機にて計算する。干渉計を工夫することにより、自然な光のホログラムをデジタル記録することも可能で、図4に示す干渉計により、単一の光路で蛍光など自然な光のホログラムをデジタル記録することが可能である。
 
図3
図3 デジタルホログラフィの概略
ホログラムのデジタル記録システムと、記録されたホログラムの像再生システムから構成
図4
図4 蛍光ホログラムのデジタル記録システムの写真
計算コヒーレント多重方式
複数の物理量を空間的に重ねて記録する、多重ホログラフィの一つ。図5に示すとおり、ホログラムの記録の際に、ホログラムを作る、複数の波長(色情報)を含む物体光波1、2のどちらかに、波長ごとに異なる位相変調のパターンを与える。そして、位相変調を与えながら、ホログラムを記録する。その後、記録されたホログラムから、計算機で、像を再生する。その際、波長ごとに異なる位相変調のパターンを使って、求めたい波長の光波だけを再生する。求めたい波長の光波を分けて再生することで、色情報と3次元画像の情報を再生する。
 
図5
図5 計算コヒーレント多重方式の概略。上段: 記録光学系、下段: 計算機内の像再生手続の物理的解釈
なお、本研究の一部は、物質・デバイス領域共同研究拠点 基盤共同研究(No. 20201164)、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 さきがけ「非回折と自己湾曲性を駆使した3次元高速光イメージング(研究者: 小澤 祐市)(JPMJPR15P8)」「多数自然光源の瞬間同時ホログラフィックマルチカラーセンシング(研究者: 田原 樹)(JPMJPR16P8)」、「有機‐無機ハイブリッド界面を利用した一光子センシング技術の創出(さきがけ専任研究者: 石井 あゆみ)(JPMJPR17P2)」、文部科学省科学研究費補助金基盤研究(B) 18H01456の助成を受けて行われました。

本件に関する問合せ先

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電磁波研究所 電磁波応用総合研究室

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Tel: 042-327-7576

E-mail: taharaアットマークnict.go.jp

JST事業に関すること

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グリーンイノベーショングループ

嶋林 ゆう子

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広報(取材受付)

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広報部 報道室

廣田 幸子

Tel: 042-327-6923

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多元物質科学研究所 広報情報室

伊藤

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学校法人桐蔭学園(桐蔭横浜大学)
研究推進部

星川 朋美

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国立研究開発法人科学技術振興機構
広報課

E-mail: jstkohoアットマークjst.go.jp